なぜ、高校生は『おかげで、死ぬのが楽しみになった』を選んだのか(第二回 高校生が選ぶ掛川文学賞授賞式レポート)
昨日、「高校生が選ぶ掛川文学賞」の授賞式と交流イベント「高校生読書サミットin掛川」が開催されました。本年度の受賞作は『おかげで、死ぬのが楽しみになった』(遠未真幸著・サンマーク出版刊)です。
とにもかくにも、高校生たちがなぜ七十歳のおじいちゃんが主人公の物語に惹かれたのかを知りたくて、会場に向かいました。
まず、高校生たちの発言から。
・他の本とはぜんぜん違った。
・最初はとまどった。主人公と世代が違いすぎるから。でも、おじいさんたちの言葉が心に響いた。
・おじいさんたちの青春は、今の自分たちと変わりなかった。「わかる」エピソードがいっぱいあった。
・読んでいて「大人も、高校生を経ているんだ」と気がついた。
・人間って、時間によって変わるものではないと知った。
・それぞれの人生の中で失敗したことがあっても、七十歳になっても取り戻せるし、やり直せるし、学び直せるし、また失敗することもあるんだと知った。それは大きな励ましだった。
・タイトルにインパクトがあった。
・会話が笑えた。それらの言葉は応援歌のようだった。
・ひとつのなぞに対して、みんなが意見を出し合い、なぞを解いていくプロセスは、そのままロールプレイングゲームみたいだった。
・おじいちゃんたちがカッコよかった。
・何歳でも青春なんだと思った。
どうですか! 私たちの住む掛川の、日本の、高校生たちの感受性は――。
彼らは、予定の選考時間を1時間以上も超えて話し合い、最終的に多数決でなく、合意形成で受賞作を決めたのです。
受賞の言葉で作者の遠未真幸さんが最初にふれたのも、そのことでした。
「君たちは、時間のかかる話し合いによって僕の本を受賞作に選んでくれました。僕も、時間のかかる『本を書く』ということをしています。タイパもコスパも悪いけれど、だからこそ生み出される価値があることを信じるから。だから僕は受賞作が決まった経緯を聞いたとき、『仲間に出会えた』と思えた。そしてこの賞をいただくことを、本当に嬉しく思った。それは『生まれて初めてもらった文学賞』だからでも、『高校生が選んでくれた文学賞』だからでもなく、君たちがそうした面倒くさいプロセスを経て、タイパもコスパも関係なく、最後の最後まで話し合って選んでくれた賞だったからです」
遠未さんは、なぜ話し合いが長引いたのか、その理由にも言及された。
「君たちは、選考の途中まで『この本がこういう理由でいい』という個人的な視点で議論していたと思う。けれど、話し合っていくうちに『どの本を選ぶことが受賞作としてふわさしいか』『よりインパクトを与え、より多くの人に受賞作を読んでもらうにはどの本がいいか』に着眼点が変わったからではないかと思う。だから、予定の時間を1時間もオーバーしてしまった。君たちは、手間のかかることをいとわず、最後の最後まで話し合ってくれたんです。本当にありがとう」
遠未さんは、高校生たちの心の変化を、議論の着眼点の変化を、きちんと感じ取ってくださったのだ。
そしてこうもおっしゃった。それは「本」に関わる全ての人の背中を押してくれる言葉だった。
「同じ本を読んでも、人はひとりひとり違うのだから、読んだ感想も違うのは当たり前。でも、そんな前提の中で、ほかの人の意見に耳を傾け、ほかの人の言葉や思いが自分の中で響くのを感じ、意見を変えることさえした。まさに『本』という存在があってこその変化、広がりだったと思う。本にはそうした力がある。本は誰の前でも対等だし、本はバトンにもなるのだ。それを君たちは見せてくれた」
まさに今回のシンポジウムのテーマである「世代を繋ぐツールとしての本」の存在意義を、語ってくれた言葉でした。
必死に自分の思いを言葉にしようする高校生たちと、それをゆっくり待つ、あるいは急がせない、ヒントとなるような言葉をポンと投げかける、そんな遠未さんの姿が印象的でした。あらゆる手を尽くして応援する、まさにプロの応援団員の姿がそこにありました。
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