【フリーランス新法】24年11月1日施行予定/政令・施行規則・ガイドライン等に係るパブコメ開始(24年5月11日まで)
本稿のねらい
2024年4月12日、公正取引委員会及び厚生労働省が「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令(案)」等に対するパブコメを開始した。
パブコメの対象となっているのは以下の6つの文書である。なお、政令案は規則案等とは異なり条文の形にはなっていない。
本稿では、これら6つの文書のうち、筆者がこれまで触れてきた記事を踏まえ、重要と考えるものに関して概説を行い、パブコメへの誘導とすることを目的とする。
なお、上記公正取引委員会のウェブサイトによれば、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス新法)の施行日は2024年11月1日となることが予定されている(閣議決定はまだだが、フリーランス新法公布の日である2023年5月12日から1年6月以内の施行が必要であるため、違和感はない)。
政令委任事項
フリーランス新法における政令委任事項は次の4つである。
「情報成果物」(フリーランス新法第2条第4項第4号)
禁止行為の対象となる業務委託の期間(同法第5条第1項柱書)
フリーランスの募集情報事項(同法第12条第1項)
フリーランスの育児介護等に対する配慮の対象となる業務委託及び解除等の事前予告を要する業務委託の期間(同法第13条第1項・第16条第1項)
今回の政令案においては、次のとおり定められることが予定されている。
政令第1条関係
禁止行為の対象となる業務委託の期間
1か月
(特定業務委託事業者の遵守事項)
第5条 特定業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託(政令で定める期間以上の期間行うもの(当該業務委託に係る契約の更新により当該政令で定める期間以上継続して行うこととなるものを含む。)に限る。以下この条において同じ。)をした場合は、次に掲げる行為(第2条第3項第2号に該当する業務委託をした場合にあっては、第1号及び第3号に掲げる行為を除く。)をしてはならない。
⇛この点に関しては以前の記事において詳細に書いているため参照されたい
政令第2条関係
的確表示の対象となる募集情報事項
業務内容
業務従事場所・期間・時間に関する事項
報酬に関する事項
契約解除(不更新含む)に関する事項
募集者に関する事項
政令第3条関係
育児介護等の配慮や解除等の事前予告の対象となる業務委託の期間
6か月
(妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮)
第13条 特定業務委託事業者は、その行う業務委託(政令で定める期間以上の期間行うもの(当該業務委託に係る契約の更新により当該政令で定める期間以上継続して行うこととなるものを含む。)に限る。以下この条及び第16条第1項において「継続的業務委託」という。)の相手方である特定受託事業者からの申出に応じて、当該特定受託事業者(中略)が妊娠、出産若しくは育児又は介護(以下この条において「育児介護等」という。)と両立しつつ当該継続的業務委託に係る業務に従事することができるよう、その者の育児介護等の状況に応じた必要な配慮をしなければならない。
⇛この点に関しては以前の記事において簡単に触れているので参照されたい
規則委任事項(取引適正化部分)
(1)明示事項
フリーランス新法第3条第1項によれば、発注事業者がフリーランスに発注する際に明示する事項として、フリーランスの給付内容・報酬額・支払期日が例示されているほか、どのような事項を明示するべきなのかは公正取引委員会規則に委任されている。
(特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等)
第3条 業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法(中略)により特定受託事業者に対し明示しなければならない。略
公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則の案(取引適正化部分規則案)第1条第1項は次のとおり合計11個の項目を列挙している(ただし後半の8~11は支払方法)。
発注事業者&フリーランスの商号・氏名・名称・事業者別に付された番号・記号その他の符号であり、発注事業者&フリーランスを識別できるもの
業務委託をした日
フリーランスの給付内容
フリーランスの給付を受領し、又は役務提供を受ける日
フリーランスの給付を受領し、又は役務提供を受ける場所
フリーランスの給付内容につき検査を行う場合、検査完了期日
報酬額&支払期日
報酬の支払につき手形を交付する場合、手形の金額&満期(*)
報酬の支払につき債権譲渡担保方式/ファクタリング方式/併存的債務引受方式(**)を採用する場合、①金融機関の名称、②貸付け又は支払を受けられる金額、③金融機関に対し支払う期日
報酬の支払につき電子記録債権の発生記録又は譲渡記録を行う場合、①電子記録債権の額、②電子記録債権の支払期日
報酬の支払につき資金移動業者への資金移動を行う場合、①資金移動業者の名称、②資金移動に係る金額
