本稿の狙い
米証券取引委員会(SEC: Securities and Exchange Commission)は、2024年1月10日、次の11個(※)のビットコイン現物投資型ETFの上場申請を承認したと発表した(SEC"Statement on the Approval of Spot Bitcoin Exchange-Traded Products"、34-99306)。1から3がNYSE Arca、4と5がNasdaq、6から11がCboe BZXでの上場となる。
the Grayscale Bitcoin Trust
the Bitwise Bitcoin ETF
the Hashdex Bitcoin ETF
the iShares Bitcoin Trust
the Valkyrie Bitcoin Fund
the ARK 21Shares Bitcoin ETF
the Invesco Galaxy Bitcoin ETF
the VanEck Bitcoin Trust
the WisdomTree Bitcoin Fund
the Fidelity Wise Origin Bitcoin Fund
the Franklin Bitcoin ETF
※ このうち上記3.の"the Hashdex Bitcoin ETF"のみが"Trust Units"であり、その他のETFはいずれも"Commodity-Based Trust Shares"とされているため、厳密には純粋なビットコイン現物投資型ETFは10個ともいえる。
この承認に際しては5人の委員のうち2人が反対に回るなど、薄氷の承認となった。承認に際しても米SEC委員長は次のとおりネガティブかつセンシティブなコメントをしており、裁判所の判断があったため渋々従わざるを得ない感を出しており、暗号資産に関して今後の展開に注目すべきである。
本稿では、このビットコイン現物投資型ETFの上場申請の承認を受けて、次の2点につき検討を加えることとする。
我が国において同様のETFは組成可能か
我が国において米国にて組成されたビットコイン現物投資型ETFは販売可能か
その前提として、ETFとはなにかなど基礎的な情報からまとめていく。
ETFとは
(1) 定義
ETFは、"Exchange Traded Fund" の略であり、上場投資信託と呼ばれることが多いものの、我が国の法令上、それを直接定義したものはない(※1)。
このETFを理解するためには、2つに分解して考える必要がある。
つまり、①(投資)信託であること(※2)と、②それが取引上に上場して取引されることである。
①に関して、投資信託の組成については「投資信託及び投資法人に関する法律」(投信法)が参照されるべきであり、投資信託の受益権が金融商品化されることについては「金融商品取引法」(金商法)、その販売については「金融サービスの提供に関する法律」(金サ法)が参照されるべきである。
本稿では、上記のとおり、我が国においてビットコイン現物投資型ETFの組成が可能かどうかを検討することを主眼とすることから、特に投信法について見ていくことになる(無論その中で金商法についても見る必要がある)。
また、②に関して、取引所(正確には金融商品取引所)が投資信託受益証券を含む有価証券の上場ルールを定めていることから、我が国の東京証券取引所でいえば「有価証券上場規程(東京証券取引所)」(上場規程)が参照されるべきである。
※1 租税特別措置法上、「上場証券投資信託等」という定義があり(同法第9条の4の2第1項)、それはETFを指すと思われるものの(一般社団法人投資信託協会「商品分類に関する指針」4.独立した区分(3)参照)、その定義は上場規程等に基づき上場された「証券投資信託」(同法第2条第5項、所得税法第2条第13号、投信法第2条第4項)であることなどを指しているのみであり(租税特別措置法施行令第4条の7の2第1項)、あくまで投信法や上場規程を前提とするものと思われるため、ここでは租税特別措置法による定義にはよらないこととする。
