【労働】カスタマーハラスメントにかかる法令等整備−使用者に対策義務が!?
本稿のねらい
2024年7月19日付けで開催された厚生労働省「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会」(厚労省検討会)の第10回会議において、報告書の素案(報告書素案)が公表・議論され、その中に、いわゆる「カスタマーハラスメント」(*)を含むいくつかのハラスメント(**)への対策が盛り込まれた。
*個人的には、「○○ハラスメント」というふんわりした表現は本質をボヤけさせることから好みではない。カスタマーハラスメントは威力業務妨害又は偽計業務妨害等であり不法行為であるが、一旦は大人しく報告書素案等の表現に従っておく。なお、他にも、暴行や傷害、逮捕や監禁、建造物侵入や不退去、強要や脅迫、恐喝、名誉(信用)毀損や侮辱など様々な構成要件にも該当する可能性があり、いずれにせよ不法行為である。
**このあたりを参照されたい→ハラスメント悩み相談室
これ以前にも2021年から2022年にかけて厚労省に「顧客等からの著しい迷惑行為の防止対策の推進に係る関係省庁連携会議」が設置され、その成果は「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(対策マニュアル)として結実した(対策マニュアル掲載ページ)。
また、東京都においても「カスタマーハラスメント防止対策に関する検討部会」(都検討部会)が開催され、第4回会議までにおいてルールづくりのための議論は尽くされ、条例・ガイドラインによる対応が必要であり、公労使会議に報告するとされた。
※どうでもいいことかもしれないが、「防止対策」というのは日本語としておかしいと思われる。似たような事例は「節税対策」にも見られる。(余談)
これを受けた2024年5月22日付け開催の公労使による「新しい東京」実現会議(公労使会議)において、都検討部会の検討事項・検討状況が報告され、理念条例の制定とガイドラインの策定について方向性が(概ね)一致した。
その上で、(奇しくも)2024年7月19日には、東京都において次の動きがあった。
①「東京都カスタマーハラスメント防止条例(仮称)の基本的な考え方」(都条例骨子)が公表され、パブコメが実施されている(締切: 2024年8月19日)
②「カスタマーハラスメント防止ガイドライン等検討会議」設置(第1回会議が2024年7月26日に開催)
このように、直近でいくつかカスタマーハラスメント対策に向けた法令や条例の整備のための動きが進展していることから、本稿は、現時点でのこれらの動きを整理することを目的とする。
カスタマーハラスメントの定義
サマリ
ポイントは次の3点
①カスタマーハラスメントの行為者と対象者の範囲設定
//対策マニュアルや報告書素案では、特に対象者を労働者に限定しているような印象を受けるが、都検討部会や都条例骨子においては、対象者を「就業者」として、労働者に限らずフリーランス等を含む点が興味深い(ある種の「上乗せ条例」)
②防止すべきカスタマーハラスメント行為
//基本的には、権利の範囲や礼節を弁えない犯罪行為や反社会的行為を念頭に置けばイメージとしては相違ないと思われる
③就業環境を害することの意味
//②の要件のみならず、③の要件を要求する趣旨はカスタマーハラスメントを限定する点にあると思われるが、②≒③であろうと思われるし、②に加えて③を要求するのはよくわからない(おそらく○○ハラスメントの一種であると短絡的に考え、ハラスメント既存4類型すべてに共通する要件である「就業環境を害する」を外していないだけであろう)
//あくまでカスタマーハラスメントを行為規制として位置づけるならば、結果的に「就業環境を害する」かどうかは関係ないし、後記「ハラスメント既存4類型とカスタマーハラスメントの比較」で見るように、カスタマーハラスメントはハラスメント4類型とは異質であり、別のカテゴリに位置づけられるべきであって、「就業環境を害する」の要件は削除されるべきである
国(厚労省)の場合
いわゆるパワハラ指針(パワハラ防止指針)