下請法第3条の書面交付義務における明示事項(下請代金支払遅延等防止法第3条の書面の記載事項等に関する規則第1条第1項各号)と相当程度パラレルであるが、異質なのは11番目の資金移動業者への資金移動を支払方法とする場合である。
その他、公正取引委員会所管の「特定受託事業者に係る取引の適正化に関する検討会」(取引適正化検討会)においては、知的財産権の帰属、納品・検収方法(納品・検収基準)、諸経費、違約金、業務委託に係る契約の終了事由、中途解除の際の費用等を明示事項に含めることが論点とされていたが、「検討会報告書」のとおり、これらは取引適正化部分規則案には盛り込まれなかった。
⇛この点に関しては以前の記事で簡単に触れているので参照されたい
(*) 2024年11月1日以降に振り出される手形のサイトが60日を超える手形等が、下請法上の「割引困難な手形」等に該当するおそれがあるものとして、指導の対象になるそうな。
(**)なお、下請法分野においては、これらを総称して「一括決済方式」と呼ぶ。こちらを参照。
(2)明示方法
フリーランス新法第3条第1項によれば、発注事業者がフリーランスに発注する際に各項目を明示する方法として、書面のほか電磁的方法が挙げられているが、どのような電磁的方法がとれるのかは公正取引委員会規則に委任されている。
(特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等)
第3条 業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって公正取引委員会規則で定めるものをいう。以下この条において同じ。)により特定受託事業者に対し明示しなければならない。略
取引適正化部分規則案第2条第1項では、次の2つの電磁的方法が限定列挙されている。
電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(電気通信事業法第2条第1号に規定する電気通信)により送信される方法
電磁的記録媒体をもって調製するファイルに明示事項を記録したものを交付する方法
1点目はメールのほか「ソーシャルネットワークサービス(以下「SNS」という)」(検討会報告書13頁)のダイレクトメッセージ(DM)を含む趣旨である。
なお、業界団体等からのヒアリングでは、①送信データ(メッセージや添付ファイル)を事後的に削除できる媒体を認めることを懸念する意見や、②アプリ等を通じて受発注を行う取引において当該アプリ等におけるフリーランスのアカウントが停止された場合、フリーランスが業務委託の内容を確認できなくなるのは問題であるとの意見があり、それを踏まえ「明示事項が示された際のメッセージのスクリーンショット機能を用いた保存等を受注者側で行うことの推奨等」をガイドラインで示すことが期待されるとされていたが(検討会報告書13頁)、下請代金支払遅延等防止法第3条の書面の記載事項等に関する規則第2条第2項及び労働基準法施行規則第5条第4項を参考に印刷又は保存しやすいよう添付ファイルを送信することをルール化すべきである。
第2条
2 前項に掲げる方法は、下請事業者がファイルへの記録を出力することによる書面を作成することができるものでなければならない。
⇛この点に関しては以前の記事で簡単に触れているので参照されたい
この点、フリーランス側に何ら帰責事由がないにもかかわらず明示事項の閲覧ができなくなった場合、既に明示を受けていたとしても、書面交付請求が可能である(フリーランス新法第3条第2項但書、取引適正化部分規則案第5条第2項柱書括弧書)。
なお、次に触れる「厚生労働省関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則(案)」(就業環境整備部分規則案)の解除等の予告の方法を定める第3条第1項第3号は、「電子メール等の送信の方法(特定受託事業者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。)」と規定しており、しっかりルール化している。
解除等の予告が必要な取引は6か月以上の比較的長期にわたる取引であるとはいえ(政令第3条)、出口部分において上記のとおりルール化されているのに、入口部分においてルール化されていないのは極めて違和感が残る。
規則委任事項(就業環境整備部分)
就業環境整備部分規則案において特に触れておくべきなのは解除等の予告に関し、例外的に事前予告が不要となる事由(フリーランス新法第16条第1項但書、就業環境整備部分規則案第4条各号)のみである。
この点に関しては、後記「ガイドライン(4)就業環境整備部分:解除等の予告」において扱うこととする。
ガイドライン
公正取引委員会及び厚生労働省の連名で「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方(案)」(ガイドライン案)も公表された。
これは、フリーランス新法第15条の「指針」とは別のガイドラインである。
(指針)
第15条 厚生労働大臣は、前3条に定める事項に関し、特定業務委託事業者が適切に対処するために必要な指針を公表するものとする。
ガイドライン案は、次のような構成になっており、定義の部分をはじめ、条文の解釈に資する内容となっているが、以前の記事で【論点】として触れた多くの箇所について沈黙されている。⇛パブコメチャンス??
