規制改革(スタートアップイノベーションWG):海外人材の活躍に資する制度見直し!?

内閣府に設置されている規制改革推進会議のスタートアップ・イノベーションワーキング・グループ(本稿では「スタートアップ・イノベーションWG」という。)の第3回(2022年11月21日開催)及び第8回(2023年3月2日開催)(本稿ではそれぞれの会議を指すときは「第3回会議」又は「第8回会議」といい、両方の会議を指すときは「本会議」という。)において、「海外人材の活躍に資する制度見直し」について議論された。

そこでは、外国人起業家の在留資格(ビザ)取得の要件緩和が主な論点となっており、事業の規模要件のうち「資本金の額又は出資の総額」についても挙げられていたが、ここでは、所管省庁(法務省・経済産業省)により「検討を予定」とされた「コワーキングスペース等」を「事業所」とみなす事業所要件緩和について触れる。(規制改革ホットライン処理方針 (令和4年9月16日から令和4年12月14日までの回答)

<論点の一部>

  1. スタートアップビザ期間満了後の「経営・管理」ビザ初回申請時における事業所確保要件について、コワーキングスペース等を事業所所在地として認める国家戦略特区以外でも認める特例の整備

  2. 事業所所在地として認められるコワーキングスペース等には、一般のコワーキングスペースやシェアオフィスに加え大学研究室や企業内施設を含むこと

出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令

〔豆知識〕どうでもいいことではあるが、規制改革推進会議は、内閣府設置法第37条第2項に基づく規制改革推進会議令により設置された合議制の審議会である。内閣総理大臣の諮問に応じ、経済社会の構造改革を進める上で必要な規制の在り方の改革に関する基本的事項を総合的に調査・審議することを主要な任務としている。(内閣府ウェブサイト

経済界からの要望と論点


一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)の要望は次のとおり。
このうち、要望(1)が本稿と関係のある要望である。

経済産業省が選定する「J-Startup地域版企業」に選ばれていること、あるいは日本の大学・大学院と事業提携を行っていること、プライム上場企業より一定の出資を受けていることのいずれかを要件として、(1)国家戦略特区と同様にコワーキングスペースを事業所とみなす要件緩和、(2)最低資本金500万円から300万円への引き下げ、(3)外国人起業活動促進事業における起業準備期間の資格外活動(週28時間以内の就労)の容認を行うべきである。

規制改革ホットライン処理方針 (令和4年9月16日から令和4年12月14日までの回答)
(なお、筆者が、丸数字を括弧数字に変えた上、(1)の部分を太字にした)

また、本会議でヒアリング対象となった株式会社フォースタートアップスの要望は次のとおり。

第3回会議提出資料
第8回会議提出資料

これらを合わせると、冒頭に記載のとおり、次の2点が論点となる。

  1. スタートアップビザ期間満了後の「経営・管理」ビザ初回申請時における事業所確保要件について、コワーキングスペース等を事業所所在地として認める国家戦略特区以外でも認める特例の整備

  2. 事業所所在地として認められるコワーキングスペース等には、一般のコワーキングスペースやシェアオフィスに加え大学研究室や企業内施設を含む

現状の制度の整理


【原則】出入国管理及び難民認定法

まず、日本国で事業を創業することを希望する外国人が日本国に在留するためには、所定の在留資格の認定を受けなければならないが(出入国管理及び難民認定法第2条の2、別表第一)、その在留資格の類型の1つとして「経営・管理」がある。

出入国管理及び難民認定法別表第一

この「経営・管理」の在留資格を得るためには、次の基準を満たす必要がある。しかし、日本国においてこれから事業を創業しようとする外国人にとって、日本国上陸前に事業所や2人以上の日本居住の常勤職員を確保することは相当に困難と思われる。

申請人が次のいずれにも該当していること。
一 申請に係る事業を営むための事業所が本邦に存在すること。
ただし、当該事業が開始されていない場合にあっては、当該事業を営むための事業所として使用する施設が本邦に確保されていること。

二 申請に係る事業の規模が次のいずれかに該当していること。
イ その経営又は管理に従事する者以外に本邦に居住する2人以上の常勤の職員(法別表第一の上欄の在留資格をもって在留する者を除く。)が従事して営まれるものであること。
ロ 資本金の額又は出資の総額が500万円以上であること。
ハ イ又はロに準ずる規模であると認められるものであること。

三 申請人が事業の管理に従事しようとする場合は、事業の経営又は管理について3年以上の経験(大学院において経営又は管理に係る科目を専攻した期間を含む。)を有し、かつ、日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること。

出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令

【特例1】国家戦略特別区域法ー特区ビザー

そこで、国家戦略特別区域法により、国家戦略特別区域における所定の創業活動については、要件が緩和され、次の基準を満たせば、「経営・管理」の在留資格をもって6か月間、日本国に滞在することが可能となる(同法第16条の6第1項、同法施行令第22条、法務省関係国家戦略特別区域法施行規則第5条)。

