FTC Staff Paper: Protecting Kids from Stealth Advertising in Digital Media(子ども向け宣伝・広告に注意)

本稿のねらい


2023年9月14日、The Federal Trade Commission (FTC)Bureau of Consumer Protection(消費者保護局:我が国の消費者庁に相当)に所属するDirector(局長)による"Protecting Kids from Stealth Advertising in Digital Media"(本ペーパー)が公表された。

これは、FTCが2022年10月に開催した同名のWorkshopの結果等をもとに提起された、デジタル空間の広告とコンテンツの境界線が曖昧("blurred")であることに起因する深刻な懸念に対し、FTCスタッフが多面的又は包括的なアプローチを取る必要性を推奨するペーパーである。

例えばどういう場面がデジタル空間の広告とコンテンツの境界線が曖昧("blurred")であるとFTCが考えているかというと、Social Mediaのいわゆるインフルエンサーの動画を閲覧中にマーケティングメッセージを見る可能性があることや(動画と広告の境界線が曖昧)、ゲームをプレイ中に広告に遭遇する可能性があること(ゲームと広告の境界線が曖昧)が挙げられている(FTCウェブサイト)。

これは要するに、以前広告・宣伝の分野において主流であったテレビCMとの対比で考えればわかりやすい。つまり、テレビCMの場合、番組(コンテンツ)と広告(CM)の境界線は極めて明確であった。基本的に番組と広告の連続性が認められない構成であったためである。

他方で、近年では、いわゆる「番組連動CM」というものも出始めているようで、"Traditional"な媒体であるテレビにおいても、境界線が曖昧になりつつあるのかもしれない。(特に日産は多用している印象がある)

U.S.においては、広告とコンテンツの境界線が曖昧であり不公正("unfair")又は欺瞞的("deceptive")なものとなった場合、FTC法第5条(15 U.S.Code § 45)に違反する可能性があるため、事業者としては、この境界線が曖昧であることを避けることが重要なポイントとなる。

As marketers and others consider how to implement these recommendations, they should keep in mind that blurred advertising targeting children comes with inherent risk, and companies can be held liable for any resulting deception or unfairness, pursuant to Section 5 of the FTC Act.

本ペーパー10頁

以前筆者が紹介したU.S. (FTC) v. Epic Games, Inc.の件でもCOPPA(The Children’s Online Privacy Protection Act)が関係しており、ほかにもUKなどでは"the Age Appropriate Design Code" という子どものプライバシーを「最大限」保護する規制がされていることやカリフォルニア州でもUKの規制に倣い"The California Age-Appropriate Design Code Act"が制定され2024年7月1日から施行される予定であることなど、子どもの権利、とりわけプライバシー保護を強化する潮流が出来つつあるように思われる。

我が国では子どものプライバシーや権利に焦点を当てた特段の立法は見られないが、いわゆるステマについては10月1日に景品表示法上の告示の改正が施行されたことで規制された。

本ペーパーが問題提起している広告とコンテンツの境界線が曖昧であることは我が国においてステマに該当する可能性もあり、上記のとおり、子どもの権利や、なかんづく子どものプライバシー保護を強化する潮流があることからすれば、近い将来、我が国においても同様の規制がされる可能性もある。

そこで、本稿では、我が国での子どものプライバシー保護強化に関する議論の呼び水となることを期待して、本ペーパーの内容を概説することとする。


<結論>FTCによる勧告(5つの実践) 


前提として、子どものデジタル空間へのアクセスに対する制限をかける責任を親に負わせることは現実的ではないと言い切っている(さすがいい加減な国U.S.)。

その上で、子どもがコンテンツとの境界線が曖昧な広告から被害又は欺罔に遭うリスク(深刻な懸念)への対処として十分な単一のアプローチは存在しない。

そうすると、子どもへの上記深刻な懸念への対処として、企業(マーケター)がコンテンツとの境界線が曖昧な広告に取り組まないことが最良の方法となる。そこで、企業に対しFTCが5つのプラクティスを勧告している。

5つのプラクティスのうちいくつかを実践すればいいのではなく、すべてのプラクティスを実践することが必要となる。

To address the issue of blurred advertising to kids, marketers and others should consider the real-world effects of their marketing techniques and implement all the relevant FTC Staff recommendations set forth below in a manner that protects children.