本稿では★を付けた重要な事項についてのみ言及する。
なお、本来的には重要でも下請法と同じ解釈であり、以前の記事で【論点】として触れているものについては本稿で言及しないこととする。
第1部 定義
1 特定受託事業者★
2 特定受託業務従事者
3 業務委託事業者
4 特定業務委託事業者
5 報酬★
第2部 特定受託事業者に係る取引の適正化
第1 業務委託事業者に求められる事項
1 特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等★
2 報復措置の禁止
第2 特定業務委託事業者に求められる事項
1 報酬の支払期日等
2 特定業務委託事業者の遵守事項★
第3部 特定受託業務従事者の就業環境の整備
1 募集情報の的確な表示
2 妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮
3 業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等
4 解除等の予告★
(1)定義:特定受託事業者
◉従業員を使用
「従業員を使用」とは、次の2点を満たすことをいうとされている。
1週間の所定労働時間が20時間以上であること
継続して31日以上雇用されることが見込まれる労働者(労基法第9条の労働者)を雇用すること
なお、上記2点を満たす派遣労働者を受け入れる場合も「従業員を使用」に該当するとされている一方、事業に同居親族のみを使用している場合には「従業員を使用」に該当しないとされている。下記基準になる概念であることからすれば妥当と思われる。
本法案における従業員を使用というところでありますけれども、組織としての実態があるかどうかを判断する基準となるものでありまして、短時間、短期間のような一時的な雇用を除き、フリーランスである受注事業者が従業員を雇用している場合を意味するということになります。
⇛この点に関しては以前の記事で簡単に触れているので参照されたい
なお、いずれにせよ、契約開始から終了までの期間を通じて、発注事業者側からは発注先がフリーランス、つまり「従業員を使用」しているかどうかは判明しないことから、一見明らかにフリーランスではないと認められる先以外は、常に発注先がフリーランスであると考える方が安全である(これも以前の記事に書いた)。
(2)定義:報酬
◉報酬
「報酬」とは、発注事業者が業務委託を行った場合にフリーランスの給付に対して支払うべき代金をいうが、それには消費税・地方消費税が含まれる。
とすると、消費税・地方消費税の計算についても発注事業者側で適切に行うことが必要であり、万が一、フリーランス側のインボイス等で消費税・地方消費税の計算が誤っていた場合には訂正の上、消費税・地方消費税を含め代金全額を支払う必要がある。また、仮に消費税・地方消費税が過少に請求され、そのまま代金を支払っていた場合、それはフリーランス側に帰責事由があるため報酬減額(フリーランス新法第5条第1項第2号)には該当しないと思われるものの、適時に追加で支払わなければならないと考えられる(同法第4条第5項但書参照)。
下請事業者からの請求書の提出のあるなしにかかわらず、受領後60日以内に定めた支払期日までに下請代金を支払う必要がある。
なお、親事業者が、社内の手続上、下請事業者からの請求書が必要である場合には、下請事業者が請求額を集計し通知するための十分な期間を確保しておくことが望ましく、下請事業者からの請求書の提出が遅れる場合には、速やかに提出するよう督促して、支払遅延とならないように下請代金を支払う必要がある。
また、報酬の支払いは可能な限り現金又は銀行振込の方法によるものとするとされている。
(3)取引適正化部分:特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等
◉知的財産権の帰属等
特定受託事業者の給付の内容には、次のようなものが含まれるとされている。
フリーランスから提供されるべき物品/情報成果物/役務(物品等)
上記物品等の品目/品種/数量/規格/仕様等
知的財産権
上記知的財産については、業務の遂行過程を通じ、給付に関し、フリーランスの知的財産権が生じる場合において、使用の範囲超えて、物品等とともに当該知的財産権の譲渡・許諾させることが給付の内容となるのであれば、明示事項の「給付の内容」の一部として、譲渡・許諾の範囲を明確に記載する必要があるとされている。下請法における扱いと同じである。
