イワクラと吉住の番組 ハンターハンター 〜冨樫先生からのお手紙〜 後編

【関有美子からの質問⑥】
メルエムの最期の真っ黒なカットはとても強い印象があります。最初から決めて書いたのですか?

→ほぼ全てのコマ割りは、テンションを出来る限り高めた状態の、ネームにとりかかる直前からその最中にひねり出されたもので、「たて割りで黒地にフキダシだけのコマを数ページ続ける」というアイディアも例外ではありません。この回のネームを描き出す際に、こうの史代さんの「夕凪の街桜の国」の一部が頭に浮かび、私の脳内ではその場面がたて割りで白地にモノローグだけのコマが連続する形で再生されました。(後で読み返すとそれは私の思い込みで、別のシーンのコマと混同する間違いだったのですが…。)その時にコムギとメルエムのやりとりを真っ黒なコマの中で淡々と続けようと決めました。

「夕凪の街 桜の国」こうの史代


【冨樫先生の一番好きなシーンも最後の見開き】

→私より上の世代であれば、完全燃焼した人物の名場面といえば「あしたのジョー」を思い浮かべる人が大勢を占めるはずです。私の世代であればそこに「北斗の拳」のラオウが食い込んでくると思います。両者に共通するのは、カケアミを使用した情緒的な描写です。
自分もいつか挑戦したいと思い、念願が叶ったのがコムギとメルエムの見開きです。結果ではなく、過程に生きる意義を見い出す二人を描くのはとても楽しかったですし、その集大成としてあの見開きに到達出来たことに満足しています。

冨樫先生が思い浮かべた完全燃焼の名場面(カケアミ描写)


【関有美子からの質問⑦】
お休みの日は何をされて過ごされていますか?
また、今ハマっていることは何ですか?

→基本休日という概念が無く、腰の調子が良いか悪いかでその日の行動が変化したりします。
調子が良い時は悪くならない程度に机で作業し、悪い時は腰に負担がかからない姿勢で休みを入れながら無理のない範囲で立ち作業をします。

アリがかっぱえびせんに集まりやすいという電子記事がきっかけで、この夏一瞬だけアリの同定ブームが来ました。庭だけで10種以上見つかり、アミメアリが綺麗で感動しました。トフシアリを見つけた時点で何となく満足しブーム終了しました。ずっと続いているマイブームは見ないTV番組を録画して円盤化することです。元々はお気に入りの番組だけだったのですが、後で見ようと思ってレコーダーに保存しているデータが膨大になり、見ない状態のままDVD(当時)に移したのがきっかけです。現在では「どうせ見ないのに」という状況が面白くて続けています。私も吉住さん同様、作業中はずっと音を流しているタイプなのですが、そんな時もお気に入りの番組を繰り返し見る方を選ぶので結局後で見る系の円盤は見ないのですが録画をやめられません。どうしたら良いですか?


【関有美子からの質問⑧】
最近面白いと思った漫画はありますか?

→「最近」の定義を2023年に出版されたものとした場合、「やっぱりスゲェ…!!」となった作品があるのですが間接的にとはいえ有美子さんにこれをおすすめする形になると各方面からお叱りを受ける気がして具体的な作品名を挙げる勇気がありません。その作品の名誉のために弁明すると、私はその圧倒的実話描写に驚嘆し、弱さを取り繕わず描く強さに感動し、登場人物達の覚悟に感謝感涙しました。だが.ᐟ‪‪.ᐟ…だがしかしッッッ!!!申し訳ありませんッッ.ᐟ‪‪そこで「最近」の定義を現在も刊行が続いている作品、に変更し私がずっと面白くて読んでいるものを1つ挙げるなら「オーイ!とんぼ」です。ゴルフが題材の漫画ですが、ルール等知らなくても楽しめると思います。主人公のとんぼは、私がハンター2の連載構想当初に「ゴンはこんな人物にしたい」と思い描き、第1話で挫折した理想像そのものでした。かわさき氏の人間・ゴルフに対する造詣と、吉沢氏の、ひたむきな登場人物を優しく描き出す温かい絵柄とが見事に融合した作品です。


【関有美子から質問⑨】
結末は決まっていますか?

