1日1000文字チャレンジ#2

「クリスマス」
あの日は雪が降っていた。
彼女にしては珍しいピンクのマフラーをつけていた。気になって聞いてみたけど私からもらったといって笑って、イルミネーションをつけた街路樹の間を歩いていく。
彼女の明るい髪色が電飾の下でピンク、青に変わって表情をわからなくさせていた。
目の前で揺れる手のひらが、つかめそうでつかめない。私の手はさりげなくつなごうとしたことをはっきりと覚えている。
あの時、彼女の手をつかめたなら何かが変わっただろうか。

どん、と軽く腰のあたりに衝撃を感じて、私は初めて自分が歩道で立ち尽くしていたことに気が付いた。ごめんなさい、と幼子とその母親であろう声がして、私の方を見ることもなく足早に通り過ぎて行った。
笑みを浮かべて手をつなぎながら歩く親子は、クリスマスの飾りであふれた店先を眺め意を決したように入っていった。
横目にしたまま通り過ぎようとして、ふと視界の端に入ったものに再び足を止めた。
色とりどりの防寒グッズの中に手袋、マフラーが並んでいる。そこに見覚えのあるマフラーを見つけた。ピンクとは一言にいっても色の濃い薄いによって受ける印象は異なる。あの時の彼女の付けていたマフラーに最も近いように見えるマフラーにはカラフルなポップがつけられていた。
「みんなの恋を応援するピンクのマフラー」よく読んでみると、女性の語る恋のおまじないのような文言が並んでいる。
「あ、あったよ」
丁度、こういうグッズが好きそうな女子高生が来て、ピンクのマフラーを手に取る。何の気なしに買うのかと思ってみていると女子高生の三人組の中の誰かが口を開く。でもさ、と。
「これって、好きな人からもらえたら両想いになれるやつだから自分で買ったらなんか違くない」
「だよね、むずくない?」
「あたし、貰えるまで待とう」
口ぐちにいって、一度手に取ったマフラーを元に戻して去っていった。
彼女はそれを知っていただろうか。
しばらく考えてから私はマフラーを手にレジへ向かった。
まだ、間に合うだろうか。
別れたばかりの彼女の家へと向かいながら、彼女の笑顔を思い出す。
あの時、私からもらったと言ったとき、彼女はどこか落ち込んで見えていた。急に歩きだした彼女を追いながら私はなにもわからず、まぁそんな日もあるかと考えていたものだ。
見慣れてしまった彼女の住むマンションの部屋をノックすると「はーい」と返事があって私は急に緊張を覚えて唾をのんだ。
「どうしたの」
ドアスコープから、私だとわかったのだろう彼女が不思議そうに私を見つめるあの時は肩につかないくらいの明るい髪が、彼女の胸元にまで流れていた。
「君に受け取ってほしくて」
簡単な包装から取り出したピンク色をみて彼女は驚いたように目を開いてわずかにほほ笑んだ。
「たしかに、あれは私が贈ったものだった」
私はゆっくりと彼女の首にマフラーを巻いた。あの時からわずかに変わった彼女にそのマフラーはあまり似合ってはいなかったがそんなことを言えばまた彼女の機嫌を損ねてしまうに違いない。
「今日は寒かったからちょうどいいね」
暖房で温まった室内にいただろう彼女は嬉しそうに笑っている。揺れるマフラーをいつまで彼女が身に着けてくれるだろうか。
少し考えて私は暖かい室内へと入っていった。

///感想///
始まりと終わりで意味がつながっているものにしたかったが、ノープランではこれが限界でした。
少し、SF感のある主人公の記憶にはないけれどどこかの世界線でもらったものみたいにしたかったのですがそこまでの技量はなかったのでした。
以上


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