本稿のねらい
以前、口座登録法と口座管理法の金融機関関係の施行規則案のパブコメについて記事を書いたきり放置してしまったが、2024年4月1日に口座登録法と口座管理法の双方が本格施行(※)された。
※ 口座登録法については、以前の記事のとおり、その一部であるマイナポータル方式(同法第3条第2項、同法施行規則第4条)と国税庁方式(同法第5条、同法施行規則第10条)については既に施行済みであった。口座管理法については預金保険機構関連の準備規定が公布日から施行されていたのみであった。
そして、2024年4月10日、デジタル庁から「マイナンバー法関係法等の施行日を定める政令が閣議決定されました」というプレスが出された。
これによると、2024年4月9日の閣議において「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」が決定されたようである。(令和6年4月12日付け官報号外第93号に掲載されている政令第169号がそれである)
以前の記事で別途記事を書くと言いながら放置してしまった法律が、今回施行日が2024年5月27日と定められた「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律」(以下「23年マイナンバー法改正法」という。)である。
本稿では、主にデジタル庁「概要」資料の右下(赤枠)に位置する「行政機関等経由登録の特例制度」について簡単に説明を行うことを目的とする。
なお、この23年マイナンバー法改正法は、口座登録法には関係するものの、口座管理法には一切関係がない(23年マイナンバー法改正法の新旧対照表を見れば自ずと明らかである)。
しかし、2024年4月1日本格施行の口座管理法と、同年5月27日施行となる口座登録法を改正する23年マイナンバー法改正法のうち行政機関等経由登録の特例制度が(無邪気に?)混同された結果、次のようなデマが拡散されているとのことである(真偽の程は未確認)。
行政機関等経由登録の特例制度
(1) 口座登録法の制度概要
必ずしもわかりやすくはないが、こちらを参照あれ。
(2) 口座登録法の公金受取口座の登録方法
口座登録法制定時に想定されていた公金受取口座の登録方法は次のとおりである。つまり、元々国税庁のみではあったが行政機関経由での登録に関する特例は用意されていた。
マイナポータル方式(基本形)
国税庁(確定申告)方式(特例形)
金融機関方式(委託形※未施行)
23年マイナンバー法改正法により、上記が次のように変更されることになる。つまり、これまでの行政機関経由での登録に関する特例制度に日本年金機構方式が追加されることになる。
マイナポータル方式(基本形)
国税庁(確定申告)方式(特例形)
日本年金機構方式(特例形)
金融機関方式(委託形※未施行)
(3) 日本年金機構方式〜オプトアウト方式を許容〜
これまでの国税庁(確定申告)方式は、いわゆるオプトイン方式であり、申告者が所得税の還付申告を行う際の還付金受取口座として確定申告書に記載/e-taxに入力する金融機関情報を、申告者の同意を得た場合に限り、公金受取口座として登録することが可能である。
これは元々の発想として、公金受取口座の登録は任意であり、マイナンバーと金融機関情報の双方を持つ国税庁といえども、個人の明確な同意がなければ公金受取口座として登録することを控えるべきであると考えられたためだと思われる(口座登録法第1条前段が重視された)。
これに対して日本年金機構方式は、緩やかではあるが、基本的にはいわゆるオプトアウト方式を許容するものである。
つまり、
まず、年金受給者に対して書留郵便により同意/不同意の回答を求める。
① 年金受給者が同意する回答をした場合
もちろん年金受給口座を公金受取口座として登録する(※)
※ただし、既に当該年金受給者が公金受取口座を登録していた場合、その旨と当該公金受取口座は変更されない旨を通知するらしいが(口座登録法第5条の2第3項)、あらかじめ既登録者は除外すべきではないか。
② 年金受給者が不同意の回答をした場合
もちろん年金受給口座を公金受取口座として登録しない
③ 年金受給者が書留郵便到達から30日以上の期間で施行規則に定められる期間内に同意/不同意の回答をしない場合(口座登録法第5条の2第1項柱書括弧書き、同項第2号)
特例措置により同意したものとして扱い年金受給口座を公金受取口座として登録する
なお、公金受取口座は、都度変更が可能であるが、現時点及び23年マイナンバー法改正法が施行される2024年5月27日時点でもマイナポータル方式でしか変更ができないため(口座登録法第4条※金融機関方式は未施行)、一定の混乱は予想される。
この日本年金機構方式は、次の趣旨であると説明されているが、高齢者にとって身近である(と信じられている)金融機関の窓口での公金受取口座の登録(金融機関方式)が未施行、かつ2024年末頃のスタートを予定していることから、それを遅いと感じ待てなくなったための特例措置であると思われる。
ここに至っては、個人の明確な同意よりも公金受取口座の登録が優先されたということだろう。下記にもあるとおり、年金受取口座が公金受取口座に登録されたからといって、何ら不利益は生じない(※)以上、明確な同意を求める理由はないだろう。
※ 元々マイナンバーと口座情報は政府に知られている以上、状態に何ら変化は生じない。つまり、口座情報を知られている以上、必要性に応じて口座の履歴について金融機関に照会を行うことは可能であり、税金等の滞納があれば当該年金受取口座に強制執行を行うことも可能である。また、年金受取口座は普段利用されている口座であろうから公金の入金に気付かないということも起こりにくい。
(4) オプトアウト方式を許容することについての賛否
そもそも論
みなし同意成立の期間
公金受取口座の変更関係
以上