正倉院文書のすすめ(ゆるACC_ACサンプル)

この記事はゆるACC_AC(2,000字未満限定の会計アドベントカレンダー)ご参加検討の方に、「2,000字ってだいたいこのくらい」ということをお示しするために、2,000字ちょうどで書いた記事です。


正倉院という文字を見て、あ、知ってる、昔の宝物(ほうもつ)を保存してある場所、奈良にあるんだっけ?まではぱっと思いつく方が大半かと思います。
ではその正倉院の宝物が毎年秋に一斉点検され、その機会に一部の宝物が順に一般公開されていることはご存じでしょうか。関西の方なら身近かと思いますが、今年もちょうど今奈良国立博物館で開催されています。
正倉院展といえば螺鈿紫檀の楽器や金銀絵箱、美しい織物などがみものですが、そういった人気の宝物がならぶ西新館をすぎ、渡り廊下をわたって東新館すぐに例年展示されているのが「正倉院文書」です。
絵もない字だけの巻物の展示ゾーンを、さまざまな宝物と人ごみに疲れた人は足早に通り過ぎ、張り付いているのは書道や歴史趣味の方かな?という印象ですが、実はこの正倉院文書は一部の会計クラスタには大変おすすめな展示です。

そもそも正倉院文書とは、狭義には正倉院に収められた写経所文書という写経群を指し、正倉院宝物として保管されてきたのはこの「写経」という側面からなのですが、実はこの写経は、当時の行政文書を「裏紙」にして行われているのです。
裏紙となった元の文書を紙背文書と言いますが、奈良時代当時、行政文書は短期間で廃棄されており、後世まで残るとは想定されていませんでした。それが写経の裏紙として使用され、保存されることによって、現代のわれわれが奈良時代の行政文書を「正倉院文書」として見ることができるのです。
「裏紙」としての正倉院文書にはさまざまな行政文書が含まれており、それぞれ面白いのですが、会計クラスタとしてはやはり「正税帳」や「用度申請解案」がダントツに面白いです。
正税帳は国司(地方の行政単位である「国」の長)が太政官(中央行政機関の長)に提出する、「国」の収支を総計した帳簿です。「正税」である稲の数量について、前年の繰越高・収入高・支出・年度末残高が一行一行、紙の上にびっしりと収まるよう書かれています(正税帳はやはり提出文書ということもあって、筆跡も流麗で迫力があります)。
「用度申請解案」は予算目録で、写経事業を行うにあたり必要な紙や筆、墨、作業着用の絹、写経従事者への給与など使用予定が細かく記載されています。

ここまでで、へー、面白い、と思われた方でも、「でも、そういうのがあると本で見ればいいんじゃないのか?実際に行く意味は?」と当然感じるかと思います。が、筆者としては、ぜひ一度実際に見ていただくことを強くお勧めいたします。
正倉院文書の、古くしかし今なおくろぐろと残る筆跡で、執拗に、びっしりと一面に書き込まれた正税帳を目前にすると、これを聞き取った人がいること、これを書きとった人がいる、それを行政文書として利用した人がいる、というのがまざまざと立ち現われ、数千年を経て立ち現れる記帳への執念のようなものが感じ取れる気がするからです。
なぜ、過去の人々は労力をかけ、時間をかけ、手間をかけ、この収税目録や予算書を書き付けたか?といえば、それはやはり、正確な記帳は権力の源泉だからではないでしょうか。
どれだけの富を集められたのか?どれだけの富を持っているのか?そしてそれをどのように使えるのか?を正確に記されたものが存在することが、情報として値千金の価値があるということを昔の人々は知っていたのに違いありません(一般の人が、遠く離れた場所でのできごとを知り得ようもない時代ということもあいまってでしょうが)。

話が急カーブしますが、企業会計原則の7つの原則を覚えていらっしゃいますでしょうか。ちょっと口に出すのが難しい語呂合わせ(真・正・・・)が脳裏をよぎったかたもいらっしゃるかもしれませんが・・・笑
企業会計原則の一般原則として、
1. 真実性の原則
2. 正規の簿記の原則
3. 資本取引・損益取引区分の原則
4. 明瞭性の原則
5. 継続性の原則
6. 保守主義の原則
7. 単一性の原則
が挙げられています。
正倉院文書に記載された収税文書や予算文書は、単にものの名前と数を羅列したものにすぎないかもしれませんが、少なくとも真実性、明瞭性、継続性、単一性については(当然ながらこの時には言葉として意識されず、経験則として理解されていただけだったとは思いますが)意識しながら作成されていたものと思われます。
日々のちょっとした記帳漏れなどは、我々はともすれば(重要性・・・)などという単語が頭をよぎってしまいがちですが、古代の「正確な記帳」への熱量を目の前に浴びることで、いまいちど襟を正す契機となる気もします。

冒頭に書きましたが、今年も(すでに始まっておりますが)11月11日まで正倉院展が開催されます。2024年の正倉院文書関係では写経事業の予算書(必要な紙や墨などの名称と数量が書かれたもの)が出品されております。
秋のお出かけ先の一つとして、皆さまいちど見てみてはいかがでしょうか。

参考
正倉院展公式ホームーページ
https://shosoin-ten.jp/

正倉院「文字の世界」 文書の魅力に迫る
https://shosoin-ten.jp/articles/detail/000237.html


いいなと思ったら応援しよう!