1日1000字チャレンジ#16

「洗面台」

顔を洗ってから上げるまで、少し緊張する。
鏡に映る自分の姿を確認するときが一番怖い。
前に、友達が棲んでいた家で心霊現象があったという。その話を聞いてからなんだか、自分の背後に何かがいるような気になってしまうのだ。
パシャリと冷たい水で顔を洗いながら、ふと鏡を見つめる。そこにはいつも通りの自分の顔が映っている。
安心してタオルで水をふき取り、リビングへと戻る。
テーブルに置きっぱなしのスマートフォンが着信があったことを知らせてくれた。折り返しかけようと画面を見ると件の友達からだった。
「もしもし、」
「あ、よかった。つながった」
友達は最近、転居先を探していてそれが見つかった。とのことだった。
「よかったね、あの部屋おかしかったもんね」
彼女の話をそのまま信じるのなら、家鳴りがひどく机に置いたものが移動していたり、寝ているときに金縛りにあったのだという。
「そうそう、友達が泊まりに来た時に限って酷いから」
彼女がそこに住んでから私は遊びに行ったことはなかったが、彼女の別の友達が泊まった夜には二人とも不思議な影を見たり、心霊現象に悩まされたのだという。
「二人とも、寝ないでしゃべってたんだから」
仕方なく一つの部屋でいっしょに寝ることにしたのだという。
「そっか、大変だったね。でも、新しいとこ決まったんでしょ」
「そう、やっとだよ。今より狭くなるから荷物減らすの大変なんだよね」
そういって、しばらくお互いの近況の話をしていたが、途中から友達がやたら眠たげに話すようになった。
「で、さぁ、あの、家がさぁ、いるんだよ、」
「もう、切る?疲れてんじゃない?」
ぼそぼそしゃべるので、耳を澄ませてみるが、どこか雑音が混じっているように感じる。今まで、この家で電波が悪いと感じることはなかったのだが近くで工事でもあっただろうか。
「ねぇ、もう切るよ」
「うん、……そっちいくね」
ぶつ、と音を立てて切れた。まるで、通信障害でもあったかのような切れ方だった。
「どうしたんだろう」
最後の、そっちいくね、は彼女の声ではなかった。誰か荷造りを手伝ってもらっているのかもしれない。
そのあと、彼女から電話がかかってくることもなく夜になり、そろそろ眠るか。と歯磨きをしに行った。
動画を見ながら歯を磨き、口をゆすぎ顔を上げるとふと、鏡の端、つまりは自分の後ろに何か黒い塊が映りこんでいることに気が付いた。
目をこらすと、浅黒い人間の足が見える。誰か立っているのだ。
ば、っと振り向いたが、何もいなかった。
ふと、嫌な予感がした。
あのそっちいくね、といったのはまさか彼女の部屋にいたという何かなのではないかと。

///感想///
だんだん、雑になりつつある。


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