本ペーパー10頁

Recommendation #1: Do not blur advertising.


本ペーパー10頁

勧告1をそのまま訳すと、次のようになる。

広告を曖昧にしないこと
子どものエンターテイメントや教育コンテンツと広告との間に明確な区別を設けるべきである。つまり、フォーマット技術視覚的・言語的な手法を用いて、子どもに対しこれから広告を見ることになることを警告すべきである。

ここでいう"formatting techniques"とは、次のようなものをイメージすればよい。つまり、上記のとおり、テレビ番組とテレビCMのような明確な暗転・明転があればよいとされている。

ちなみに、インタースティシャル広告("interstitial ads")という広告があるようで、ページの遷移や一定のポーズ(停止)画面等、画面が切り替わるタイミングで表示される広告のことをいう(Googleウェブサイト)。

また、"visual and verbal cues"は、コンテンツと広告の背景や音声を変えることで、連続性を阻害し、ユーザーに違和感をもたせ、広告であることに気付く契機とすることをイメージすればよい。

当然であるが、「広告の後に元の画面に戻ります」などという平易な表示があればベストであろう。

Recommendation #2: Provide prominent just-in-time disclosures.


本ペーパー11頁

勧告2を少し意訳すると、次のようになる。

適時適切な情報開示
広告に関する重要な情報を子どもが気づきやすいタイミングにおいて音声と文字により開示すべし

本ペーパーは、子どもに対しては広告に関する情報を開示するだけでは不十分であることは認めつつも、ちゃんとした開示("robust disclosures")がされれば子どもが広告とコンテンツの識別を行うために資するとしている。

ここでいう、ちゃんとした開示は、次の3つの要件を満たす必要があるとされている(これが勧告2自体を指す)。

  1. 適切なタイミングで情報が開示されること

  2. 情報が音声と文字で提供されること

  3. 広告に関する重要な情報を含むこと

この勧告2では、特にいわゆるインフルエンサーに関して厳しいと思われる指摘が2点されている。

つまり、第1に適時性について、次のとおり、長い動画の場合に複数の商品を紹介するようなときは、その都度、広告であることを開示しなければならず、動画の最初と最後に#Adや#PRなどと口頭・文字で開示するのでは足りない可能性がある。

Similarly, a social media influencer who has a long video that discusses a variety of sponsored beauty products should consider offering prominent verbal and written disclosures each time a sponsored product is introduced or discussed in the video, as appropriate, rather than simply providing a written or verbal disclosure at the beginning or end of the video.

本ペーパー11頁

第2に重要な情報について、次のとおり、単に「有料プロモーション」や「スポンサードコンテンツ」という表現で開示しても子どもには十分ではなく、「◯◯社からお金をもらって△△を紹介しています」などの表現で開示しなければならない可能性がある。情報の内容の重要性というよりは、重要な情報の伝え方の問題である。

Kids are more likely to understand “Company ABC paid me to show you this so you will think about buying it” than “paid promotion” or “sponsored content.”

本ペーパー11頁

ちなみに、YouTubeでは次のような表示がされることがあるようだが、おそらくこの表示では上記をクリアできない。

YouTubeヘルプ

Recommendation #3: Create icons to flag advertising.


本ペーパー12頁

勧告3をほぼそのまま訳すと、次のようになる。

広告であることを示すアイコンの作成
プラットフォーマー・コンテンツクリエイター・広告主は、商品・製品を広告・宣伝するためにコンテンツクリエイターに提供された金銭や試供品等について理解しやすく、見やすいアイコンを作成し、使用することを検討すべきである

とはいえ、マーケ側が独り善がりでアイコンを作って表示させてもユーザー(子ども)が理解できなければ意味はなく、必然的にアイコンの周知を含む消費者教育とセットで考える必要がある。

我が国にはピクトグラムのようなある種のアイコンが満ち溢れているが、金銭に関してはある程度の共通認識があるようにも思われ、その共通認識を出ない範囲でアイコンが作成され表示されることが望まれる。

Recommendation #4: Educate kids, parents, and teachers.