→ 大まかにはABC3パターンの終わり方を用意しています。読者の反応を、賛否の比率で想定した時にAは賛が8否が2(評価が高いという意味ではなく、私的には無難な展開で批判票が集まりにくいだろうとの読みです)
Bは賛否が拮抗し、Cは賛が1で否か9くらいではないかと予想しています。否が圧倒的なCをなぜ残しているかというとそれが一番私の好みだからです。ただ基本的にはこの3パターンのどれも選ばずに済むくらい面白い結末を考えつくのが理想であり目標です。

参考までに3つの候補から漏れたDパターンを開示しておきますので、未完のまま私が死んだらこれが結末だったという事で御容赦いただけますと幸いです。


結末D

池のほとりで釣り竿を握り微動だにしない少女、突然竿が大きくしなり、少女が叫ぶ。彼女の名前はギン。

ギン「来た来た来たァァ!!」
池の主を担ぎ、得意気にギンは1人の女性の前に立ち言い放つ。
ギン「約束通り主を釣ったよ!!お母さん!!」
更に女性に近づき小さな声でギンは続ける。
ギン「これでもう二度と私にハンターになれとか言わないでよ…!」
仕方なくうなずく女性。ギンは主を担ぎながら去って行く。

母親「主を釣り上げる事で狩猟(ハント)に目覚めてくれると思ったんだけど…ねェ?」
女性が隣の夫に同意を求める。

父親「島から一生出ないで店を継ぐ…。それが現在(いま)のギンの希望なんだ。尊重してやろうよ。」

女性はまだ不満気だ。
母親「まあ、途中で気が変わるかも知れないしね。全くあなたをギンも何でそんなに…。ってそりゃミト大ばぁばとノウコばばの血筋よねェ…。」

どうやらミトとノウコが血縁関係にない事を女性は知らないらしい。夫は静かに微笑む。あきらめきれず、女性は続ける。
母親「でも!ゴンじいは有名なハンターだったんだし…!あの娘(コ)だっていつかはきっと島を」

ギン「出ないからねッッ!!」

姿すら見えなくなった森の奥から、両親のやりとりが聞こえるはずもないのに叫び返す娘。
親父は楽しそうにつぶやく。
父親「お見通しだね。」


場面が変わり、ミトの頃から続くお店。主は綺麗にさばかれ全ての部位が下ごしらえされている。作業をしながらギンの独白。

ギン(お母さんはわかっていない…。)
(じいがハンター時代の思い出を楽しそうに話す時、大ばぁばがさり気なく席を外している事。)
(ノウコばばの相槌が全て誰かからの伝聞で、ばばがじじのそばにいられなかった寂しさを控えめに滲ませている事。)

包丁を持つ手でまな板を強くたたく。

(私はまっぴらだ!!)
(誰かの帰りを何ヶ月も何年も心が締め付けられる想いをしながら待つのも!!自分が誰かを待たせるのも!!)
(私は…)

扉が開く音。のんびりとした穏やかな声が響く、小太りの少年が植物を抱え入ってくる。
少年「山菜とったよ〜♪おおっすげ〜本当に主を釣ったんだ!」
「よ〜し島民全員にふるまおうぜっっ」
ギン(私はずっと…ずっと一緒にいたい人と)
少年「皆が喜ぶ顔が目に浮かぶぅ♪」
「さあ、始めよ〜♪」
ギン(ずっと一緒にいる!!)
「うんっっ!!」

満面の笑顔で料理を作る二人。島から一羽の鳥が飛び立つ。大空を鳥が舞う。鳥の下にはどこかの街。様々な人々。

誰かの息子、誰かの娘、誰かの孫が色々な場所で暮らし、誰かと笑顔を交わしている。それはあのキャラの子供や、あのキャラの孫かも知れない。

鳥が空の彼方へ飛び去る。

それを見送っている誰かの後ろ姿。





イワクラと吉住の番組
#TVer
https://tver.jp/episodes/ep31tbtw2c

11月21日(火)放送分 配信終了まで1週間以上

★保存用に書き起こししましたが、現在TVerで配信されている「イワクラと吉住の番組」を見た方が資料付きで解説されているので分かりやすいです。是非見て見てくださいね。

前編はこちら https://note.com/lovely_moose444/n/n6da42efad8f8?sub_rt=share_b

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