フリーランス新法:「取引の適正化」部分(公取委所管)の政令・規則委任事項の議論①概要
本稿のねらい
2023年8月3日、公正取引委員会に設置された「特定受託事業者に係る取引の適正化に関する検討会」の第1回会議が開催された(公正取引委員会ウェブサイト)。
その目的は、次のとおり、2023年5月に公布された特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス新法)の政省令委任事項の検討のためである。
特定受託事業者に係る取引実態は業種によって様々であることから、各業種に関する取引実態を踏まえ、同法の施行に向けて政令又は公正取引委員会規則で定めることとされている事項について検討を行うことなどを目的として、「特定受託事業者に係る取引の適正化に関する検討会」を開催する。
フリーランス新法のうち、公正取引委員会が所管するのは「取引の適正化」に関する事項、つまり、フリーランス新法第2章「特定受託事業者に係る取引の適正化」にかかる事項である。
その中で、政令又は公正取引委員会規則に委任されている事項は、次のとおり。
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この検討会では、政省令委任事項のうち、特に重要度が高い、①フリーランス新法第3条第1項の書面等による明示事項と②禁止行為の対象となる継続的な業務委託の期間(同法第5条)の2点について、主に議論が行われる模様(【資料3】御議論いただきたい事項)。
※ 以下、フリーランス新法に関しては単に「第◯条」と記載する
本稿では、第1回会議の資料等をまとめることを目的とする。
本来であれば何らかの予測を立てたいところだが、議事録もなく、また議事要旨を見ても特に進捗がなさそうであり(多くの委員は総論的な所信演説だけした模様で何の役にも立たない)、何ら予測が立たない。
なお、フリーランス新法全般に関しては以前の記事を参考にされたい。
書面等による明示事項
(1) フリーランス新法の規定
フリーランス新法によると、書面等によりフリーランスに対して明示しなければならない事項は、次のとおりである(第3条第1項)。
フリーランスの給付の内容
報酬の額
支払期日
その他の事項
この「その他の事項」について検討が進められているということである。
その点、以前の記事では、下請法第3条の書面の記載事項等に関する規則第1条第1項と自営型テレワークガイドラインを参考に次のように想定した。
«想定される明示事項»
① 発注事業者の名称、住所その他連絡先
② 業務委託を行った日
③ 給付又は役務の内容
④ 給付を受領する期日又は役務が提供される期日
⑤ 給付を受領する場所又は役務が提供される場所
⑥ 給付又は役務の内容を検査する場合はその検査完了の期日
⑦ 報酬の額
⑧ 報酬の支払期日
⑨ 再委託に関する事項(フリーランス新法第4条第3項)
⑩ その他:諸経費の取扱い、知的財産権の取扱いなど
「フリーランス・トラブル110番」に寄せられる相談内容は次のとおりとのことであり、給付内容と報酬の点だけでも明示事項に入っていれば、相当数のトラブルは防止可能と思われる。
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他方で、トラブル自体は一定程度防止できるとしても、仮にトラブルが発生した場合に対応が困難というケースもあるとのことで(当然あるだろう)、次に見るように、「当事者の連絡先」は氏名・住所にするかは別として、当事者を特定し得る情報の明示が必要なのではないかと思われる。
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(2) 第1回会議での検討(やり取り)〜議事要旨から〜
議事要旨を見る限り、フリーランスが発注する立場以外、つまり通常の会社や従業員を雇っている個人事業主に関しては、氏名・名称、住所・本店所在地といった「当事者の連絡先」は明示すべきであるという見解が多い。
ここで、フリーランスが発注する場合が除外されるのは、フリーランスはオンラインで受発注することも広がっており、そのときに本名を出さないケースがあり、氏名や住所が明示事項となると事実上取引が困難になる可能性があるためとのこと(第1回会議議事要旨2頁)。
最も入れていただきたい事項は、当事者の連絡先である。
トラブルが発生した場合において、和解あっせんや少額訴訟を行ったり、内容証明郵便を送付したりしようとするときに、氏名や住所が分からないということが非常に多いが、トラブル解決に支障があるため是非入れていただきたいと考えている。本法第3条の明示義務は業務委託事業者全般が対象となることから、個人情報の問題もあるかもしれないが、少なくとも企業や従業員を雇っている個人事業主であれば氏名や住所を示すべきではないかと考える。
したがって、「例えば発注事業者がどのような者であるかによって明示すべき内容を異なるものとすることも一案」とされている(第1回会議議事要旨3頁)。
その他、報酬に関連して、「一定の場合に違約金や罰金を請求するという事項については、受け取る金銭に関係するため、明示しなければならない事項に入れるべきではないか」という意見もある(第1回会議議事要旨1頁)。
しかし、この点については、違約金や罰金の請求を行うのは発注者側だろうと思われるところ、その請求に関して主張立証責任を負うのも発注者側であることから、自らの権利として請求する以上は、何らかの形で合意の姿まで昇華させなければならず、明示事項として義務付けるべき必要性は何一つとしてないと思われる(以前の記事でも同じことを指摘した)。
禁止行為の対象となる継続的な業務委託の期間
おそらく第2回会議以降の検討となる模様。
なお、以前の記事でも指摘したが、個人的にはこの期間制限は撤廃されるべきであると考える。
とはいえ、フリーランス新法にて「政令で定める期間以上の期間行うもの(当該業務委託に係る契約の更新により当該政令で定める期間以上継続して行うこととなるものを含む。)に限る」と規定されてしまっている以上、何らかの期間を設けないことはできない。
そのため、この期間を1日〜7日とか、そのくらいに短期間に設定するのが適切ではないかと思われる。
委員の中にはこの期間制限を問題視する委員もあるようであり、この点、期待したい。
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以上