1日1000字チャレンジ#26

「ねじれ」
DNAはらせんによって表現される。実際にそんな形をしているのかは知らない。見たことがないからだ。
長いらせん階段をのぼりながら考え事をしていた。
いつぞやから安全だとか避難の観点から現在ではあまり作られないだろうこの階段は省スペースという観点からは優秀であるし、太い柱を中心にぐるぐると上っていると不思議な気分になる。
回転というのは、遠心力だったり何かしらの力を持っていると思う。そう、強くはない三半規管をもっている自分としては景色のまわるエレベーターだとか、ひたすら回るカップコースターなどてきめんに酔う。そのたびになんだってこう回転に弱いのだろうか。と思うが、いまのところ対応策として具体的なものはなにも浮かんでこなかった。
屋上展望台にたどり着き風を受けると汗が引き体温が下がるのを感じた。どうやらこのらせん階段を上るというのも自分にとってはすこし緊張する行為であったらしい。
以前、バンジージャンプをした時も額に汗が浮かび血の気が引く思いをしたものだった。
そのまま、整えられた、人工の景色を堪能し、それなりの時間がたった後。今度は、その上ってきた階段を乗りなければいけないことに思い至る。
らせん階段を下りながら、転がる石のように降りていく柱をはさんでほとんど変わることのない景色が続く。
急いでいるわけではないが、一定の速度で下りながら、漠然と不思議のアリスの物語を思い出していた。ウサギを追って不思議の世界にたどり着いた少女の物語。
ぐるぐると回り続けるうちに気が付けば知らない世界へとたどり着いてしまう妄想をしているとなんだか楽しい気分になってくる。上りよりも下りの方がどこか楽しい。そして直線になった階段よりも、らせんのほうがなんだか楽しい。
いつ終わるのかもわからない。間に平坦な地面をはさむことなくひたすらに階段が続く。
自分はすでに酔い始めているのかもしれない。頭が揺れる感覚があり、しかしこの感覚から逃れるためには下り続け地上に降りるしかない。
だが、急ぐとさらに酔いが酷くなる感覚とともに汗が噴き出してくる。胃がざわつく。このままだとまずい、けれど進むしかないのだ。立ち止まると、景色が揺れて見えた。
酔っている。
血の気の引く感覚のままただ足を動かす。
やがて周りの景色も地上に近いものに変わっていく。
終わるのだ。
唾を飲み込んで一歩一歩あるく。こんなことなら一時の景色の為に上るのではなかった。こうなることは知っていたのに。

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