 本邦に上陸しようとする外国人が行おうとする創業活動が、次のいずれにも該当するものであることについて、法務省令で定めるところにより、国家戦略特別区域会議に係る関係地方公共団体であって、当該創業活動に係る国家戦略特別区域の全部又は一部を管轄するものの確認を受けていること。

 当該創業活動が当該国家戦略特別区域における産業の国際競争力の強化及び国際的な経済活動の拠点の形成を図る上で適切なものであること。
 当該創業活動に係る事業の計画が適正かつ確実なものであること。
 当該創業活動に係る事業の規模が次のいずれかに該当すると見込まれるものであること。
(1) その経営又は管理に従事する者以外に本邦に居住する2人以上の常勤の職員(出入国管理及び難民認定法別表第一の上欄の在留資格をもって在留する者を除く。)が従事して営まれるものであること。
(2) 資本金の額又は出資の総額が500万円以上であること。
(3) (1)又は(2)に掲げる規模に準ずるものであること。
 当該創業活動に係る事業に係る事業所を当該外国人の上陸後6月以内に当該国家戦略特別区域内に有することとなる見込みがあること。

 当該外国人の申請に係る創業活動に係る事業の全部又は一部が当該国家戦略特別区域において行われるものであること。

国家戦略特別区域法施行令第22条
国家戦略特区ウェブサイト

【特例2】外国人起業活動促進事業制度ー経産省ビザー

もう1つの特例は、経済産業省主導の「外国人起業活動促進事業制度」を用いた最長1年間の滞在である。

経済産業省ウェブサイト

これは、日本国で事業を創業することを希望する外国人起業家が所定の要件を満たすことで最長1年の「特定活動」の在留資格(出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号、別表第一の五)を得ることができる制度である。

経済産業大臣が認定した外国人起業活動管理支援計画(外国人起業活動促進事業に関する告示(平成30年経済産業省告示第256号)にいう外国人起業活動管理支援計画をいう。)に基づき、起業準備活動計画(同告示にいう起業準備活動計画をいう。)の確認を受けた者が、1年を超えない期間で、本邦において当該起業準備活動計画に係る貿易その他の事業の経営を開始するために必要な事業所の確保その他の準備行為を行う活動及び当該活動に附随して行う報酬を受ける活動又は本邦において当該起業準備活動計画に係る貿易その他の事業の経営を開始した後引き続き当該事業の経営を行う活動(風俗営業活動を除く。)

出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の規定に基づき同法別表第一の五の表の下欄に掲げる活動を定める件(特定活動告示)第44号

この特定活動の在留資格の取得及び更新の際には、次の基準を満たす必要がある(外国人起業活動促進事業に関する告示第5の6)。

<取得時>
(1)特定外国人起業家になろうとする者の行う起業準備活動が、当該地方公共団体における産業の国際競争力の強化及び国際的な経済活動の拠点の形成を図る上で適切なものであること。 
(2)特定外国人起業家になろうとする者の行う起業準備活動に係る計画が適正かつ確実なものであること。
(3)当該起業準備活動に係る事業の規模が、上陸後又は在留資格の変更後一年以内に次のいずれかに該当する見込みがあるものであること。
イ その経営又は管理に従事する者以外に本邦に居住する2人以上の常勤の職員(出入国管理及び難民認定法別表第一の上欄の在留資格をもって在留する者を除く。)が従事して営まれるものであること。
ロ 資本金の額又は出資の総額が500万円以上であること。
ハ イ又はロに掲げる規模に準ずるものであること。
(4)当該起業準備活動に係る事業に係る事業所を当該外国人の上陸後又は在留資格の変更後1年以内に本邦に有することとなる見込みがあること。
(5)申請する者が次に掲げる事項のうちいずれかに該当すること
イ 〜 二 (中略)
ホ 上陸後又は在留資格の変更後六月以内に、当該起業準備活動に係る事業の規模が(3)のイ、ロ、ハのいずれかに該当する見込みがあるものであること及び当該起業準備活動に係る事業に係る事業所を本邦に有することとなる見込みがあること。
<更新時>
(1)〜(2)(中略)
(3)当該起業準備活動に係る事業の規模が、在留期間の更新後6月以内に次のいずれかに該当すると見込まれるものであること。
イ その経営又は管理に従事する者以外に本邦に居住する2人以上の常勤の職員(出入国管理及び難民認定法別表第一の上欄の在留資格をもって在留する者を除く。)が従事して営まれるものであること。
ロ 資本金の額又は出資の総額が500万円以上であること。
ハ イ又はロに掲げる規模に準ずるものであること。
(4)当該起業準備活動に係る事業に係る事業所を、在留期間の更新後6月以内に本邦に有することとなる見込みがあること。

筆者が丸数字を括弧数字に変えた
国家戦略特区ウェブサイト

【小括】事業所の確保の必要性

原則、特例1、特例2いずれにせよ、上陸時点、上陸後又は在留資格更新後6か月から1年以内(特例期間満了後)に在留資格を「経営・管理」として更新する場合は、事業所を確保しなければならない。

