新規ビジネス促進制度:グレーゾーン解消、サンドボックス、国家戦略特区など

本稿のねらい


筆者の記事には、グレーゾーン解消制度に関するもの、国家戦略特区に関するもの、規制改革推進会議に関するものが多いが、それに規制のサンドボックス制度を加えると、我が国における規制改革スキームが完成する。

<グレーゾーン解消制度関係>

<国家戦略特区関係>

<規制改革推進会議関係>

規制のサンドボックス制度の事例(本稿執筆時点で最新の認定PJはこちら)は別途紹介することを予定しているが、本稿では、新規ビジネスを検討中の事業者が活用できる制度の概要を説明する。

特に革新的なビジネスアイデアをもつスタートアップにとって、非常に有益な制度もあるため、創業段階から念頭に置いておいて損はない。

スタートアップは、新しい事業に果敢に取り組み、機動的に事業展開を図る、イノベーションの担い手です。その挑戦によりさまざまな課題解決が進み、新しい市場や産業が切り拓かれ、人々の暮らしが豊かになります。(中略)
<規制対応は企業にとってトッププライオリティ事項>
⚫一方、スタートアップが新しい事業やサービスに取り組む際には、様々な規制やルールへの対応が不可欠です。規制対応ができていないと、事業の実施、資金調達、顧客獲得の面でのリスクとなります。創業時から、規制を意識し、確認し、対応する必要があります。

経済産業省「スタートアップの成長に向けた規制対応・規制改革参画ツールの活用に関するガイダンス- みんなの規制対応・規制改革-」(以下「スタートアップガイダンス」)1頁

新規ビジネス促進制度の全体像


新規ビジネス促進制度は、基本的に規制改革(緩和)を通じて行われるが、その要望の内容規制改革が行われる単位(範囲)目的に応じて、大きく3つの制度に分けられる(「三層構造」)。

この関係を簡単な図にしたものが次のものである。

経済産業省「産業競争⼒強化法に基づく事業者単位の規制改⾰制度について」を参考に
2023年8月9日筆者作成

«規制改革推進会議の概要»
規制改革推進会議は、内閣府設置法第37条第2項に基づく、内閣府本府組織令第31条により設置され、規制改革推進会議令により運営される合議制の審議会である。内閣総理大臣の諮問に応じ、経済社会の構造改革を進める上で必要な規制の在り方の改革に関する基本的事項を総合的に調査・審議し、内閣総理大臣に意見を行うことを主要な任務としている。(内閣府本府組織令第32条、内閣府ウェブサイト

«国家戦略特区の概要»
国家戦略特区とは、国家戦略特別区域法第2条第1項において定められた国家戦略特別区域の略称である。本稿執筆時点では政令により13の区域が指定されている。
国家戦略特区では、①岩盤規制を突破する「特例措置の創設」、②実現した特例措置を自治体・民間事業者が活用する「個別の事業認定」の2つのプロセスがある(国家戦略特区ウェブサイト)。

«規制のサンドボックス制度等の概要»
規制のサンドボックス制度(新技術等実証制度)、グレーゾーン解消制度、新事業特例制度はいずれも産業競争力強化法に基づく、事業者単位で、個々の事業内容に即し、事業化・規制改革を推進するための制度である。
このうち、「新技術等実証」(同法第2条第3項)を対象とするのが規制のサンドボックス制度(同法第6条、第8条の2以下)、「新事業活動」(同法第2条第4項)を対象とするのが新事業特例制度(同法第6条、第9条)であり、いずれも対象とするのがグレーゾーン解消制度(同法第7条)である。

規制との向き合い方


(1) 規制と向き合うことの重要性・必要性

一般に、「規制」と聞くと面倒に感じたり、あるいは過剰にリスクを感じたり、デメリットしか目に入らないことが多いように思われる。それは、一面では正解だが、多くの場面においては不正解である。

つまり、規制と向き合うことで、次の2つの意義がある(スタートアップガイダンス7頁)。

  1. 規制リスクを最小化可能

  2. 新たな市場を創造可能

1点目は、誰もが思いつく意義である。
ここで「規制リスク」とは、狭義には、規制に抵触することで、ステークホルダーからの信用を喪失し、行政処分により業務や営業を停止せざるを得ず、最悪の場合、刑事罰が科されることを指し、広義には、規制対応に必要な時間・費用(コスト)が増大することも含むと考えられる。
規制やリスクがないところから大きな事業は生まれないことが真であれば、リターンを最大化しつつリスクは最小化することが法務の役割となる。
規制と真摯に向き合うことで、事業継続が可能となり、ステークホルダーからの信頼を維持・獲得でき、規制対応へのコストを最小限に抑えるなど、最終的には「規制リスク」を最小化することが可能となる。