※2 変わり種?として「商品現物型ETF」というETFがあり、これは我が国の法令上は「投資信託」ではなく「受益証券発行信託」(信託法第185条第3項)という信託であるが、本稿では後記「(2)仕組み」の箇所で少し言及するにとどめる。
ちなみに、米SECによればETFは投資会社(investment companies)であり投資信託(mutual funds)とは別物とされているが、これは「1940年投資会社法」(the Investment Company Act of 1940)をベースにしたETFを念頭に置いているための説明に過ぎないと思われる。
◯ 従前の説明:インデックス運用型のみ
2023年6月29日公表・同月30日施行の「内国アクティブ運用型ETFの上場制度の整備に係る有価証券上場規程等の一部改正」(本上場規程改正)以前は、内国ETFは、上場規程において、次の定義がされていた。
つまり、投信法上の投資信託(同法第2条第3項)又は外国投資信託(同条第24条)の受益証券(同条第7項)のうち「投資信託財産等の一口あたりの純資産額の変動率を特定の指標の変動率に一致させるよう運用する」インデックス運用型のもの(インデックスファンド)のみを指していた。
【参考】プロたちによる説明
◯ 現在の説明:インデックス運用型+アクティブ運用型
本上場規程改正により、現在のETFは次のように定義される。
本上場規程改正によりアクティブ運用型ETFが"解禁"されたことで、ETFの定義は、投資信託の受益証券のうちインデックス運用型のもの(インデックスファンド)のみではなくアクティブ運用型のものをも包含することになり、結局、両者の公約数である金商法第2条第1項第10号の投資信託の受益証券(すなわち投信法第2条の投資信託の受益証券)であり、かつ、取引所に上場されているものとなる。(※1、2)
※1 なお、上場規程上、「内国ETF」の定義中には上場されていることは含まれておらず、「上場内国ETF」(同第1001条(21))がその任を負っているがここでは捨象する。
※2 商品現物型ETFのように投信法に基づかない「受益証券発行信託」という信託法ベースのETFも存在することは上記のとおり。
なお、アクティブ運用型ETF"解禁"の趣旨は次のとおり説明されている。
【参考】ETFと投資信託の違い
【参考】ETF/投資信託/株式の違い
【参考】投資信託の種類
(2) 仕組み
上の日本取引所グループ(JPX)の図表にもあるように、ETFには複数の組成スキーム(仕組み)があり得る。
現物拠出・現物交換型(投信法第8条第1項、同法施行令第12条第2号)
金銭信託・現物交換型(投信法第8条第1項、同法施行令第12号第1号)
金銭信託・金銭償還型(投信法第8条第1項)
商品現物型(信託法第185条)
① 現物拠出・現物交換型(投信法第8条第1項、同法施行令第12条第2号)
これはETFにおいて最も基本的な組成スキーム(仕組み)であり、2001年「投資信託及び投資法人に関する法律施行令等の改正」により導入されて以降、多くのETFがこの仕組みにより組成されている。
つまり、(ⅰ)投資運用業者であるETFスポンサーが、証券会社等の指定参加者(AP)から特定の指標に連動する証券バスケットの拠出を受け、(ⅱ)ETFスポンサーが当該証券バスケットを信託銀行に信託譲渡することで信託契約を設定し、(ⅲ)当該信託契約に基づき受益権(受益証券)を指定参加者(AP)に発行することでETFが組成される。ここまでがプライマリ市場(発行市場)である。
