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「物語の中のことば」きみの話を聞かせてくれよ

生活と文化の研究誌『報徳』に連載している「物語の中のことば」。
ふだん児童文学にかかわりのない読者層の月刊誌ですが、大人が読んでも子どもが読んでも面白い児童文学を紹介し、ご自身だけでなく、お子さんやお孫さんに手渡してもらえたら……。
そんな願いを込めてお届けします。

2024(令和6)年7月号
「物語の中のことば」

強くなりたい。ゆれないように。
自分が自分であるために、闘えるように。

『きみの話を聞かせてくれよ』より

 この本は、ひとつの中学校を舞台に、それぞれの主人公が語る七つの短編連作集です。冒頭の言葉は「タルトタタンの作り方」の語り手である虎之助の言葉です。虎之助は、名前とは裏腹に中性的でかわいらしい顔をしているため、周囲から「虎ちゃん」と呼ばれ、いじられています。悪意のない言葉は虎之助を傷つける「暴力」にもなっているのに、言葉を発した方は無自覚です。そんな虎之助が好きなことはお菓子作り。冒頭の言葉は、虎之助の「大切なものを大事する」という決意宣言でもあるのです。
 大人が「些細もない」と思うことでも、子どもには深く傷つくことがあります。大人になって児童文学を読む醍醐味に、子どもの心の一端を垣間見ることができること、同時に、そうした傷つきやすい心が自分の心の内にもひっそりあったことに気づくこと、があると思います。
 この『きみの話を聞かせてくれよ』では、虎之助を含め七人の中学生の日常と思いが語られます。児童文学というジャンルの本を読みながら、私はいつも「変わらないもの」の存在に気づかされます。大人も子どもも関係なく、大切なものは普遍なのだと。
 これから、児童文学好きの一人として、大人が読んでも子どもが読んでも面白い本をご紹介していきます。ぜひお子さんに、お孫さんに、そしてご自身で読んでいただけたら嬉しいです。

小川雅子(児童文学作家)

【紹介した本】
『きみの話を聞かせてくれよ』村上雅郁著(フレーベル館・2023年刊)


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