2点目は、最近のトレンドである。特に規制のサンドボックス制度を用いた「電動キックボード」(2022年4月には道路交通法等の改正に繋がった)、「ブロックチェーン」や「無人店舗」等による動きが活発である。

⚫規制改革におけるルール作りの段階から参画することにより、新しい市場環境の創出に貢献でき、ファーストムーバーとして迅速に事業化を行うことができます。
⚫日本型ルールに対応した実績を踏まえ、海外展開などの事業拡大で、優位に進めることができる場合があります。

スタートアップガイダンス7頁

(2) 規制との向き合い方

スタートアップガイダンスを参考に2023年8月9日筆者作成

«STEP1 - 規制の特定/理解・確認»

多くのスタートアップにとって、最初にぶつかる大きな壁は、自己の事業に適用される規制が何かわからないことである。
我が国において法律だけでも2000本以上あるとされており(DB登録法令数)、その下位規則や省庁が公表しているガイドライン等を含めると1万以上の規制(ルール)があるともいえ、その中から、自己の事業に適用される規制を "探し当てる" ことは至難の業である。

とはいえ、「規制リスク」でいうところの規制は、この中でも所定のライセンスが必要な業法や、業界横断的に適用がある基本的なルールを定める法令等であり、限定的といえば限定的である。

業法や基本的なルールを定める法令は、次の資料がわかりやすい。

スタートアップガイダンス6頁

このあたりを参考にしつつ、Google等のインターネット検索エンジンやChat GPT等の生成AIを用いて、適当に検索することも重要である。

(Chat GPTに法務アウトソーシングについて尋ねた例)

質問:日本において、資本関係のない会社から委託を受けて、契約書作成、法務相談対応、その他法務に関する業務のアウトソーシングを行うことを検討しています。 この場合、何らかのライセンスが必要となるでしょうか。

回答:日本において、法務業務のアウトソーシングを行う場合、一般的には法律に基づく特別なライセンスは必要ありません。しかし、いくつかの留意点や規制が存在する可能性がありますので、注意が必要です。

以下に考慮すべきポイントを示しますが、専門的な法的アドバイスを受けることをお勧めします。
弁護士法の規制: 日本において、法律の専門家(弁護士)による法的業務の提供は、弁護士法に基づくライセンスが必要です。契約書作成や法務相談など、法的なアドバイスを提供する場合、弁護士でない者がこれらの業務を行うことは制限される可能性があります。
司法書士や行政書士の関与: 弁護士法以外にも、司法書士や行政書士など、特定の法律関連業務を行うためのライセンスが必要な場合があります。特に、不動産登記や一部の法的手続きには司法書士の関与が求められることがあります。
民間企業との契約: 資本関係のない会社からの業務委託に際しては、契約書を十分に明確かつ適切に作成することが重要です。契約書の内容や範囲、報酬などを詳細に定め、紛争を防ぐために努力する必要があります。
業務の範囲と専門性: 提供する業務の範囲や専門性によっては、特定の法的知識やスキルが必要とされる場合があります。特に、契約書や法的文書の作成においては、法的正確性や専門性が求められます。
業界の規制: 提供する業界によって、特定の規制や法的要件が異なることがあります。例えば、金融業界や医療業界などは、業界特有の法的要件が存在する可能性があります。

最終的には、専門家の法律アドバイスを受けることが重要です。弁護士や司法書士、行政書士などの専門家と相談し、提供する業務の範囲や法的要件について適切な対応を検討することをお勧めします。

(Chat GPTにステーブルコイン発行について尋ねた例)

このように、古くからある規制に関しては、規制の大枠を掴むくらいであれば使い道があるように思われるが(弁護士法の論点があることまでは指摘されているが、具体的にどういう論点があるのかまでは指摘がない⇨グレーゾーン解消制度)、最新の規制に関してはデータ自体保有していないことから近いところまでは行っているものの精度が低くなってしまう点に留意が必要である。なお、もっと根掘り葉掘り聞いていけば精度があるのかもしれないが、今回はあくまで参考程度であり、深掘りすることは措く。

ここまでやってから、弁護士に相談する方がよい。
弁護士といっても専門化が進んでおり、例えば金融には強い弁護士でも環境やインフラに関しては何もわからないということもあり、ある程度のあたりを付けてから相談に望む方が、弁護士も勉強することで備えることができるため有意義な相談となりやすい。
(ちなみに、「何もわからない」というのは、触れたことがないため急に聞かれてもわからないという意味であり、基本的に、通常以上の能力を持つ弁護士であれば、触れたことがなくとも法令等を調べれば理解はできるし、ライセンス関連の相談に乗ることくらいは可能である)

