フリーランス新法:「就業環境の整備」部分(厚労省所管)の政令・規則委任事項の議論①概要
本稿のねらい
2023年9月11日、厚生労働省雇用環境・均等局が設置する「特定受託事業者の就業環境の整備に関する検討会」(本検討会)の第1回会議(本会議)が開催された。
本検討会の趣旨は次のとおりであり、フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)がフリーランスの就業環境の整備に関して内閣及び厚生労働省(厚生労働省大臣)に委任した事項を検討するところにある。
特定業務委託事業者(発注事業者)が特定受託事業者(フリーランス)に対して行う業務委託に関し、特定業務委託事業者は、広告等による募集情報の的確な表示、育児介護等と業務の両立への配慮、ハラスメント対策、中途解除等の事前予告の措置等を講じることとされており、法の委任に基づき、政令、省令及び告示の下位法令において、その具体的な内容及び実施の細則等を定めることとされている。 これを踏まえ、特定受託事業者の就業環境の整備に関し、必要な下位法令を制定するため、法の委任に基づき下位法令において定めることとされている事項の検討を行うこととする。
以前、同様にフリーランス新法の取引の適正化部分の政省令を検討するために公正取引委員会に設置された「特定受託事業者に係る取引の適正化に関する検討会」第1回会議について紹介したが、本稿も、本検討会においてどのようなことが検討される見込みなのか、スケジュール感はどうかという点に関して簡単に紹介する。
なお、フリーランス新法全般に関しては以前の記事を参考にされたい。
就業環境の整備に関する全体像
以前の記事では、公正取引委員会所管の取引の適正化に関する政省令委任事項を表にまとめたが、今回、厚生労働省が表にまとめてくれているので、それを拝借する。
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公正取引委員会とは異なり、厚生労働省の場合、これら政省令・告示委任事項につきメリハリを付けていないように見える。
つまり、公正取引委員会の場合、明確に、特に重要度が高い、①フリーランス新法第3条第1項の書面等による明示事項と②禁止行為の対象となる継続的な業務委託の期間(同法第5条)の2点について議論を行うとしていた(【資料3】御議論いただきたい事項)のに対し、厚生労働省は、少なくとも資料上はメリハリを付けていないように思われる。
この点、刑事罰まで設けている規制の重要性が高いと考えるのが一般的だと思われるが、そのように考えた場合、①フリーランス新法第12条の募集情報の的確表示と②同法第16条の中途解除等の事前予告・理由開示の2点が特に重要度が高いことになる。つまり、③育児介護等への配慮(同法第13条)や④ハラスメント対策体制整備(同法第14条)については、①②に比べると重要度が劣る。
しかし、衆参両院でのフリーランス新法への附帯決議により、厚生労働大臣が定め公表する指針(同法第15条)において③④の明確化を図るよう求められている関係上、おそらく、あえてメリハリを付けなかったものと思われる。
なお、下図のフリーランス・トラブル110番(第二東京弁護士会所属の弁護士が無料で相談を受けてくれる相談窓口)への相談内容としては、圧倒的に報酬の支払い(不払いや遅延)が多く、次いで条件明示、その後に中途解除・不更新の問題が続き、ハラスメントや育児介護等に関してはほとんど存在しないようである。何らかの理由により相談しづらいという事情があり得るためこの調査をそのまま解釈できないが、やはり相対的に重要度なのは②の中途解除等である。
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┃ Column
以前フリーランス新法全体について紹介した際にも疑問を呈したが、発注事業者に一定の帰責性があるハラスメント云々はともかく、育児介護等への配慮は、育児や介護等を社会として重要なものであると考えるのであれば、雇用保険等広く社会において負担すべきものであり、フリーランスの生活の保障を特定の発注事業者に担わせるべきではない(何ら正当性がない)。
もちろん、育児介護等を理由とした中途解除・不更新や報酬減額等、フリーランスへの不利益な取扱いが認められるかどうかは契約の内容による。
そもそも業務委託の場合、自由に中途解約が可能であることが原則であるし、また契約期間が満了すれば契約が終了するのも当たり前であり、加えて一定の業務水準を見込んで受発注を行った以上、そのパフォーマンスが落ちる、又は落ちることが相当確実に予定される場合、中途解除等が認められることに何ら不合理な点はないように思われる。
また、現実にパフォーマンスが落ちた場合、受託者であるフリーランス側に帰責事由がある以上、報酬減額も認められるものと思われる。
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スケジュール感
本会議資料5によれば、本検討会のスケジュール感は下図のとおり。
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なお、公正取引委員会に設置された「特定受託事業者に係る取引の適正化に関する検討会」のスケジュール感は不明であるが、おそらく報告書の取りまとめのタイミングは同時期になるものと思われる。
以上