【銀行法】規制緩和に関する銀行法施行規則等改正(2024年6月28日パブコメ開始)
本稿のねらい
2024年6月28日、金融庁が「銀行法施行規則の一部を改正する内閣府令(案)」(本改正案)を公表し、同年7月29日までのパブコメに付した。
丁度1年前の今頃、趣旨がよくわからない規制緩和のための銀行法施行規則等の改正につきパブコメを実施していたが、毎年恒例なのかもしれない(「規制改革・行政改革ホットライン(縦割り110番)」の回答次第ではあると思うが)。
【参考】上記記事で紹介した規制緩和は2024年5月18日から施行(なんとパブコメ実施から約1年経過している)
本稿では、本改正案の内容について概説することを目的としている。
本改正案の概要
金融庁のウェブサイトにも記載があるとおり、本改正案は「関係業界団体からの規制緩和要望等に対応するため」のものであり、その概要は次のとおりである。
1.海外組合へのLP出資等に係る議決権の取り扱いの明確化 ★
2.銀行等の特定子会社(投資専門子会社)が出資可能なベンチャービジネス会社の設立年数等要件の緩和 ★
3.銀行等の特定子会社(投資専門子会社)の併営業務(コンサルティング業務等)の範囲の緩和 ★
4.銀行代理業者に係る変更届出(役員の兼職先の内容変更等に係る届出)の見直し
5.上記府省令改正等に伴う所要の規定の整備
6.銀行代理業者の変更届出の様式等について、府省令等改正を踏まえた所要の改正
重要と思われるのは上記★を付けた3点である。
【参考】規制緩和要望の一部
1. 海外組合へのLP出資等に係る議決権の取り扱いの明確化
現状のルール
銀行は、次の3つの趣旨から、他業を営むことが禁止されている(銀行法第12条、主要行等向けの総合的な監督指針Ⅴ-3-1(1))。これは他業禁止規制と呼ばれる。なお、ここでは踏み込まないが、かかる趣旨が現在の銀行が置かれている状況において適切かどうかは議論があり得るところである。(例えば、金融庁金融研究センターの論稿や2021年法改正に際して行われた金融審議会「第2回 銀行制度等ワーキング・グループ」の資料1を参照)
異種リスクの混入防止
本業専念による効率性発揮
利益相反防止
このような銀行の他業禁止規制の潜脱防止のため、銀行には子会社業務範囲規制が課せられており(銀行法第16条の2)、更に「他業禁止の趣旨の徹底と子会社業務範囲規制の潜脱回避の観点」(金融審議会金融分科会第二部会報告「銀行・保険会社グループの業務範囲規制のあり方等について」6頁)から(*)、議決権保有制限規制(いわゆる5%ルール)が課されている(銀行法第16条の4)(**)。 とても厳重にあの手この手で規制されている。
この5%ルールは、概要、次のような構造になっている。
銀行は、本体及びその子会社で合算して、国内の会社の議決権の5%超を取得又は保有することが禁じられる
ただし、次の4つの例外がある
①5%ルールの趣旨は他業禁止規制と子会社業務範囲規制の徹底であるから、それらに抵触しない次の国内の会社の議決権は5%を超えて取得又は保有して問題ない
②担保権の実行その他の事由により国内の会社(①の会社を除く)の議決権を取得又は保有する場合、その日から1年以内に処分すれば問題ない(銀行法第16条の4第2項)
③いわゆる投資専門子会社(法文上は「特定子会社」)が、いわゆるベンチャービジネス会社(VB会社、第16条の2第1項第12号)、特別事業再生会社(同条項第13号括弧書き)、そしていわゆる地域活性化事業会社(同条項第14号)の議決権を取得又は保有する場合、投資専門子会社は銀行の子会社ではないことになる(⇛投資専門子会社が保有するべVB会社等の議決権は議決権保有制限規制から除外される)
④証券子会社が業務として保有する株式の議決権(銀行法施行規則第1条の3第1項第1号)や、ファンド等を通じて取得又は保有する議決権で権利行使の権限や指図権がないものは(同条項第2号から第5号)、「議決権」から除外される(同法第16条の4第9項、同法第2条第11項)
*この第二部会報告は2007年12月18日公表のものであるが、その際には「株式持合いの復活、銀行グループによる産業支配等についての懸念が指摘」されており、直近で5%ルールが改正された2021年銀行法改正時に検討された金融審議会銀行制度等ワーキング・グループの「報告書」でも基本的な姿勢は維持されている。なお、ここで指摘されている懸念については、独占禁止法による手当てがされている(同法第11条、銀行又は保険会社の議決権保有等に関する認可制度)。⇛本改正案に連動して独禁法の規律も改定される?