この点、弁護士の知り合いがなく、どの弁護士に相談したらいいのかわからないというスタートアップもあろう。
その場合、「スタートアップ新市場創出タスクフォース」を頼ることが考えられる。1時間の相談を2回まで、スタートアップ支援を専門とする弁護士が無料で受けてくれるらしい。

«STEP2 - 対応方針の決定»

規制を特定した後は、自己の事業が規制に抵触するかどうかを検討することになる。

その結果、自己の事業が規制に抵触する又は抵触する可能性が高いという判断に至った場合、基本的には、①規制に抵触しない範囲内で事業を実施する②規制に抵触しないことを確認する③規制を変えるという3つの方法があり得る。

①は何ら目新しいことではなく、従来、新しい芽が摘まれてきた原因であるが、②③については近年のトレンドとして、可能な限りビジネスを前に進めるという政策から推進されている。

②については、グレーゾーン解消制度や各省庁が独自に行なっているノーアクションレター制度がある。

③については、上記「三層構造」の仕組みの中で、いくつかの方策があり得る。本稿では、特に、規制改革推進会議国家戦略特区規制のサンドボックス制度新事業特例制度について簡単に説明を行う。

スタートアップガイダンスを参考に2023年8月9日筆者作成

(3) 規制改革推進会議

規制改革推進会議の概要は上記「新規ビジネス促進制度の全体像」で概要を説明したとおりであり、内閣総理大臣の諮問機関である。

スタートアップガイダンスを参考に2023年8月10日筆者作成
※WGについては作成時点のもの

規制改革推進会議の議題に上がるものは、よほどの岩盤規制でない限り、相応の措置がされ、規制改革が成っていることが多い。

例えば、2022(令和4)年6月7日閣議決定にかかる規制改革実施計画では、全体で187件の措置が検討されたところ、2023(令和5)年6月時点で、うち82件が措置済み、うち65件が検討中、残り40件が未措置となっている。
また、2021(令和3)年6月18日閣議決定にかかる規制改革実施計画では、全体で107件の措置が検討されたところ、2023(令和5)年6月時点で、うち49件が措置済み、うち34件が検討中、残り22件が未措置となっている。
他の年次の規制改革実施計画でも、全体の概ね50%程度が措置済み、残りも検討中となっており、純粋な未措置はほとんどない。
(以上、2023年6月1日付け「『規制改革実施計画』のフォローアップの結果について」2-5頁参照)

他方で、規制改革推進会議の議題に上げるためには、数年越しの規制改革要望等が必要で、とにかく声を大きくしてニーズを訴え続けなければならないため、スタートアップ向きではない。

(4) 国家戦略特区

国家戦略特区は、構造改革特区、総合特区、国家戦略特区の3つの特区制度の1つであり、国家戦略特別区域法に基づき指定された区域限定で「岩盤規制」を突破することを期待されている。

なお、構造改革特区は、特例として措置された規制改革事項であれば、全国どの地域でも活用できる制度であり、 総合特区は、地域の特定テーマの包括的な取組を、規制の特例措置に加え、財政支援も含め総合的に支援する制度である(国家戦略特区ウェブサイト)。

国家戦略特区ウェブサイトスタートアップガイダンスを参考に2023年8月10日筆者作成

これまでに国家戦略特区が実現した特例措置は128項目にものぼるという(下表)。これまでの成果については、「国家戦略特区の活用事例」に綺麗にまとまっている。

国家戦略特区の活用事例27頁

その上で、区域計画の認定について、活用事項数は68、認定事業数は446とのこと(下図)。

国家戦略特区の活用事例1頁

あまり詳しくない分野の規制が多いため、どのあたりが「岩盤規制」なのかよくわからないが、2014(平成26)年5月に特区の1次指定がされてから9年強で相応の結果なのか…?

いずれにせよ、特例措置の創設から個別の事業認定まで相当の時間を要すると思われること、特定の区域のみで事業実施が可能となるに過ぎないことから、IT系に多いスタートアップには不向きかもしれない。ただし、ここでは詳細は触れないが「スーパーシティ構想」はAI・データ利活用を基本原理とすることから(「「スーパーシティ」構想について(令和5年8月更新)」)、その意味ではスタートアップにも入り込む余地はあるように思われる。

(5) 規制のサンドボックス制度

規制のサンドボックス制度は、正式には「新技術等実証制度」といい、産業競争力強化法第2条第3項・第8条の2以下に根拠がある(2021年6月以前は生産性向上特別措置法に根拠が置かれていた)。

