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ギホー部へようこそ 2-3 社外秘の報告書をこっそり漁っていると、新田に見つかり…

前回までのあらすじ
大手医療機器メーカーの広報部で働いている村山里穂は、ある日突然『部署留学』という新しい制度の対象として選ばれ、研究所内にある『技術報告書管理部』通称“ギホー部”へ一時的に移動することに。そんな時、食事会で知り合った早川拓実から、義理の姉・美希の不妊治療に関する相談をされ、里穂は何か力になれないか、と思うが…。

第2章 Vol.3
 
「おはようございます」
 
月曜日。いつもより30分早く出社した里穂が、不妊治療について調べていると、曽根崎が居室に入ってきた。
 
「お、早いですね、どうかしました?」
 「曽根さん、おはようございます。それが…」
 
新田に釣られ、いつの間にか里穂も曽根崎のことを“曽根さん”と呼ぶようになっている。
 
「ちょっと聞きたいんですけど…」と言いかけて、ハッとした。
 
早川拓実の義理の姉・美希は、社外の人間だ。里穂にそんなつもりはなくても、情報漏洩の疑いをかけられてしまう。
 
曽根崎に相談したところで、良い顔はされないだろう。
 
そう思った里穂は「いえ、なんでもないです」と誤魔化した。
 
それから昼休憩や仕事終わりなどに、こっそりと技法(技術報告書)を探すことにした。
 
過去に不妊関連の調査は行われていたようで、色々と資料が出て来る。すべてに目を通すだけでも大変だ。
 
その上、専門用語が並び、一体何を書いているのか分からない。
 
技術者でもない自分が、この資料の中から、一体何を見つけられるというのだろうか?
 
それから里穂は、1週間ほど調べ続けたが、なんの進展もなかった。
 
昼休憩に、食堂で買って来たパンを齧りつつ、難しい文字の並んだ画面をスクロールし、思わず「はぁ…」と大きなため息を漏らす。
 
すると突然、背後から声がした。
 
「おい、村人A。深刻な顔をして、何を調べてるんだ?」
 
「うわ、新田さん。勝手に見ないでくださいよ」
 
やばい、と思った里穂は、慌ててパソコン画面を隠す。だが既に見られていたようで、「へぇ〜」と含みのある声で言った。
 
「不妊治療?村人Aって、結婚してんだっけ?」
 
「違いますよ。これはですね、ちょっと知り合いが悩んでたので、なんか役に立てることがないかなって思って…」
 
曽根崎にバレないように小さな声で答える里穂をからかうかのように、新田が大声で言った。
 
「曽根さん〜、不妊治療関係の資料って、ここにあったっけ?もうチーム解散しちゃったから、ここにはない?」
 
「あ〜、ここにはないね。言ってくれたら探すけど、何が知りたいの?」
 
気まずい顔をする里穂を見てニヤニヤすると、「村人Aがなんか調べたいんだって〜」と言い残し、新田はそのままどこかへ行ってしまった。
 
「おやっ村山さん、何か調べ物ですか?」
 
「はい、えっと、そのですね…」
 
里穂は仕方なく、先日美希から聞いた話を曽根崎に話すことにした。
 
社外秘の情報を漏らすつもりはないが、何かヒントが得られないか、と思ったと正直に話す。
 
それでも、会社の資料を私的に利用することに難色を示すかと思ったが、曽根崎は「それなら…」とパソコンで資料を探し出した。
 
「あのチームは残念ながら、さまざまな理由から今は解散してしまいました。海外に行ったり工場に行ってしまったので、直接話は聞けないですが、確か先生からのヒアリング資料があったはず…」
 
「ヒアリング、ですか?」
 
「そうです、医師のインタビュー。不妊治療に限らず、“女性の疾患”に関するすべてを調べていたんです。その時に、何人か有名な先生に会って話を聞いていたはず…。あ、これとかこれとか」
 
そういうと、関連しそうな資料をピックアップしてメールで送ってくれた。
 
「そうか…医者からのヒアリングなら、うちで開発した技術ではないし、論文にあるものなら、外部に漏らしても大丈夫ですよね」
 
「そうですね。基本的に初めのヒアリングでは、秘密保持契約など必要ない、公開された内容しか話しませんからね」
 
希望の光が見えた、とメールを開いた里穂は、画面を見て固まる。そこには、50個以上あるリンクが貼られていた。
 
「これ、全部ですか…?」
 
「そうです。詳細がわからないので、関連しそうなものは全てピックアップしました。この中から、頑張って探してみてください」
 
「…わかりました、ありがとうございます」
 
里穂はお礼をいうと、仕事に戻った。
 
それから里穂は、毎日仕事が終わったあと、それらの資料を隅々まで読み込んだ。
 
初めは不妊治療関連の報告書から読んだが、その中に該当するものなかった。そこで、他の“女性疾患”と書かれた報告書を読んでいく。
 
数日が経った頃、“女性疾患に関するヒアリング報告”と書かれた報告書を読み終わった里穂は、「これだ…」と声を漏らした。
 
急いでスマホを取り出し、早川拓実にメッセージを送る。
 
『Riho: 美希さんと話したいんだけど、明日の土曜日、会えるかな?話があって』
 
『Takumi: Ok、聞いてみる』


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