**銀行のほか、銀行持株会社についても同様規制が課されているが(銀行法第52条の21、同法第52条の23、同法第52条の24)、銀行持株会社に関する議決権保有制限規制は15%ルールである。以下、本稿では特に断らない限り、銀行の規制のみを対象とする。
趣旨&背景
このような現状のルールにおいて、次のような課題があるとされている。
この点、銀行が投資事業有限責任組合(LPS)の有限責任組合員(LP)となるものの、当該銀行が議決権を行使することができない場合又は無限責任組合員(GP)に議決権行使の指図ができない場合、当該組合財産として取得し、又は所有する株式にかかる議決権は、5%ルールの対象となる議決権には含まれない(銀行法第16条の4第9項、同法第2条第11項、同法施行規則第1条の3第1項第3号)。
他方、この例外の対象となるLPSは、我が国の投資事業有限責任組合契約に関する法律に準拠するLPSであることを要求しているように見える(というよりそうである)。
また、「金融庁長官の承認を受けた」株式等で、銀行法施行規則第1条の3第1項第3号・第4号に準ずるものにかかる議決権も、5%ルールの対象となる議決権には含まれない(同項第5号)。この金融庁長官の承認にかかる審査においては、「当該申請に係る株式等について、当該申請をした銀行が議決権を行使し、又はその行使について指図を行うことができないものであるかどうかを審査する」とされており(銀行法施行規則第1条の3第4項)、ポイントは銀行が議決権を行使し、又はその行使について指図を行うことができないものであるかどうかであって、我が国の法律に準拠したLPSや組合契約である必要がない。
そこで、次のような改正提案が出されていた。
これを受けて、金融庁は次のとおり「検討を予定」と回答した。
言葉足らずではあるが(*)、規制緩和を求める事業者団体としては評価できる回答である。
*この回答がなぜ「子会社の判定を行うにあたっては」と置いたのかが説明されておらず、ここだけ見ると、事業者団体が5%ルールの規制緩和を求めているのに対し、金融庁は子会社判定の議論を持ち出しており、話がまったく噛み合っていない。銀行法における「子会社」判定基準は、会社法や会計基準とは異なり、形式基準、つまり「会社がその総株主等の議決権の100分の50を超える議決権を保有する」かどうかのみで判断し(銀行法第2条第8項)、いわゆる支配力基準を採用していない。そんな中、銀行法第2条第11項は、一定支配力基準の要素を取り入れ、上記金融庁回答のとおり「親会社となる会社が実質的に子会社に対して議決権を行使しうるか否かという点」が考慮されるのである。
本改正案
本改正案によれば、事業者団体からの規制緩和要望にあったLPSをあわせて次の3点につき規制が緩和される(太字部分が追記される予定)。
https://www.fsa.go.jp/news/r5/ginkou/20240628-2/01.pdf(2-3頁)
金融機関の信託業務の兼営等に関する法律(中略)第6条の規定により元本の補塡又は利益の補足の契約をしている金銭信託(外国において外国の法令に基づいて設定された信託で当該金銭信託に類するものを含む。)以外の信託にかかる信託財産である株式等のうち、当該株式等に係る議決権について、委託者又は受益者が行使又はその行使について当該議決権の保有者に指図を行うことができないもの(銀行法施行規則第1条の3第1項第2号)
投資事業有限責任組合契約に関する法律(中略)第2条第2項に規定する投資事業有限責任組合(以下「投資事業有限責任組合」という。)の有限責任組合員(外国の法令に基づいて設立された団体であつて投資事業有限責任組合に類似するもの(以下この号において「投資事業有限責任組合類似団体」という。)のこれに相当する構成員を含む。以下この号において「有限責任組合員」という。)となり、組合財産(投資事業有限責任組合類似団体の財産を含む。)として取得し、又は所有する株式等(有限責任組合員が議決権を行使することができる場合及び議決権の行使について有限責任組合員が投資事業有限責任組合の無限責任組合員(投資事業有限責任組合類似団体のこれに相当する構成員を含む。)に指図を行うことができる場合を除く。)