「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(パワハラ指針)においてはカスタマーハラスメントという用語は使われていないものの、それを念頭に置いたような記載がある。
これによれば、「顧客等からの著しい迷惑行為により雇用する労働者の就業環境が害されること」がカスタマーハラスメントということができる。
対策マニュアル
対策マニュアルでは、カスタマーハラスメントの用語自体を定義したわけではなく、あくまで企業ヒアリングの結果として、現場においてカスタマーハラスメントであると認識されているものを集約・紹介しているという体裁を取ってはいるが、次のように整理されている(対策マニュアル上はこれをカスタマーハラスメントとして取扱うものとされている)。
顧客等:実際に商品・サービスを利用した者だけでなく、今後利用する可能性がある潜在的な顧客も含まれる
社会通念上不相当:クレーム・言動等の内容の妥当性や当該要求を実現するための手段・態様を踏まえて総合的に判断するが、要求の内容が著しく妥当性を欠く場合、手段・態様のいかんにかかわらず、社会通念上不相当と判断される可能性が高い
労働者の就業環境が害される:人格・尊厳を侵害する言動により労働者が身体的・精神的な苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなり、労働者の能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど当該労働者が就業する上で感化できない程度の支障が生じること
対策マニュアルにおいては、カスタマーハラスメントについて、いくつかの類型と対応例が挙げられている(26−27頁)。多くの場合、反社会的勢力への有事対応と平仄が合う。
①時間拘束型:長時間にわたり顧客等が従業員を拘束する(居座り、長時間の電話等)
⇛毅然とした対応、弁護士相談や警察への通報等を検討
//不退去・威力業務妨害・偽計業務妨害・監禁等
②リピート型:理不尽な要望につき繰り返し電話で問い合わせ又は面会要求
⇛毅然とした対応、弁護士相談や警察への通報等を検討
//不退去・威力業務妨害・偽計業務妨害等
③暴言型:大きな怒鳴り声を上げる、「馬鹿」といった侮辱的発言、人格の否定や名誉を毀損する発言
⇛録音、退去要求
//不退去・威力業務妨害・侮辱・名誉毀損・暴行等
④暴力型:殴る、蹴る、たたく、物を投げつける、わざとぶつかる
⇛警備員等との連携等複数名対応と警察への即時通報
//不退去・暴行・傷害・威力業務妨害・器物損壊等
//暴力型については割りと明白に犯罪行為を構成するため即時通報
⑤威嚇・脅迫型:「殺されたいのか」等の脅迫的発言、反社会的勢力との繋がりをほのめかす、異様に接近するなどの従業員を怖がらせる行為や、「対応しなければ株主総会で糾弾する」「SNSにあげる」「口コミで悪く評価する」等のブランドイメージを下げるような脅し
⇛複数名対応、弁護士相談や警察への通報等を検討、毅然とした対応、退去要求
//不退去・暴行・強要・脅迫・威力業務妨害・偽計業務妨害・名誉(信用)毀損等
⑥権威型:正当な理由なく権威を振りかざして要求を通そうとする、謝絶しても執拗に特別扱いを要求する、文書等での謝罪や土下座を要求
⇛不用意な発言をしない、上位者と対応を交代、要求に応じない
//不退去・強要・威力業務妨害・偽計業務妨害等
⑦店舗外拘束型:内容がわからない状態で職場外である顧客等の自宅や特定の喫茶店等に呼び出す
⇛単独対応はしない、詳細を聴取してから対応を検討、要求対応への一定の基準を設けておく、店舗外対応が必要な場合は公共性が高い場所を指定する、弁護士相談や警察への通報等を検討
//暴行・逮捕・監禁・威力業務妨害・偽計業務妨害等
⑧SNS/インターネット上での誹謗中傷型:インターネット上で名誉を毀損する又はプライバシーを侵害する情報を投稿
⇛掲載先のウェブサイト運営者に削除要求、投稿者への損害賠償請求検討(&発信者情報開示請求)、弁護士相談や警察への通報等を検討
//偽計業務妨害・侮辱・名誉(信用)毀損等
⑨セクシュアルハラスメント型:従業員の身体に触る、待ち伏せ、つきまとうなど性的な行動、食事やデートに執拗に誘う、性的な冗談など性的な発言
⇛録音・録画、被害者への事実確認、行為者への警告、出入禁止、弁護士相談や警察への通報等を検討