その後、(ⅳ)ETF(受益証券)を受け取った指定参加者(AP)は、それを保有し続ける、顧客に売却する、又は市場で売却することができる。これがセカンダリ市場(流通市場)である。
加えて、指定参加者(AP)は、所定の数量のETFをETFスポンサーに提出することで当該ETFを構成する証券バスケットを受け取ることが可能である(ことが通常)。これをETFの交換という。
なお、投信法上は、次に触れる②金銭信託・現物交換型ETFも認められているものの(むしろ同法上は金銭信託型が原則〔同法第8条第1項〕であり、①現物拠出・現物交換型が導入された2001年以前から認められていた)、「現物拠出型ETFの場合、設定にあたってETFが市場で株式等を買い付けるコストを抑制できるメリットがあり、日本では法令上の規制もあって従来は殆どのETFが現物拠出型を採用」(三菱UFJアセットマネジメントウェブサイト)していたようである。つまり、金銭拠出型の場合、指標を構成する銘柄と同等の株式ポートフォリオを作成するため、金銭の拠出を受けた信託銀行(受託者)が市場で株式を買い付ける必要があり、それにはコストがかかるが、証券会社等の指定参加者(AP)は既に株式ポートフォリオを作成するに足る株式を保有していることもあり得るため買付コストを削減できるということだろう(下図の①を省略できるイメージ)。
② 金銭信託・現物交換型(投信法第8条第1項、同法施行令第12号第1号)
筆者が簡単に探したところ実例が見当たらなかったが、一般に「リンク債型ETF」のうち、現物交換型のものを指すと思われる。(金銭信託・金銭償還型のリンク債型ETFは1つ見つかった→野村AMの「NEXT FUNDS 金価格連動型上場投信」)
③ 金銭信託・金銭償還型(投信法第8条第1項)
上記のとおり、金銭信託・金銭償還型は、投信法においてはむしろ原則であり(同法第8条第1項)、現物拠出型と異なり指数連動が要求されないため(同法施行令第12条第1号・第2号)、自由度が高く使い勝手がいいように思われるが、次の理由からETFにおいては採用されていなかった。
それは、上場規程の問題である。つまり、2009年7月1日施行の「金銭信託型ETFの上場制度等の整備に伴う業務規程等の一部改正」以前は金銭信託型ETFの上場は認められていなかったのである。
④ 商品現物型(信託法第185条)
2006(平成18)年12月に制定され、翌2007(平成19)年9月に施行された信託法における目玉の1つであった「受益証券発行信託」(同法第185条第3項)を活用したETFとして、商品現物型ETFがある。
この商品現物型ETFも有価証券(金商法第2条第1項第14号)ではあるが、投信法の適用を受けないため、委託者が投資運用業者である必要がなく、下記「純金上場信託(金の果実)」のように商社が委託者となり現物の商品(金)を信託財産として受託者に信託譲渡することで信託を設定することも可能である。
ただし、「内国商品現物型ETF」の委託者は上場会社やその子会社又は上場商品市場の会員等である必要があるとされている(東京証券取引所「内国指標連動型ETF・内国商品現物型ETF上場の手引き(第26版)」16頁)。
ビットコイン現物投資型ETFの意義
ビットコイン現物は暗号資産交換業者が運営する取引所において任意の数量をいつでも購入することができるため、一見するとビットコイン現物投資型ETFが組成される意義はないように思える。
しかし、各種報道等を見る限り、ビットコイン現物投資型ETFが組成される意義は次の3点にまとめられそうである(なお、3点目は我が国特有の事情かもしれない)。
機関投資家でもアクセス可能!?
交換所のアカウント不要!?
課税が総合課税から分離課税に!?
① 機関投資家でもアクセス可能!?
◯ 機関投資家の暗号資産取得にかかるルールの一例
【参考】GPIFのオルタナティブ運用
② 交換所のアカウント不要!?
③ 課税が総合課税から分離課税に!?