民法(中略)第667条第1項に規定する組合契約で会社に対する投資事業を営むことを約するものによつて成立する組合(外国の法令に基づいて設立された団体であつて当該組合に類似するもの(以下この号において「民法組合類似団体」という。)を含み、1人又は数人の組合員(民法組合類似団体の構成員を含む。以下この号において同じ。)にその業務の執行を委任しているものに限る。)の組合員(業務の執行を委任された者を除く。以下この号において「非業務執行組合員」という。)となり、組合財産(民法組合類似団体の財産を含む。)として取得し、又は所有する株式等(非業務執行組合員が議決権を行使することができる場合及び議決権の行使について非業務執行組合員が業務の執行を委任された者に指図を行うことができる場合を除く。)
よく見ると、上記1の元本補填型金銭信託と、上記2のLPS及び上記3の民法組合において、追記された内容が異なる。
つまり、上記1の元本補填型金銭信託は、「外国において外国の法令に基づいて設定された信託で当該金銭信託に類するもの」が含まれることになっており、設定地が外国であることが要求されている。
他方、上記2のLPSや上記3の民法組合は、「外国の法令に基づいて設立された団体」でLPSや民法組合に類似するものであればよく、設立地が外国であることが要求されていない。
これは、深く考えるべきなのかどうか悩ましいのだが、次のように考えることができるのではないかと思う。
まず、法律行為の成立・効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法に準拠する(法の適用に関する通則法第7条)
次に、当事者が選択しない場合、法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地(最密接関係地)の法に準拠する(法の適用に関する通則法第8条第1項)
この点、事業者団体が要望している場面においては、LPSや民法組合類似の契約締結に我が国の銀行も当事者として関与することが念頭に置かれていると思われ、その場合は、上記法の適用に関する通則法第7条又は第8条により準拠法が定まり、大抵、外国法が選択される
他方で、信託については、出資者として関与する場合、委託者として信託設定に関与するのではなく、あらかじめ外国の委託者と受託者の間で自益信託が行われ、委託者兼当初受益者が保有する信託受益権を出資者である我が国の銀行に譲渡(販売)する形態かと想像するが、その場合、あらかじめ外国において、外国の法令に基づいて信託が設定されていることになる
このように、論理的又は理論的に「外国において」という一節が挿入されたというよりは、実際的又は実務的に、そもそも「外国において」あらかじめ設定された外国法準拠の信託受益権を購入することで出資するはずだ、という押し付け?だと思われる。あえてこのように限定する必要はあるのか?
2.銀行等の特定子会社(投資専門子会社)が出資可能なベンチャービジネス会社の設立年数等要件の緩和
現状のルール
上記5%ルールの例外の箇所で説明したとおり、銀行は投資専門会社を経由することで5%ルールに抵触することなく、銀行とは他業を行うベンチャービジネス会社の議決権を保有し(銀行法第16条の4第7項)、なんなら子会社とすることもできる(同法第16条の2第1項第12号)。(*)
*この点、銀行法第16条の4第7項と同法第16条の2第1項や同法第2条第8項について誤解・混乱しないよう注意が必要である。つまり、例えば銀行がベンチャービジネス会社の議決権の過半数を保有する場合、当該ベンチャービジネス会社は銀行の「子会社」(同法第2条第8項)ではあるが、ベンチャービジネス会社は「子会社対象会社」(同法第16条の2第1項第12号)であるため子会社業務範囲規制には抵触しない。他方で、もし同法第16条の4第7項がなければ、銀行はベンチャービジネス会社(同条第1項において除外されていない)の議決権を5%超保有できないため、5%ルールには抵触してしまう。それを整合させるのが同法第16条の4第7項である。
ベンチャービジネス会社は、「新たな事業分野を開拓する会社として内閣府令で定める会社」とされており、2021年銀行法改正及びそれに伴う銀行法施行規則改正により要件が相当程度緩和され、現時点では、①非上場であること②「新事業活動を行う中小企業者」であること③設立の日又は新事業活動開始日から10年未満であることの3点のみが要件とされている(銀行法施行規則第17条の2第5項)。
なお、2021年銀行法改正の土台となる議論が行われた金融審議会『銀行制度等WG』の報告書「銀行制度等ワーキング・グループ報告ー経済を力強く支える金融機能の確立に向けてー」においては、それまでの要件で特に厳しい印象のある常勤研究者の人数や研究開発費の収入に対する割合等に関する画一的な数値基準は撤廃する一方、「非上場であることや設立などから一定期間を経過していないことは、引き続き要件とする」とされていた。