⇛この点に関しては以前の記事で簡単に触れているので参照されたい
また、知的財産権の譲渡・許諾がある場合、それに係る対価を報酬に加える必要があるとされている。他方で、多くの場合、権利帰属や権利不行使(著作権の場合、著作者に著作者人格権が発生するがその不行使)の対価は報酬に含まれていることを確認する、という一文が契約書に記載されており、別途知的財産権の譲渡・許諾の対価を得ることは少ないと思われる。
◉諸経費の扱い
諸経費には材料費・交通費・通信費等その名目を問わず各種費用が含まれるが、これを発注事業者が負担する場合、諸経費の額を含めた総額をフリーランスが把握できるように「報酬の額」を明示する必要があるとされている。
【参考】自営型テレワークガイドライン
裏を返すと、明示事項に諸経費が特段明記されていない場合、発注事業者からフリーランスへ諸経費が支払われないことになる。(フリーランスは十分注意が必要である)
◉明示方法
次のような方法が電子メール等により送信する方法(取引適正化部分規則案第2条第1項第1号)に該当するとされている。
明示事項を記載した電子ファイルを添付してフリーランスが指定したメールアドレス宛に電子メールを送信する方法
ソーシャルネットワーキングサービスのDM機能を利用して明示事項を記載したメッセージをフリーランス宛に送信する方法
明示事項の一部を掲載しているウェブページをインターネット上に設けている場合、他の明示事項とともに当該ウェブページのURLをフリーランス宛に電子メール又はDM機能で送信する方法
明示事項を記載した書面を複合機のFAXに送信する方法
そして、明示事項を記載した電子ファイルのデータを保存したUSBメモリやCD-R等をフリーランスに交付することが「電磁的記録媒体…をもって調製するファイルに前条に規定する事項を記録したものを交付する方法」(取引適正化部分規則案第2条第1項第2号)とされている。
この点、オンラインストレージサービスの位置付けは明確ではないが、ウェブページのURLへの誘導が電子メール等により送信する方法に該当するのであれば、オンラインストレージサービスの該当URLへの誘導も同様ではないかと思われる。
なお、電子メール等により送信する方法で明示事項の通知を受けた場合、フリーランスのフォルダ内に記録されるとは限らないことから、「トラブル防止の観点から、その内容を自らの電子計算機に備えられたファイル等に記録し、保存することが望ましい」とされているが、上記のとおり、ガイドラインレベルでフリーランスに推奨するのではなく、下請法や就業環境整備部分規則案第3条第1項第3号同様、ルール化すべきである。
(4)取引適正化部分:特定業務委託事業者の遵守事項
フリーランス新法第5条によれば、発注事業者は、フリーランスに対し、次の7つの行為を行うことが禁止される。
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概ね下請法における親事業者の遵守事項(同法第4条)と同じ規律である。
⇛この点に関しては以前の記事で詳細に触れているため参照されたい
(5)就業環境整備部分:解除等の予告
解除等の予告に関する論点は次のとおり。
◉「契約の解除」
ここでいう「契約の解除」が、発注事業者によるフリーランスに対する一方的な意思表示による契約解除であることに疑いはない。
他方、発注事業者とフリーランスとの間の契約において、一定の事由が発生した場合(例えば、フリーランスの破産手続開始申立てなど)に、フリーランスに対する事前の通知なく解除できるとする無催告解除の特約がある場合にもこの「契約の解除」に該当し、30日前の事前予告が必要となるのか、あるいは「やむを得ない事由により予告することが困難な場合」として事前予告が不要なのか、つまりフリーランス新法第16条第1項が私法的な効力を持つのかは論点となる。
この点、ガイドライン案においては、次のとおり、原則として「契約の解除」に該当するとされている。
特定業務委託事業者と特定受託事業者の間で、あらかじめ一定の事由がある場合に事前予告なく契約を解除できると定めていた場合においても、直ちに同条の事前予告が不要となるものではなく、後記(4)の例外事由に該当する場合を除き、あらかじめ定めた事由に該当するとして特定業務委託事業者からの一方的な意思表示に基づき契約を解除する場合は「契約の解除」に該当する。