(定義)
第2条
3 
この法律において「新技術等実証」とは、次の各号のいずれにも該当するものをいう。
 新技術等(我が国において産業競争力を特に強化すべき事業分野に属する事業活動において用いようとする革新的な技術又は手法であって、当該事業分野において著しい新規性を有するとともに、当該事業活動で用いられることにより、高い付加価値を創出する可能性があるものをいう。以下同じ。)の実用化の可能性について行う実証であって、その実施期間及び当該実証に参加する者(当該実証により権利利益を害されるおそれがある者があるときは、その者を含む。(中略)「参加者等」という。)の範囲を特定し、当該参加者等の同意を得ることその他当該実証を適切に実施するために必要となる措置を講じて行うものであること。
 新技術等の実用化に当たって当該新技術等に関する規制について分析する場合にあっては、当該新技術等を実用化するための規制の在り方を含めた課題についての分析及びその結果の検討を行うものであること。

(新技術等実証計画の認定)
第8条の2 新技術等実証を実施しようとする者は、その実施しようとする新技術等実証に関する計画(以下「新技術等実証計画」という。)を作成し、主務省令で定めるところにより、これを主務大臣に提出して、その認定を受けることができる。

産業競争力強化法
スタートアップガイダンス等を参考に2023年8月11日筆者作成

基本的な思想は、「まずやってみる」ことにある。

つまり、目指すビジネスが新技術等を活用するもので既存の規制との抵触が問題となる場合、実験的な活動すら違法行為となることが躊躇われ、実証実験すらせずやめてしまうことが多かったが、それでは国際的な競争に勝つことが難しくなる。

そこで、実証実験を行い必要なデータを収集することで、規制当局に対し、新技術やビジネスモデルの理解促進を図り、かつ、リスク計測を容易にするべく、「まずやってみる」ことを許容する制度(仕組み)が必要となる。

内閣官房「規制のサンドボックス制度(新技術等実証制度)について」8頁

申請から認定までは、申請から新技術等効果評価委員会の意見取得まで1か月以内、そこから主務大臣が認定するまでが1か月以内であり、概ね2か月程度かかることが見込まれる。

実証実験の期間は、実証データを取得するために必要な期間であり、3か月から6か月の期間を設定することが可能とされている(内閣官房ウェブサイト)。

これまで、本稿執筆時点で30計画が認定されており、うち2つは法改正に至っている(①電動キックボードに関し2022年4月道路交通法改正②SMS利用の債権譲渡通知に関し2021年6月の産業競争力強化法改正)。

経済産業省「産業競争⼒強化法に基づく事業者単位の規制改⾰制度について」6頁
※本稿執筆時点では既に30計画が認定されている

(6) 新事業特例制度

新事業特例制度は、新たな事業活動を⾏おうとする事業者が、その⽀障となる規制の特例措置を提案し、安全性等の確保を条件として、事業者単位で、規制の特例措置の適⽤を認める制度であり、産業競争力強化法第2条第4項・第6条・第9条に根拠がある。

(定義)
第2条
4 
この法律において「新事業活動」とは、新商品の開発又は生産、新たな役務の開発又は提供、商品の新たな生産又は販売の方式の導入、役務の新たな提供の方式の導入その他の新たな事業活動であって、産業競争力の強化に資するものとして主務省令で定めるものをいう。

(新たな規制の特例措置の求め)
第6条 新たな規制の特例措置の適用を受けて新技術等実証又は新事業活動を実施しようとする者は、主務省令で定めるところにより、主務大臣に対し、当該新たな規制の特例措置の整備を求めることができる。

(新事業活動計画の認定)
第9条 新事業活動を実施しようとする者は、その実施しようとする新事業活動に関する計画(以下「新事業活動計画」という。)を作成し、主務省令で定めるところにより、これを主務大臣に提出して、その認定を受けることができる。

産業競争力強化法
スタートアップガイダンス等を参考に2023年8月11日筆者作成

このように、特例措置を創設した上で、実施計画の認定を受けて実施するというスキームは国家戦略特区と同じである。新事業特例制度と国家戦略特区で異なるのは、前者が事業者単位であるのに対し、後者は区域単位である点である。

特例措置の創設要望の申請から新事業活動計画の認定までは、最短で概ね2か月程度かかることが見込まれる。

これまで、2022年12月末時点で、16件の特例措置の創設要望に回答済みとのことである(スタートアップガイダンス22頁)。

(7) フローチャート

以上、規制改革に関する制度を中心に、いくつかの制度を説明したが、正直なところ、どれがどれだかわからないと思われる。

そこで、経済産業省が便利なフローチャートを用意してくれているため、紹介する。

スタートアップガイダンス40頁

以上



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