1日1000字チャレンジ#25

「ぬいぐるみ」
小さい頃は手に握れる大きさのものが好きだった。
ふわふわのウサギのぬいぐるみをどこに行くにも連れて行っておままごとをしたり、ブランコで遊んだり。ときどきは、洗濯するとかで親に取り上げられて「お風呂にいれるのよ」といわれておとなしく帰ってくるのを待っていた。
今は、
ベッドに並んだぬいぐるみたちがそのつぶらな瞳を向けてくる。
この子たちは、近所にあるゲームセンターで手に入れた。抱き締められるくらいに大きくて日替わりで一緒に眠っている。
狭い筐体の中よりはうちにある方がこの子たちも幸せに違いない。
そう思うのに、なぜかときどき無機質なその瞳がこちらを非難するように見えてしまう。
なんとなく、自分のぬいぐるみは子どもが好きなものだ、という印象のせいかもしれない。
それでも、寂しいのだ。時折、発狂しそうな、といえば大げさかもしれないが、どうしようもなく、寂しいことがあってそんな夜にはきまってぬいぐるみを抱きしめる。
そうしないと、苦しい。辛い。悲しい。
誰か、といると苦しくて、そのくせ誰もいないと寂しくて遣りきれなくて自分に当たり散らしてしまう生活を変えてくれたのはこの子たちだった。
ふらりと通りかかったゲームセンターで、UFOキャッチャーの台のなかできっと誰かしら取ろうとしてあきらめた中途半端な位置でこちらを見つめている瞳がまるで連れて帰って、と言っているようで。
通り過ぎようと思ったとき、子どもが「可愛くない」といったのが聞こえてしまって。
女児アニメのマスコットキャラクターだったと思うのだけれど、その子どもは主役のキャラクターの方が好きらしく、興味がないみたいだった。
だから、なんとなく。一度だけ。これで取れなければ関係ない。と硬貨を投入した。
結果、すんなりと取れてしまって、腕に抱えて途方にくれたのだったが家のベッドの上に座らせてみるとなんだか、安心したのだ。
眠るときも、その子に体が当たらないように気を付けて、そうしてみるとまるで一人ではないように感じて。
もちろん、ぬいぐるみは生きてはいない。
けれど、むげには扱えなかった。実家に置いてきたあのウサギのぬいぐるみがどうなったのかは覚えていない。学校で友達と遊ぶうちに関心がなくなったような気がする。
その子も、寂しかっただろうか。
他のぬいぐるみを持っていた記憶はない。一人ぼっちでどこかにしまわれてしまったに違いない。
そう思えば、すこしものさみしい気持ちになった。

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