本ペーパー12頁

勧告4を意訳すると、次のようになる。

子ども・親・教師への教育
子どもだけでなく子どもをサポートする親や教師への教育は、特に重要な役割を果たすことから、マーケターのみならずすべての関係者は、デジタル広告がどのように機能するかを子ども等に教育する方法を模索し、子どもがどこで広告を見かけてもそれを広告であると識別・評価できるように手助けする方法を模索すべき

本ペーパーの骨格というか論拠にも関係する点であるが、子どもは、大人に比べて次のような弱み・脆弱性をもっている。

つまり、1つには広告を広告であると識別し評価するスキルの涵養が十分ではないことが挙げられる。要するに世間知らずということである。

もう1つは、特にパラソーシャルな関係("parasocial relationships")を通じて受け取るメッセージに影響を受けやすいことが挙げられる。

ここでいうパラソーシャルな関係とは、次のような意味をもつようである(初めて知った)。

A parasocial relationship refers to a one-sided, often one-way, emotional connection that an individual forms with a media personality, celebrity, or public figure, typically through media consumption such as television, social media, or other forms of entertainment. In this type of relationship, the individual feels a sense of connection, familiarity, or even friendship with the media personality or character, even though there is no real-life interaction or personal relationship between them.

Chat GPT(3.5)に聞いた結果

要するに、テレビやYouTube等の各種メディアを通じて有名人を一方的に知って、勝手に身近に感じている関係を指す。

つまり、パラソーシャルな関係を通じたメッセージに影響を受けやすいということは、いわゆるインフルエンサー等の発信する情報に過度に影響されてしまうことを意味する。

1つ目の世間知らずはともかく、2つ目のパラソーシャルな関係に弱いのは何も子どもに限られないものと思われる。いわゆるインフルエンサービジネスが成り立つのはそのためであろう。

Recommendation #5: Platforms should consider policies, tools, and controls to address blurred advertising.


本ペーパー12頁

勧告5を意訳すると、次のようになる。

プラットフォーマーは曖昧な広告に対応するためのポリシー・ツール・コントロールを検討すべき
プラットフォーマーは、(a)ポリシーとツールを通じてコンテンツクリエーターに対し広告を含むコンテンツを自ら識別することを要求し、かつ、(b)親に対し、子どもの広告を含むコンテンツの閲覧を制限できるペアレンタル・コントロールを提供することを検討すべき

以前の記事でも紹介した「ペアレンタル・コントロール」は有用ではあるものの、その対象となるコンテンツは、コンテンツクリエーターによる自己識別に依存することから、やはりプラットフォーマーによるポリシーの制定とその違反に対する適切な対処が重要となる。

現状のiPhone等のペアレンタル・コントロールで広告を含むコンテンツを完全に回避できるのかは不明だが、本ペーパーは、プラットフォーマーに対し、親に特定のプラットフォームを避け、広告を完全にブロックさせることのないよう、子どもが広告を含むコンテンツを閲覧しなくて済むようにすることを検討すべきであると訴えている。(プラットフォーマーは広告収入に依存していることも多く、なかなか無茶苦茶である)

<根拠>上記勧告に至った根拠


(1) 境界線が曖昧なデジタル広告を閲覧する時間・機会の増加

本ペーパーによれば、8歳から12歳の子どもで約5.5時間/日、13歳から18歳の子どもで約8.5時間/日のエンタメスクリーンに時間を費やしているとのことである。エンタメスクリーンには、テレビのほか、オンライン動画、ソーシャルメディア、モバイルゲーム、仮想環境("virtual environments")が含まれるとのことである。

このように、デジタルメディアの情報の消費時間が増加するにつれ、子どもが広告やマーケティングメッセージをより多く目にすることになる。

また、プラットフォーマーが、いわゆるインフルエンサー広告や他の種類の境界線が曖昧な広告を収益化する新しい方法を見つけるにつれ、広告の数は増加し続けることになる。

(2) 境界線が曖昧なデジタル広告の増加と遭遇する場所の広がり

一般に、子どもを含む多くの人は次のような場所で境界線が曖昧なデジタル広告に出会うことになる。

  • いわゆるインフルエンサーのソーシャルメディア投稿

  • 商品の開封動画("unboxing video")

  • オンラインゲーム

  • 有料のスポンサーシップ

  • 広告主によってスポンサーされた仮想現実ワールドやアバター

  • スポンサーされたインタラクティブなソーシャルメディアフィルター※

  • 動画共有サイトに埋め込まれた広告

※ "interactive social media filters"の意味がわからなかった。"branded social media filters" は次のリンクからなんとなく理解できたが、こういうことか?