【参考】国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」
ETFであるから申告分離課税されるというのは筋が通るが、商品現物型ETFの場合を考えると、例えば金地金(現物)の譲渡による所得に関しては、譲渡所得として総合課税とされる点をどう捉えるのかも問題となるのだろうか(REITも同様?)。
我が国の投信法上認められる投資信託
(1) 投信法のポイント整理
簡単におさらいしておくと、我が国の投信法上の「投資信託」とは、「委託者指図型投資信託」と「委託者非指図型投資信託」をいい(同法第2条第3項)、いずれであっても、「主として有価証券、不動産その他の資産で投資を容易にすることが必要であるものとして政令で定めるもの(以下「特定資産」という。)に対する投資として運用」(同条第1項)することを目的とする信託である点で共通する。
本稿執筆時点で特定資産として認められているのは次の12個である(投信法施行令第3条第1号から第12号)。
有価証券
デリバティブ取引(暗号等資産・暗号等資産関連金融指標に係るものを除く)に係る権利
不動産
不動産の賃借権
地上権
約束手形
金銭債権
匿名組合出資持分
商品
商品投資等取引(金融指数から暗号等資産関連金融指標を除外)
再生可能エネルギー発電設備
公共施設等運営権
このリストを見てわかるとおり、投資信託の投資対象資産である「特定資産」に暗号資産やそれに関連するデリバティブ取引は含まれていない。
なお、上記9. の商品は商品先物取引法における商品であって、暗号資産等は含まれていない。(商品が特定資産に追加されたのは2008年の改正による→【参考】2008年金商法等改正等)
そのため、現行の投信法令に即して投資信託を組成する場合、主として暗号資産やそれに関連するデリバティブ取引に係る権利を投資対象として運用することを目的とする信託とすることはできない。
ここでいう「主として」とは、「50%超」を指すものと考えられる。
なお、上記2. のデリバティブ取引と上記10. の商品投資等取引に関して、「暗号等資産」や「暗号等資産関連金融指標」が除外されたのは2019(令和元)年資金決済法等改正に付随する「令和元年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令」の改正によるものである。
(2) ではどうすればいいのか
ETF化しようとすると上場規程との関係で整理すべき点があるが、暗号資産を投資対象とするファンドを組成したり、そういったファンドへの投資を可能とするための方向性として、少なくとも次の3つが考えられる。
投資信託以外のファンドを組成して暗号資産を投資対象として運用を行う
米国等海外で組成・発行された暗号資産ETFを原証券とするJDR(預託証券)を発行する
暗号資産への投資を50%以下とする投資信託を組成して運用を行う
① 投資信託以外のファンド組成
② 海外暗号資産ETFを原資産とするJDRの発行
上記のとおり、暗号資産が「特定資産」に含まれない結果として組成ができないのは「投資信託」であり、それ以外の形態、つまり信託受益権・合同会社の持分権・集団投資スキーム(金商法第2条第2項第1号から第6号)等により暗号資産を対象とした投資運用を行うことは投信法との関係では妨げられない。
また、米国等海外で組成・発行された暗号資産ETFを原資産とするJDR(Japanese Depositary Receipt)は、商品現物型同様、信託法に基づく受益証券発行信託を利用するものであり、投資信託ではないため、投信法との関係で問題にならない。
この点、金融庁は、次の認識のもと、2019(令和元)年12月27日付け「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針の一部改正」により、特に暗号資産を念頭に、特定資産以外の資産(非特定資産)を投資対象とするファンド出資持分等実質的に非特定資産と同等の性格を有する特定資産(特定資産への投資を通じて実質的に非特定資産に投資する場合における当該非特定資産を指す〔2019年12月27日結果公表パブコメNo.19〕)が投資目的となっている商品を組成・販売しないことを金融商品取引業者に求めることとなった。これにより、お行儀の良い金融商品取引業者は、事実上、暗号資産を投資対象とするファンド組成・販売が禁じられた。
そこでは、監督指針上は、暗号資産ETFを「投資信託等」の形で国内で組成・販売することはもちろん、海外で組成されたETFに対して投資する「投資信託等」を組成・販売することもできないとされている。
ここでは「投資信託・投資法人制度の趣旨に照らすと、以下のような商品を組成することは適切ではない」という認識のもとで監督指針が改正されていることから、ここでいう「投資信託等」には「投資信託」のほか「投資法人」が含まれると推測され、受益証券発行信託は含まれないと考えられる。
加えて、法令上、暗号資産を対象とした投資運用を妨げるものはなく、通常のファンド同様の規制があるに過ぎない。
そうだとすると、ETFとして取引所で取引可能なものとすることができるかどうかは別として、①②により暗号資産を投資対象とするファンドを組成・販売することは不可能ではないと考える。
【参考】SBIオルタナティブ・ファンド合同会社の「暗号資産ファンド」
不動産の証券化の文脈においてよく見られるGK-TKスキームを採用し、少人数私募(取得勧誘に係る二項有価証券を500人未満の者が保有することとなる取得勧誘〔金商法第2条第3項第3号、同法施行令第1条の7の2〕)の形で取得勧誘したものと思われる。
③ 「主として」ではなく暗号資産へ投資する投資信託
これは法令上も監督指針上も許容されているかと思われるが、ニーズ等がどこまであるのかは不明である。(ブロックチェーン銘柄+暗号資産?)
