1日1000字チャレンジ#9

「くじ引き」
人でごった返した境内を歩くと、くじ引きの屋台が目に付いた。
1回300円と手書きで書かれた値札というにもお粗末な画用紙。いくつものひもが束ねられこちら側に先が向けられている。
甘酒を売る屋台には人が集まっており、くじ引きの屋台には足を止める人はあれど引こうという人はいないようだった。豪華賞品と書かれているが主なのはゲーム機くらいであとはどこの企業がつくったものかもわからないおもちゃ……それもレトロゲームといえばいいのか電池などを必要しない昔ながらの玩具である。
そこまでみて、気を引かれている自覚があったので、ものは試しと引いてみることにした。
「すみません、一回いいですか」
財布を取り出して問えば、店主らしき人は足元に何かあるのかごそごそしてこちらをじっと見つめてきた。
のっぺりとした特徴のない中年男性に見える。客とみても愛想笑いもせずに「はい、はい一回ですね。300円です」
と手を伸ばしてきた。仕方がないので、その手に硬貨を3枚乗せるとひもを選びにかかった。
「いいものが当たるといいですね」
抑揚もなく平坦に告げる店主に、この屋台に来たことを早くも後悔し始めた。特に乗り気でもないのに、店主の対応も悪い。
なんでもいいから、早く引いて帰ろう。
一本だけ、ほんのわずかにだが飛び出ているヒモをつかむと一気に引いた。
「よかったですね」
おそらく店主の声だったのだろう。耳元で、まるでテレビの砂嵐のようなノイズ交じりのひどく不愉快な音がして、すぐに耳が痛くなるほどの静寂が訪れた。
周りの景色が灰色になり、あれだけいたはずの人の姿はなく目の前の屋台だけがある。
自分の手に握られているヒモの感触が柔らかく感じて手を開くと、そこには肌色をしたなにか動物の一部のような生暖かいなにかに変わっていた。
「うわっ」
あわてて、手を離すとヒモだったものが重力に従い落ちる。その先、景品につながっていたのだろう部分は赤く濡れている。先には臓器のような赤黒い塊がつながっていて脈打っている。
「よかったですね、当たりです」
店主が愛想よく笑いながら、「これで300円は安かったですね」と景品なのだろうかそれを屋台の裏側にもっていってしまう。
赤黒いものの脈は少しづつ弱くなっていた。連なるヒモも褪せた色に変わっている。やれやれ、と店主が持って行った先、わずかに見えたバケツのようなものにその塊が入れられる瞬間。
おぎゃあ、
と聞き覚えのある声が聞こえた気がした。


///感想///
不思議な話が好きです!以上


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