伝統的な広告であるテレビCMについては、4歳〜5歳の子どもでも広告として認識されることが通常であるところ、コンテンツ内に組み込まれた広告は子どもにとって識別困難であるとのことである。

加えて、上記のとおり、子どもがデジタル広告を閲覧する時間・機会が増加していることから、すべての広告を適切に識別・評価することなど不可能であるとされている。

大人でもわからない人は多いだろう。だからこそのステマ規制である。

For example, a celebrity talking to her followers in a video may mention how much she loves her new sweater. Whether such an endorsement is an ad depends on what is happening behind the scenes.
If the celebrity received the sweater for free from the seller or advertiser or has a commercial relationship with either of them where she receives or expects to receive money, free things, or other benefits for talking about the sweater, her message would be considered advertising.
If, instead, she is talking about a sweater she purchased and she has no ties to the seller or advertiser of the sweater, it is not an ad.

本ペーパー4-5頁

(3) 広告を認識し評価する広告リテラシーが低いこと(脆弱性)

幼い子どもは、広告を認識し評価するために必要な知識や能力(広告リテラシー)を持っていない傾向がある。(奇しくもステマ規制とつながった。)

“When experienced by young people, stealth advertising is . . . deceptive when it is not clearly understood to be advertising. Its impacts are material because it directly and indirectly influences purchasing decisions.”

本ペーパー5頁

そのため、デジタル広告であることの表示が重要となってくる。

(4) 単なるデジタル広告であることの表示の不十分性

単にデジタル広告であることを表示しても、子どもが見ない可能性や見たとしても理解されない可能性があり、その意味で表示だけでは十分ではない。

また、子どもがアバター等を友達だと認識している場合や、ソーシャルメディアでフォローしているいわゆるセレブリティやインフルエンサーに親近感を覚えている場合、これらに対する信頼や、インフルエンサー等が直接自分に話しかけているという感覚が、広告の意図("persuasive intent")の理解を曇らせる可能性がある。ここでもパラソーシャルな関係が利用される。

それらアバター等やいわゆるインフルエンサー等が何のためにその商品やサービスを薦めるのか、その裏側を透明にすることにより、子どもの理解の曇りを晴らすことに役立つと考えられる。

そのため、いわゆるインフルエンサー等には透明性が求められるのである。

(5) 境界線が曖昧なデジタル広告による懸念/弊害

ここでは筆者が重要と考えるポイントに絞って紹介する。

  • 金銭的/経済的な被害/損害

境界線が曖昧なデジタル広告により、①誤って商品等を購入する、②社会的又は感情的な商品等の購入が必要と感じたり(他のプレイヤーに勝つために事実上購入しなければならないと感じさせる場合、ゲーム内のペットに食べ物を買い与えなければならないと感じさせる場合など)、③親の承認なしに商品等を購入をする(子どもが親のアカウントやデバイスを使用してアプリ内で商品等を購入する場合など)可能性がある。③は以前の記事でも紹介。

また、いわゆるインフルエンサーマーケティングは衝動買いを助長する可能性がある。いわゆるインフルエンサーのマーケティングメッセージを閲覧したその日に、25%の家族や子供が商品等を購入する可能性があるとのこと。

  • プライバシー侵害

子どもの個人情報や関心を利用したターゲット広告は、子どもが広告を認識・評価する能力を悪化させる。

COPPAにおいて確認可能な親の同意が必要と定められているにもかかわらず、13歳未満の子どもが依然としてターゲット広告を受けている。

以上の根拠により、FTCは上記5つの勧告に至ったのである。
見れば見るほど、ただのステマ規制にしか見えない・・・

以上


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