【雑感】弁護士会:人権救済申立制度!?
本稿のねらい
2023年9月11日、とあるJ社の件に関して、性被害を訴える9名が日本弁護士連合会(日弁連)に対して「人権救済申立て」を行ったという記事が出ていた。
本稿では、別にこの事案に対して踏み込むつもりはなく、こういった記事を見て、日弁連や各単位弁護士会が行っている「人権救済申立制度」に関して思うこと(疑問)を紹介したい。
弁護士会が行う人権救済申立制度とは
人権救済申立制度は、日弁連や各単位弁護士会の「人権擁護委員会」が行う委員会活動の一環である。
ここでいう「会則」とは「日本弁護士連合会会則」である。
そこには、日弁連に人権擁護委員会を設置すること(同第74条第1号)、そして、その人権擁護委員会の行う任務等が規定されている。
この規定に基づき、人権擁護委員会は、「人権侵害の被害者や関係者の方々からの人権救済申立てを受け付け、申立事実および侵害事実を調査し、人権侵害又はそのおそれがあると認めるときは、人権侵害の除去、改善を目指し、人権侵犯者又はその監督機関等に対して、措置等」を行うことになっている(日弁連ウェブサイト)。
なお、ここでは日弁連の人権擁護委員会の説明を行ったが、各単位弁護士会でも同様(と思われる)。
このように、人権救済申立制度の要素をなすのは、2点であり、つまり、①「人権侵害」と②それが認められる場合の一定の措置である。
(1) 人権侵害とは
一般に、「人権」という場合、何を思い描くだろうか。
筆者の理解では、ここでいう「人権」とは、私人が第三者に対して持つ権利というレベルではなく、憲法上の基本的人権というレベルだと思っていた。
弁護士法第1条第1項には、「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。」と掲げられており、ここでは「基本的人権」が意識されている。
これを受けて、日弁連会則にも「本会は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現する源泉である。」と定められている(同第2条)。
※「本会は〜源泉である」という趣旨は不明だが、それは措く。
いうまでもないが、憲法とは私人の基本的人権を保護・保障するために公権力を縛る装置であり、基本的に私人間に直接効力を及ぼすものではない。
要するに、私人が私人に対して行う人格権や財産権といった権利侵害のレベルでは足りない、そのように理解していた。それは、日弁連ウェブサイトの次の説明によっても明らかなように思われた。
また、日弁連の人権救済申立事件のバックナンバー等を見ても、多くの場合、相手方が国や自治体であり、憲法上の基本的人権が侵害されたかどうかが問題となるような事案であった(当然、その延長線上には国家賠償請求が可能なレベルである権利侵害もある)。
日弁連において直近で異質なのは、D社の事案である。
これは、相手方が私企業であることに加え、明確な誰かの権利が侵害されたような事案ではないように思われる点において異質と感じた。
それに続いて、今般のJ社の事案である。
J社の事案が本調査まで取り上げられるのか否か、本調査まで進んだとして次のような措置まで出されるのかは不明だが、いずれにせよ、これはD社の事案と異なり明確な誰かの権利が侵害された可能性はあるが、J社も私企業であり、筆者が思う「基本的人権」の侵害とは異なるように感じた。
┃ 手続
(2) 人権救済制度による措置とは
会則上は明らかではないが、日弁連ウェブサイトによると、次のような措置が講じられる可能性がある。
警告と勧告の違いがよくわからない上、法的効果(強制力)をもたない「警告」というのは概念矛盾な気がするが、それはともかく、バックナンバーを見ても「勧告」の方が遥かに多く、「警告」の事案は数が少ないことから、おそらく警告の方が重いという認識なのだろう。
この点、D社の事案では「警告」が出されており(したがって「基本的人権」の侵害があったと認めたことを意味する)、J社の事案でも基本的人権の侵害があったと認められれば、同様の措置が講じられる可能性が高いのではないかと思う。
以上