1日1000文字チャレンジ#1

「蟻」
彼は疲弊していた。
間髪を開けずに降り注ぐ水の塊は幾度も彼を押し流そうとしたし、いつでも彼をその激しい流れの中に迎え入れようとしてきた。
いつもは踏みしめられるはずの地面はいまや小川の様相を呈しており、力を抜けば流されるままきっと生きて戻ることは不可能であろうと思われた。
その中を、彼は歩いている。
最近彼の棲んでいる巣に女王が子供をたくさん産んだので、食糧を運ぶ任務を果たすために死骸や果実を探して仲間の残したフェロモンを追っているのだ。
だが、歩き始めてどれほどたったのかも定かではないが進行方向がずれては直しを繰り返しているため最初はすれ違っていたはずの仲間にさえ合わなくなっている。
あきらめて帰るべきか、それとも新しい食糧を探すべきなのか。
彼が何度目かの思考を始めたとき、足元の木の葉が揺れ下から昆虫が這いだしてきた。突然の揺れに彼は動揺して足を置きなおしたが、その足は水の流れに飲まれて彼の体は地面に落ちていた枝葉に引っ掛かりながらもどんどんと流されていく。
彼は、最初こそ足を細かく動かして体制を整えようともがいたが、どこにも引っ掛からずに流れていくうちに途方に暮れた気分になって空を仰いだ。
どこかで鳥の鳴く声が聞こえるが、それが木々のどこから聞こえたものか彼には分らなかったし、追っていたはずの仲間のフェロモンからぐんぐんと遠ざかっていく。
流れは急になっていき大河へと合流し、彼の頭は浮かんで沈んでを繰り返し時に葉っぱに引っ掛かったが、岸に上がったところで既に彼の知る景色でないだろう事は想像にたやすかった。
彼の歩みよりもはるかに速い水の流れに彼はこれまでを思い返していた。彼の、というよりも食糧の到達を待つ仲間の事、巣で育てている子供の事。おそらく彼が生まれてから歩いてきた距離を超える距離を流されてきただろう事。
そして自分がこれからどうなってしまうのか。
最後に一度大きく頭が沈み、それ以上彼が思考することはできなかった。熱帯にあるとある雨林の中でその存在はあまりにも小さく彼を観測できる知的生命体もいなかったため、彼の存在は知られることもなくどこぞで果てたのであろう。
晴れたいつかの熱帯雨林。いくらかの仲間を失った一つの蟻の巣では変わらずにたくさんの蟻たちがせっせと食糧を集め巣穴で眠る子蟻たちに与え穏やかに日々は過ぎている。彼らの中に一匹を失ったことを知るものはいなかった。変わりなく日は昇り暮れていく。

////感想////
書き上げるのに二時間程度かかった。
思いくまま。段落とかは一切考慮していません。
ア行から始めようかと思い書きました。
起承転結をあまり意識していないため簡単にかけた印象。
あとは文字数稼ぎのところがあるので、それを入れずにその分場面展開に使えたらよかった。


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