//迷惑行為・暴行・不同意わいせつ・威力業務妨害・偽計業務妨害等
【参考】顧客等からの著しい迷惑行為の内容・行為者
労災認定基準
2023年9月1日付けで「心理的負荷による精神障害の認定基準」が改正され、別表1「業務による心理的負荷評価表」に「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(いわゆるカスタマーハラスメント)が具体的出来事に追加された。
行為者に施設利用者が含まれている点は後記報告書素案と同旨である。
【参考】2023年12月施行旅館業法改正(宿泊拒否事由追加)
※詳細は厚労省ウェブサイト「カスタマーハラスメントへの対応」参照
報告書素案
報告書素案においては、カスタマーハラスメントの定義を明確化しているわけではなく、次の3つの要素のいずれも満たすものとして、定義を検討すべきであると提言されているにとどまる。概ね対策マニュアルと同旨である。
①顧客等利害関係者:顧客には、今後利用する可能性がある潜在的な顧客も含み、施設利用者も含む。利害関係者には、法令上の利害関係だけではなく、施設の近隣住民等事実上の利害関係がある者も含む。
②社会通念上相当な範囲を超えた言動:顧客等が権利を濫用し、逸脱したものをいい、社会通念に照らし、当該顧客等の言動の内容が契約内容からして相当性を欠くもの、又は手段・態様が相当でないもの。
言動が「社会通念上相当な範囲を超えた言動」か否かの判断は、言動の内容と手段・態様に着目し、総合的に判断する。言動の内容と手段・態様の双方が必須条件ではなく、言動の内容又は手段・態様の片方のみで社会通念上相当な範囲を超える場合もあり得る。
社会通念上相当な範囲を超えるかどうかの判断に当たっては、正当な指摘等を受けた事業者(労働者)の側の不適切な対応が端緒となっている場合もあることにも留意する必要がある
//仮に端緒が事業者(労働者)側の不適切な対応だとしても、それへのカウンターとして社会通念上相当な範囲を超えた内容又は手段・態様の言動が用いられてよい理由にはまったくならない以上、どのように「留意」するのか。
//正当な指摘をしたのに適切に応じてもらえない場合、弁護士経由で交渉するなり訴訟提起するなり、法治国家における適切な紛争解決を図るべきであって、自力救済を許容するに限りなく近い言動を看過することはできない。
//他方で、カスタマーハラスメントを予防する趣旨で、労働者の顧客対応を強化・改善するために必要な研修等を行い、正当な指摘を受けた場合の対応について必要な体制を整備することを意図しているのであれば肯ける。
言動の内容の例:
そもそも要求に理由がない又は全く関係のない要求
契約内容・提供サービスを著しく超える要求
対応が著しく困難、無理な要求
不当な損害賠償請求
言動の手段・態様の例:
身体的な攻撃(殴る、蹴る、たたく、ぶつける、唾を吐く)
精神的な攻撃(脅し、SNSへの暴露、インターネット投稿、暴言、強要、盗撮)
威圧的な言動(大声で責める、大声を上げて周囲を威圧、反社会的な言動)
継続的・執拗な言動(頻繁な苦情、同じ質問の繰り返し、揚げ足取り)
拘束的な言動(長時間の拘束、居座り、電話)
③労働者の就業環境が害される:上記②の言動により、労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること。
この判断に当たっては、平均的な労働者の感じ方、すなわち、同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とする。
//実際に看過できない程度の支障が生じることまで求められるのか、類型的に労働者の就業環境が害される程度の言動に限定しているという趣旨なのか不明だが、他のハラスメント既存4類型においては、事業者には就業環境を害しないよう雇用管理上必要な措置を講じることが義務付けられている関係から、後者の趣旨だろうと思われる。
//報告書素案においては、「労働者」がカスタマーハラスメントの対象者として認識されているようであり、フリーランス等の他の就業者は対象者に含まれていないと思われるが、これは西欧・北米先進国においても雇用労働関係を中心に保護していることが影響していると推測される。