趣旨&背景
このように、ベンチャービジネス会社の要件は直近で緩和されているが、一部事業者団体からは次のような要望がある。
個人的にはこの規制緩和を求めた事業者団体の要望自体にまったく異論はないが、いまいち必要性とかが説明できていない気がしている。
つまり、ベンチャービジネス会社の議決権は投資専門会社を通じて15年保有できることになっており(銀行法施行規則第17条の2第12項)、その間にベンチャービジネス会社が設立後又は新事業活動開始後10年経過してしまうこともあり得るが、その場合でも、原則として当該ベンチャービジネス会社は同条第5項の要件を満たすベンチャービジネス会社であるとされている(同条第9項)。そのため、銀行が投資専門会社を通じて「成長企業」を支援しようと思えば、当該成長企業の設立後又は新事業活動開始後10年以内に投資を行えば足りるのであって、そこから10年でも20年でも待てばよい。
上記要望を見るに、銀行が投資専門会社を通じて支援しようと思っているのは、成長した/成長が相当程度見込まれる企業であり、そこまで達する/達すると見極めるのには設立後又は新事業活動開始後10年では足りない、ということを意図しているのだろう。(自分たちではリスクを取って成長させずに、誰かがリスクを取って成長させた企業に投資したいということだろう)
金融庁は「銀行グループが出資可能なスタートアップの範囲を拡充する」と回答しているが、設立後又は新事業活動開始後10年が経過した会社を「スタートアップ」と呼べるのかは怪しいのではないか。経済産業省の資料によれば、スタートアップとは①新しい企業であり②新しい技術やビジネスモデル(イノベーション)を有し③急成長を目指す企業とされているが、①の妥当性が怪しい気がする。
おそらく問題の設定の仕方自体がおかしい。
法文上は単に「新たな事業分野を開拓する会社」(銀行法第16条の2第1項第12号)としか規定していないのだから、「スタートアップ」か否かは問うておらず、「スタートアップの範囲を拡充」というのは意味がわからない。
また、新しい技術やビジネスモデル(イノベーション)を有し追求する会社の設立又は新事業活動開始からの期間制限を設ける必要はない(⇛期間制限の撤廃)。
本改正案
本改正案によれば、銀行が投資専門会社を通じて投資可能なベンチャービジネス会社の設立又は新事業活動開始からの期間制限が10年から20年に伸長されることになる。
上記資料によれば、ベンチャービジネス会社の範囲はエンジェル税制の対象と基本的には同一とされているようだが、本改正案がエンジェル税制の要件にも影響を与えることはないと思われる。あくまで本改正案は銀行によるベンチャービジネスへの投資を促すものであり、エンジェル投資家によるそれではないためである。
3.銀行等の特定子会社(投資専門子会社)の併営業務(コンサルティング業務等)の範囲の緩和
現状のルール
ここまで散々触れてきた「投資専門会社」とは、金融関連業務(銀行法第16条の2第2項第2号)のうち資金供給業務(ベンチャーキャピタル業務)(同法施行規則第17条の3第2項第12号)及びハンズオン支援のためのコンサルティング業務(同法施行規則第17条の2第14項)を専ら営む銀行子会社を意味する(同法第16条の2第1項第12号括弧書き)。法文上は「特定子会社」とされている。
2021年銀行法改正及びそれに伴う銀行法施行規則改正以前は、投資専門会社はベンチャーキャピタル業務とそれに附帯する業務のみが行うことができるとされていたが、同改正により、投資専門会社のハンズオン支援能力を強化する観点で、投資先へのコンサルティング業務等が投資専門会社の業務に追加された(⇛現行銀行法施行規則第17条の2第14項第2号)。
趣旨&背景
このように、投資専門会社の業務範囲については直近で緩和されているところであるが、一部事業者団体からは次のような要望がある。
2021年改正時には投資専門会社とその出資先との利益相反等管理体制整備があわせて求められていたが、上記要望に照らすと、更に銀行・投資専門会社と銀行出資先との利益相反等管理体制が必要となるのではないか。
本改正案
次のとおり、投資専門会社によるコンサルティング業務等は、「主として」当該投資専門会社の出資先に対して行う必要があるが、出資先以外へのコンサルティング業務も可能になる。
以上