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参考資料集31頁
特定受託事業者の就業環境の整備に関する検討会(第7回)において、「「特定受託事業者の責めに帰すべき事由」のところで確認させていただきたいと思います。ここに例示が載っておりますが、例えば4ページ目、破産、税金の滞納、差押え、反社、別の法律での違反が発覚した等によるフリーランスについては、事前予告の除外に該当すると考えてよろしいか」という質問に対し、厚労省側は次のように回答していた。
この特定受託事業者の責めに帰すべき場合の判断に当たりましては、今、お示しいただきました資料1の3ページのところで、検討会での御議論を踏まえまして整理させていただいておりますとおり、個々の業務委託ごとに業務委託契約の内容とか、フリーランスの方の当該行為、またその事実関係といったことを個別具体的、また総合的に判断することとなると考えてございます。したがいまして、個々の事案ごとに業務委託契約の内容などにも照らしながら、当該事実の関係が特定業務委託事業者の名誉とか信用失墜になるもの、また取引関係に悪影響を与えるもの、両者間の信頼関係を喪失させるものと認められるようなものとなるような場合には、特定受託事業者の責めに帰すべき場合に該当し得る場合もあると考えているものでございます。
議事録9頁
しかし、政府は過去に次のとおり、フリーランス新法第16条第1項は私法的な効力を持たないという趣旨の答弁を行っていた。
契約関係の解消は、取引自由の原則の中で契約当事者間において判断されるべきものでありまして、行政が直接制限することは、法制上の課題や発注控えのおそれなど課題が多いと考えております。
一方で、今委員御指摘のような一定期間継続する取引においては、発注事業者への依存度が高まっている中で契約を突然解除された等の場合、特定受託事業者は次の契約先を探すまでの時間的、経済的損失を被ることから、本法案においては中途解約時等の事前予告の規制を盛り込んでいるところでありまして、まずは、本規制の適切な運用、定着を図ってまいりたいというふうに思います。
この点、労働契約について考えてみると、労働者の破産又は税金の滞納等それ自体は解雇事由とはならないと考えられており、仮に労働者の破産又は税金の滞納等のみを理由に解雇すれば解雇権の濫用として無効となる可能性が高い(民法第631条参照、労働契約法第16条)。
破産の事実のみから直ちに労働力の提供が期待できなくなるとはいえないこと、また、破産の事実が直ちに会社の信用を失墜させるともいえないことなどから、解雇権の発生は否定される
解雇権の濫用法理は、現時点では労働契約法第16条に規定されているが、それ以前は判例(最判昭和50年4月25日)が「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になると解するのが相当である」としたことをきっかけに、権利濫用(民法第1条第3項)を基礎とするものである。
そのため、フリーランス新法が労働契約法のような私法的な効力をもつともたざるとにかかわらず、フリーランスの破産や税金の滞納等のみを理由とする業務委託契約の解除は、それ自体民法上認められるものではあるものの(同法第651条第1項)、権利濫用として無効となる可能性はある。
これが、まさに以前の記事でも触れた継続的取引の解消という論点である。
◉「災害その他やむを得ない事由」
就業環境整備部分規則案第4条によると、このやむを得ない事由は次の5つが想定されている。
災害その他やむを得ない事由により予告することが困難な場合
他の事業者から業務委託を受けた発注事業者が、当該業務委託に係る「元委託業務」の全部又は一部をフリーランスに再委託した場合であって、当該元委託業務に係る契約の全部又は一部が解除され、当該フリーランスに委託した「再委託業務」の大部分が不要となった場合その他の直ちに当該再委託業務に係る契約の解除(契約の不更新の場合を含む。)をすることが必要であると認められる場合
基本契約に基づいて業務委託を行う場合又は契約の更新により継続して業務委託を行うこととなる場合であって、契約期間が短期間(30日間以下)である一の契約(個別契約)を解除しようとする場合
フリーランスの責めに帰すべき事由により直ちに契約を解除することが必要であると認められる場合
基本契約を締結している場合であって、フリーランスの事情により、相当な期間、個別契約が締結されていない場合