【参考】ILO-Violence and Harassment Convention, 2019 (No. 190)
【参考】ハラスメント既存4類型
【参考】西欧北米先進国におけるハラスメント防止法制の対象者
東京都の場合
都検討部会
都検討部会では、カスタマーハラスメントの定義について、「就業者に対する暴行、脅迫など違法な行為又は暴言、正当な理由がない過度な要求など不当な行為(著しい迷惑行為)であり、就業環境を害するものとしてはどうか」と提案されていた。
この点、カスタマーハラスメントの行為者と対象者は、それぞれ「消費者(等)」と「就業者」ととされており、次のような整理がされていた。
消費者(等):就業者が業務に関して応対する者(取引の相手方を含む)で、行為者となりうるすべての個人を含む表現とする
就業者:都の区域内で就業する者(都内で仕事をする個人であり、都民か否か、従事する期間や就業の形態を問わない)
これによると、派遣労働者や業務委託先(フリーランス)も対象者に含まれることになり、都内で事業を行う事業者は、それらの者に対しても下記カスタマーハラスメント対策を講じる必要が生じる。
都条例骨子
都条例骨子においては、都検討部会から形式的には異なり、また対策マニュアルや報告書素案とも形式上は異なる定義がされているが、実質的にはいずれも同様の意味を持つと思われる。
【参考】カスタマーハラスメントの概念図
都ガイドライン検討会議
東京都においては、2024年7月26日付けでカスタマーハラスメント防止ガイドライン等検討会議(都ガイドライン検討会議)の第1回会議が開催された。
カスタマーハラスメント防止ガイドライン(条例指針)には、都条例に規定されるカスタマーハラスメントの定義等の詳細が記載されるなど、実際的・実務的な内容が記載されることが想定されている。
条例指針は、基本的には都条例骨子におけるカスタマーハラスメントの定義を敷衍した内容になりそうであるが、「就業環境を害する」の意味について特徴的な記載があったため紹介する。
すぐに不当な要求が撤回されたからといって、就業者の身体的・精神的苦痛が緩和され、就業環境が不快ではなくなり、業務遂行に支障が生じないとは限らない。この記載は、かなり結果責任に寄せているが、都条例骨子は「行為の抑止効果を期待」していることと整合しない。
やはり、ハラスメント既存4類型とは別のカテゴリにカスタマーハラスメントを位置づけるべきであり、この「就業環境を害する」の要件は削除されるべきである。
【参考】都ガイドライン検討会議におけるカスタマーハラスメントの定義
※この資料における「就業環境を害する」の考え方の記載は意味不明だが、その他の内容はわかりやすいものになっており、カスタマーハラスメントの全体像を知る上でも有用であり、加えて事業者が講ずべき措置についてもどの資料よりも先を行っており、一読の価値がある。
カスタマーハラスメント対策の必要性
サマリ
カスタマーハラスメントによる権利侵害や就業環境の悪化から労働者(就業者)を保護する必要
カスタマーハラスメントよる事業活動や事業環境の悪化から事業者を保護する必要
カスタマーハラスメントによる人材流出や顧客離れに歯止めをかける必要
カスタマーハラスメント対応にかかる事業者の時間的・費用的コストを低減させる必要
カスタマーハラスメント対策に積極的に取り組むことで迷惑行為を行う顧客等が離れ、又は寄り付かなくなり、これにより労働者に活気が生まれるなどのプラスの効果も期待できる(副次的な効果)
この点はおよそコンセンサスがあると思われるため、各資料からの抜粋で流すこととする。
国(厚労省)
東京都
【参考】ILO-Violence and Harassment Convention, 2019 (No. 190)
カスタマーハラスメント対策
本稿のハイライトはこのカスタマーハラスメント対策の部分にある。
ハラスメント既存4類型とカスタマーハラスメントの比較
対策マニュアル(40頁)や報告書素案(37頁)においても言及されているが、ハラスメント既存4類型とカスタマーハラスメントは、その性質において異なる点が多く、そのため必要な対策についても異なる配慮・観点が必要である。
つまり、次のとおり内部/外部のハラスメントという構造で区別できる。