2020年3月制定(2022年12月改定)のガイドラインによる事務所確保に係る特例

この事業所要件につき、コワーキングスペースやシェアオフィス等といった構造上及び利用上の独立性を有していない区画を事業所として扱うことができるのかについては、議論があったところである。

この点に関しては、2020年3月制定(2022年12月改定)の「国家戦略特別区域外国人創業活動促進事業に係る在留資格の変更、在留期間の更新のガイドライン」により、次の要件が確認できる場合に限り、特例として、コワーキングスペース等を出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令にいう事業所要件に適合しているものとして扱うことが認められている。

(1)初回の在留期間更新後のコワーキングスペース等の利用期間が、最大1年であること
(2)関係地方公共団体が認定したコワーキングスペース等(法人登記が可能であり、利用期間中の利用保証があることのほか、必要に応じて同地方公共団体が当該創業活動に係る事業所として適切と認める要件を具備した施設)を利用すること
(3)コワーキングスペース等を利用する期間中は、当該外国人が事業活動状況等を関係地方公共団体に定期的に報告すること
(4)初回の在留期間更新後1年後の在留期間更新許可申請時には、総務省が定める日本産業分類一般原則第2項における事業所の定義に基づく一定の区画を有する事業所を確保すべく、関係地方公共団体による支援が適切に行われていること
(5)初回の在留期間更新後1年後の在留期間更新許可申請時までに上記の一定の区画を有する事業所を確保することができなかった場合に、当該外国人の帰国が確保されるよう、関係地方公共団体が、帰国旅費について事業資金と別に確保していることを確認するなどの適切な措置を講じていること

筆者が丸数字を括弧数字変えた
国家戦略特区ウェブサイト

ただし、この特例が使えるのは、2023年6月29日時点の国家戦略特区ウェブサイトによれば、活用自治体である東京都、京都府、兵庫県、福岡市、北九州市、仙台市、愛知県、つくば市、加賀市に限定されている。

活用自治体には大規模な都市が含まれていることから、概ね、外国人起業家のニーズは満たせるものと思われるが、それでも、他地域で起業を志す外国人にとってはやはり障壁が残っている。

検討の状況

論点1 コワーキングスペース等は事業所要件に適合するか

法務省は、国家戦略特別区域外国人創業活動促進事業を活用し、入国後、初回の在留期間更新時に必要な事業所として、自治体が認定するコワーキングスペース等を最大1年間認める特例(以下「コワーキングスペース等の特例」という。)について、外国人起業活動促進事業においても活用可能とすることを含め、全国展開に関して、引き続き検討を進め、令和5年度早期に結論を得て、所要の措置を講ずる

2023年6月規制改革推進に関する答申11頁

ここに至るまでには、例えば、第8回会議において、次のとおり、法務省出入国管理庁政策調整官による頑迷な抵抗が見られており、前途は多難である。

日本国内のビジネス、スタートアップの状況としてコワーキングとかシェアオフィスとかが普通に使われているというのは分かりますし、一般に広がっているというのはよく理解はしております。 ただし、日本人が一般的にそうできるか、外国人の在留資格審査上、同じようにやれるかというのは、また別の話かなと思っていまして。毎回繰り返しで恐縮なのですけれども、在留資格を与えて保護する以上は、それなりの要件を満たしてもらわなくてはいけないという考え方でずっとやっておるところでございまして、その中で、独立性のある事業所を構えていただきたいということはずっと申し上げているところです。ただ、それの例外というか、特例としてコワーキングが一定の範囲で使えるという形にしておりますので、そこはそういう考え方ですという以上は申し上げられないところです。

第8回会議議事録18頁

これも規制改革推進会議においてはしばしば見られる法務省の趣旨不明な抵抗の1つに数えられる。なぜ独立性のある事業所を構える必要があるのかについての説明は今ひとつ要領を得ないのである。

加えて、「経営・管理」の在留資格がその要件の簡潔さゆえに濫用されるリスクが高く、また実際にも濫用されているとのことであり、これ以上の要件緩和は困難というのだが、別の方策をもって濫用を防止することを端から検討しようともしない。

ちなみに、この点については、別の方策、すなわち地方公共団体や大学等のフォローやスクリーニング等による別建ての規制の可能性については武井座長(第8回会議議事録19頁)、大槻委員(23頁)や御手洗座長代理(24-25頁)により言及されている。

論点2 大学研究室は事業所要件に適合するか

法務省は、大学施設・企業施設等を、コワーキングスペース等の特例の対象施設となる「コワーキングスペース等」に含めることについて、引き続き検討を進め、令和5年度中に結論を得るとともに、結論を得次第速やかに所要の措置を講ずる。

2023年6月規制改革推進に関する答申11頁

ここでは、大学研究室等が「コワーキングスペース等」に含まれるかが検討対象となっているが、第一に大学研究室等が「事業所」に該当するのかどうかが検討対象とされるべきではないか。

総務省が定める日本標準産業分類一般原則の第2項の要件からすれば、
大学研究室等が

(1)一区画を占めて行われていること
(2)財貨又はサービスの生産又は提供が人および設備を有し継続的に行われていること

この2点を満たす可能性はあるように思われる。

以上

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?