ここで特に論点となるのは、第4号のフリーランスに帰責事由がある場合で、かつ、直ちに契約を解除することが必要である場合の解釈である。
この点、「特定受託事業者の就業環境の整備に関する検討会」の「報告書骨子(案)」では、次のとおり、労働基準法第20条第1項但書の解雇予告/解雇予告手当が不要となる「労働者の責に帰すべき事由」とパラレルに考えることが提案されている(ガイドライン案45頁でも同旨)。
「特定受託事業者の責めに帰すべき事由」の解釈について、発注者の一方的な事情により例外事由が濫用されてしまうことを防ぐため、「特定受託事業者の責めに帰すべき事由」を、労基法第20条の「責めに帰すべき事由」の考え方と同等程度に、限定的に解すこととし、その場合の考え方等を以下のとおり整理することとする。
「特定受託事業者の責めに帰すべき事由」とは、特定受託事業者の故意、過失又はこれと同視すべき事由であるが、判定に当たっては、業務委託契約の内容等を考慮の上、総合的に判断すべきであり、「特定受託事業者の責めに帰すべき事由」が法第16条の保護を与える必要のない程度に重大又は悪質なものであり、従って特定業務委託事業者に特定受託事業者に対し30日前に解除の予告をさせることが当該事由と比較して均衡を失するようなものに限る。
なお、労働基準法第20条第1項但書の「労働者の責に帰すべき事由」は、「通常の解雇事由としての労働者の非違行為よりも悪質性が高く、当該労働者を継続して雇用することが企業経営に支障をもたらす場合」と定義されている(水町勇一郎「労働法(第9版)」159頁注160)。
その上で、フリーランスに帰責事由がある事例が挙げられている(ガイドライン案45−46頁)。なお、これらの事由が認められる場合でも、加えて、直ちに契約を解除する必要性が認められなければ、原則どおり、事前予告が必要となる点に注意が必要である。
原則として極めて軽微なものを除き、業務委託に関連して盗取、横領、傷害等刑法犯等に該当する行為のあった場合、また一般的にみて「極めて軽微」な事案であっても、発注事業者があらかじめ不祥事件の防止について諸種の手段を講じていたことが客観的に認められ、しかもなおフリーランスが継続的に又は断続的に盗取、横領、傷害等の刑法犯等又はこれに類する行為を行った場合、あるいは業務委託と関連なく盗取、横領、傷害等刑法犯等に該当する行為があった場合であっても、それが著しく発注事業者の名誉もしくは信用を失墜するもの、取引関係に悪影響を与えるもの又は両者間の信頼関係を喪失させるものと認められる場合
賭博、風紀紊乱等により業務委託契約上協力して業務を遂行する者等に悪影響を及ぼす場合。また、これらの行為が業務委託と関連しない場合であっても、それが著しく発注事業者の名誉もしくは信用を失墜するもの、取引関係に悪影響を与えるもの又は両者間の信頼関係を喪失させるものと認められる場合
業務委託の際にその委託をする条件の要素となるような経歴・能力を詐称した場合及び業務委託の際、発注事業者の行う調査に対し、業務委託をしない要因となるような経歴・能力を詐称した場合
フリーランスが、業務委託契約に定められた給付及び役務を合理的な理由なく全く又はほとんど提供しない場合
フリーランスが、契約に定める業務内容から著しく逸脱した悪質な行為を故意に行い、当該行為の改善を求めても全く改善が見られない場合
(解除等の予告)
第16条 特定業務委託事業者は、継続的業務委託に係る契約の解除(契約期間の満了後に更新しない場合を含む。次項において同じ。)をしようとする場合には、当該契約の相手方である特定受託事業者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、少なくとも30日前までに、その予告をしなければならない。ただし、災害その他やむを得ない事由により予告することが困難な場合その他の厚生労働省令で定める場合は、この限りでない。
2 特定受託事業者が、前項の予告がされた日から同項の契約が満了する日までの間において、契約の解除の理由の開示を特定業務委託事業者に請求した場合には、当該特定業務委託事業者は、当該特定受託事業者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、遅滞なくこれを開示しなければならない。ただし、第三者の利益を害するおそれがある場合その他の厚生労働省令で定める場合は、この限りでない。