ハラスメント既存4類型:内部的なハラスメント
①使用者 - 労働者間のハラスメント
②労働者 - 労働者間のハラスメント
カスタマーハラスメント:外部からのハラスメント
使用者&労働者 - 顧客等社外の第三者間のハラスメント
こうしたとき、前者については、社内規程や雇用契約に基づく統制権や指揮命令権等により一定の直接的な措置や牽制を効かせることが可能であり、ハラスメント行為を予防することや事後的な対応に関し、雇用管理上の措置義務が課されることは肯ける。
他方、後者については、社外の第三者によるハラスメントである以上、事業者として何らか直接的な措置や牽制を効かせることが不可能であり、法令による罰則等間接的な牽制に加え、当該第三者の常識や良心に期待するほかなく、雇用管理上の措置義務といってもあくまで事後的な対応に終始することになると思われる。(予防は無理)
このように、ハラスメント既存4類型とカスタマーハラスメントは、その性質において異なることから、対策のアプローチに差が生じる。(端的にいえばカスタマーハラスメントの予防的な雇用管理上の措置は無理)
しかして、事業者には、「カスタマーハラスメントからは従業員を守る対応」(対策マニュアル7頁)が求められることになる。このような有事の場面においては、弁護士や警察等外部専門家との連携や利活用が一層重要になる。
このように考えたとき、カスタマーハラスメント対策として参照すべきはハラスメント既存4類型の指針等ではなく、反社会的勢力への対応・対策に関する指針等なのではないか。
なお、事業者が自ら雇用する労働者が取引先の労働者等就業者に対してカスタマーハラスメントを行うことについては、研修等により予防措置を講じることはでき、これに関しては、報告書素案(37頁)にあるように、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号)」(セクシュアルハラスメント指針)の「7 事業主が自らの雇用する労働者以外の者に対する言動に関し行うことが望ましい取組の内容」は読まれるべきだが、セクハラ防止方針に併記するなど、当たり前のことしか書かれておらず、実質的には何ら参考にならない。
【参考】パワハラ指針におけるカスタマーハラスメント対策
パワハラ指針においては、「事業主が(中略)顧客等からの著しい迷惑行為に関し行うことが望ましい取組の内容」として、「顧客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)により、その雇用する労働者が就業環境を害されることのないよう、雇用管理上の配慮として」、次の①から③の取組みを行うことが望ましいとされている(パワハラ指針11−12頁)。
①相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
相談先をあらかじめ定め、労働者に周知すること
相談を受けた者が、相談の内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすること
②被害者への配慮のための取組
相談者から事実関係を確認し、顧客等からの著しい迷惑行為が認められた場合、速やかに被害者に対する配慮のための取組を行うこと(著しい迷惑行為を行った者に対する対応が必要な場合に一人で対応させない等の取組等)
③他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為による被害を防止するための取組
顧客等からの著しい迷惑行為からその雇用する労働者が被害を受けることを防止する上では、事業主が、こうした行為への対応に関するマニュアルの作成や研修の実施等の取組を行うことも有効
//防止(予防)は困難な気がする(後記「カスタマーハラスメントを想定した事前準備(平時対応)」においても予防は含まれていない)
【参考】いわゆる「モンスターペアレント」への対策
※「第Ⅱ章 学校が行う保護者等へのよりよい対応」を参照
カスタマーハラスメント規制
報告書素案を読む限り、カスタマーハラスメントについて事業者に何らかの措置を講じるよう義務付ける趣旨の法改正が行われる可能性は一定存在するものの、行為者に対してカスタマーハラスメントを禁止する趣旨の法改正は想定されていない印象である。
