1日1000字チャレンジ#19

「地下鉄」
近くの駅で電車の到着を待つ。
実際はそんなに待ち時間はないのだけれど電車が来るまで数分の間に周りの人のささやくような声や、香水やそれぞれの持つ匂いがまじりあい今いる場所が嫌でも駅なのだと思わされる。
ブレーキ音を立てながら電車が駅に着いた。
目の前にできていた長い列が動き始める。慌てて電車に乗り込むと先ほどよりもずっと濃い人の気配に息が詰まる。
あいにく席につける場所はなく、移動するのも2駅程度なので近くにスペースを確保して吊革につかまった。
視線をどこに向けても人と目が合いそうなのでずっと、電車のあちこちに張られている広告を眺めていた。
大体、電車の中には決まって週刊誌の宣伝や、悩み相談の電話番号だとかそういったものがあちこちにある。
字を追うともなく眺めていたら駅に着いたらしく揺れを感じた。慣性の法則で体が前方向へと持っていかれる。
出入口が開いて目的の駅にたどり着いた。降りる人の波に従って歩く。
電車の密閉された空間から開けた空間に出て、反射で息を吸い込んだ。
改札に向かう人の波から外れて、一息ついた。
予定があるわけではなく、なんとなく週末はお店をみて回る習慣ができているため新作を見に来ただけなので、急ぎの用事はない。
人の波が落ち着くのを待ってエスカレーターで改札に向かう。
複雑な通路を通り抜け地上へ上がる。
途端に強烈な日差しを感じて目がくらんだ。
目指すお店はビルの中にある。
陽が沈むころには用事がすんで、暗くなった町からまた来た時と同じように地下に戻る。
朝乗った時とは違い、香水などの匂いに交じりお酒のようなにおいと疲れた顔をした人が増えた。
くたびれた、という表現が当てはまりそうな人が席に座ってうとうと舟をこいでいたり、ひどい人では隣の人にもたれかかっていたりする。
吊革を握って、揺れながら窓の外を眺めていた。町の明かりがあちこちについていて朝には気が付かなかったがこうやって遅い時間になるとあちこちに人がいることがわかる。
あの光の中では、働いている人も多いのだろう。
自分はまだ学生なのでよくはわからないが、いずれ自分もこうして仕事で疲れて帰ることもあるのだろう。
こうして眺めているにはきれいな夜景の中の光の一つになるのだろうか。と思いながら揺られていると自分の最寄り駅についた。
ショップの袋が指に食い込む。
こうして週末に買い物をして帰ることも難しくなるのかもしれないと思いながら帰路を歩いた。

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