他方、都条例骨子(11頁)では、罰則なし理念条例とはいえ、「行為の抑止効果を期待」し、条例において「何人も、あらゆる場において、カスタマーハラスメントを行ってはならない。」という包括的な禁止規定を設けることが検討されている。
カスタマーハラスメントを想定した事前準備(平時対応)
カスタマーハラスメントを想定した事前準備(平時対応)として、次のようなものが考えられる。
カスタマーハラスメント対策の方針の明確化と周知(カスタマーハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化と周知を含む)
方針例:
①組織として毅然とした対応をする
②早期相談
③カスタマーハラスメントから労働者(就業者)を守る
④取引先等に不当な要求を行わないこと
カスタマーハラスメント報告・相談窓口の設置
(カスタマーハラスメント相談者のプライバシー保護に必要な措置の実施と周知)
//ハラスメント既存4類型の場合、内部的な紛争であるから、社内に敵がいる可能性に鑑みプライバシー保護の要請が高いが、カスタマーハラスメントの場合、基本的には社内に敵はいないはずであり、これは不要かもしれない。他方、例えば、性的な内容のカスタマーハラスメントを受けた場合、その内容を社内とはいえ別の労働者(就業者)に知られることを嫌い、そのために相談が遅れるということは避けるべきであるから、やはり必要かもしれない。
カスタマーハラスメント対応マニュアルの策定
//被害防止のために対応マニュアルを作成するという考え方もあるようだが(都ガイドライン検討会議(第1回)「事務局提出資料」44頁)、上記のとおり、被害防止は理論的に無理であり(犯罪被害防止が無理なのと同義)、せいぜい被害軽減のための対応マニュアルならあり得るかもしれない。
カスタマーハラスメントの事例共有等振り返り
労働者(就業者)への教育・研修
(相談を理由とした不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め周知)
//ハラスメント既存4類型の場合、ハラスメントを受けている又は認知したことを相談したことをもって不利益な取扱いを行わないことを方針化し、それを周知することが求められているが、カスタマーハラスメントの場合、基本的には社内に敵はいないはずであり、これは不要かもしれない。ただし、例えば取引先の労働者(就業者)によるカスタマーハラスメントを受けたことを相談した場合、当該取引先とよろしくやっている部署や当該部署の労働者(就業者)にとっては不都合な可能性もあり、例外的に社内に敵がいるケースもあり得ることから、やはり必要かもしれない。
【参考】企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針
2007年6月19日付け犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(反社対策指針)によれば、反社会的勢力による被害を防止するための基本原則は、①組織としての対応、②外部専門機関との連携、③取引を含めた一切の関係遮断、④有事における民事と刑事の法的対応、⑤裏取引や資金提供の禁止であり、これらの原則を内部統制システムに位置付け、平時から次の対応を取ることが期待されている。カスタマーハラスメントにも一定通用する考え方である。
経営トップは、基本方針を社内外に宣言し、その宣言を実現するための社内体制の整備、従業員の安全確保、外部専門機関との連携等の一連の取組みを行い、その結果を取締役会等に報告する
基本方針の内容例:
不当要求に対応する従業員の安全を確保する
反社会的勢力による不当要求に備えて、平素から、警察、暴力追放運動推進センター、弁護士等の外部の専門機関(外部専門機関)と緊密な連携関係を構築する
反社会的勢力とは、取引関係を含めて、一切の関係をもたない
反社会的勢力による不当要求は拒絶する
反社会的勢力による不当要求に対しては、民事と刑事の両面から法的対応を行う
反社会的勢力による不当要求が、事業活動上の不祥事や従業員の不祥事を理由とする場合であっても、事案を隠ぺいするための裏取引を絶対に行わない
反社会的勢力への資金提供は、絶対に行わない
反社会的勢力による不当要求が発生した場合の対応を統括する部署を整備する
反社会的勢力対応部署は、反社会的勢力に関する情報を一元的に管理・蓄積し、反社会的勢力との関係を遮断するための取組みを支援するとともに、社内体制の整備、研修活動の実施、対応マニュアルの整備、外部専門機関との連携等を行う
反社会的勢力とは、一切の関係をもたない。そのため、相手方が反社会的勢力であるかどうかについて、常に、通常必要と思われる注意を払うとともに、反社会的勢力とは知らずに何らかの関係を有してしまった場合には、相手方が反社会的勢力であると判明した時点や反社会的勢力であるとの疑いが生じた時点で、速やかに関係を解消する
反社会的勢力が取引先や株主となって、不当要求を行う場合の被害を防止するため、契約書や取引約款に暴力団排除条項を導入するとともに、可能な範囲内で自社株の取引状況を確認する
取引先の審査や株主の属性判断等を行うことにより、反社会的勢力による被害を防止するため、反社会的勢力の情報を集約したデータベースを構築する。同データベースは、暴力追放運動推進センターや他企業等の情報を活用して逐次更新する
外部専門機関の連絡先や担当者を確認し、平素から担当者同士で意思疎通を行い、緊密な連携関係を構築する。暴力追放運動推進センター、企業防衛協議会、各種の暴力団排除協議会等が行う地域や職域の暴力団排除活動に参加する
カスタマーハラスメントが起こった場合の対応(有事対応)
カスタマーハラスメントが発生してしまった場合の有事対応として、①その当時にできる/すべきこととして、ダメコンと対象者のケアであり、②未来に向けてすべきこととして事例の蓄積と適切なフィードバックが挙げられる。
なお、取引先等へのカスタマーハラスメントを生じさせてしまった場合、それへの対応が必要となるが、概ね同じことを行うことになる。
事実関係の正確な確認
事案対応
組織として毅然とした対応
労働者(就業者)の安全確保
労働者(就業者)の身体的・精神的苦痛への配慮・ケア
カスタマーハラスメントの事例共有等振り返り
//平時対応の項目としても書いたが、どちらにも当てはまるような気がする
【参考】企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針
反社対策指針によれば、反社会的勢力から不当要求行為等がされた場合の有事対応として次の対応を取ることが期待されている。これも、カスタマーハラスメントにも一定通用する考え方である。
情報を、速やかに反社会的勢力対応部署へ報告・相談し、さらに、速やかに当該部署から担当取締役等に報告する
反社会的勢力から不当要求がなされた場合には、積極的に、外部専門機関に相談するとともに、その対応に当たっては、暴力追放運動推進センター等が示している不当要求対応要領等に従って対応する。要求が正当なものであるときは、法律に照らして相当な範囲で責任を負う
反社会的勢力による不当要求がなされた場合には、担当者や担当部署だけに任せずに、不当要求防止責任者を関与させ、代表取締役等の経営トップ以下、組織全体として対応する。その際には、あらゆる民事上の法的対抗手段を講ずるとともに、刑事事件化を躊躇ちゅうちょしない。特に、刑事事件化については、被害が生じた場合に、泣き寝入りすることなく、不当要求に屈しない姿勢を反社会的勢力に対して鮮明にし、更なる不当要求による被害を防止する意味からも、積極的に被害届を提出する
反社会的勢力による不当要求が、事業活動上の不祥事や従業員の不祥事を理由とする場合には、反社会的勢力対応部署の要請を受けて、不祥事案を担当する部署が速やかに事実関係を調査する。調査の結果、反社会的勢力の指摘が虚偽であると判明した場合には、その旨を理由として不当要求を拒絶する。また、真実であると判明した場合でも、不当要求自体は拒絶し、不祥事案の問題については、別途、当該事実関係の適切な開示や再発防止策の徹底等により対応する
反社会的勢力への資金提供は、反社会的勢力に資金を提供したという弱みにつけこまれた不当要求につながり、被害の更なる拡大を招くとともに、暴力団の犯罪行為等を助長し、暴力団の存続や勢力拡大を下支えするものであるため、絶対に行わない
以上