【参考】 2008年金商法等改正等
2008年は投信法における激動の年であり、大きな改正が2回行われている。
1つは2008年6月27日に施行された「投資信託及び投資法人に関する法律施行令の一部を改正する政令等」による改正(2008年改正①)であり、ETFの多様化を目的の1つとするもので、ポイントは次の2点である。
① 上場株式以外を投資対象とする現物拠出型ETFの導入
② 現物拠出型ETFの連動対象となる指数についての個別指定を廃止
もう1つは、2008(平成20)年6月に成立した「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(2008年金商法等改正)とそれに付随する「平成20年金融商品取引法等の一部改正に係る政令案・内閣府令案等」による改正(2008年改正②)であり、ETFの多様化を目的の1つとするもので、ポイントは次の2点である。
① ETFの主たる投資対象に金などの商品現物・先物を追加
② ETFと現物交換できる対象として商品市場に上場されている商品を追加
詳細には踏み込まないが、2008年改正②の特筆すべき点は、金銭信託以外の委託者指図型投資信託の禁止に係る例外として認められる投資信託が「証券投資信託」ではなく「投資信託」とされた点である(投信法第8条第1項括弧書き、同法施行令第12条第1号から第3号)。
ここでいう「証券投資信託」とは、「委託者指図型投資信託のうち主として有価証券(中略)に対する投資として運用すること(中略)を目的とするものであつて、政令で定めるもの」をいい(投信法第2条第4項)、商品を主たる投資対象とするものを含まない。
そこで、商品を主たる投資対象とする投資信託の組成を認めるべく、金銭信託以外の委託者指図型投資信託の禁止に係る例外として認められる投資信託を「証券投資信託であって受益者の保護に欠けるおそれがないものとして政令で定めるもの」(2008年金商法等改正以前の投信法第8条第1項括弧書き)から「主として換価の容易な資産に対する投資として運用することを目的とする投資信託であって受益者の保護に欠けるおそれがないものとして政令で定めるもの」に改正された(2008年金商法等改正後・現行の投信法第8条第1項括弧書き)。
なお、その上で、「投資信託」の対象資産となる「特定資産」(投信法第2条第1項、同法施行令第3条)の範囲も拡大された。つまり、同法施行令第3条第9号以下に「商品」(商品現物)や「商品投資等取引に係る権利」(商品先物)が追加された。
我が国で販売可能な海外発行ETF
前注
ここで問題とするビットコイン現物投資型ETFのような暗号資産ETFがどのような形態であったとしても、我が国の金商法上は「有価証券」に該当すると考えられるため(同法第2条第1項第10号〔信託型〕・第11号〔投資法人型〕)(※)、その募集/私募や売出しといった販売行為を行うためには第一種金融商品取引業の登録が必要である(同法第29条、第28条、第2条第8項)。
※ なお、ビットコインのような暗号資産その自体が「有価証券」かどうかについては議論があり、米国では「商品」と捉えられている例もあるようだが、ここでは暗号資産を投資対象とするETFが問題となっているのであり、それが有価証券に該当することには異論はないものとして論を進める。
(1) 金商法上の規制
金融商品取引業者等が販売可能な有価証券の種類や性質等につき、金商法上の規制は存在しないが、金融商品取引業者等が有価証券を販売するに当たり所定の開示等が要求されている(同法第4条)。
この点、既に発行された有価証券の「売出し」については、その定義から「取引所金融商品市場における有価証券の売買及びこれに準ずる取引その他の政令で定める有価証券の取引に係るもの」が除外されており(金商法第2条第4項柱書括弧書き)、その1つに「金融商品取引業者等が顧客のために取引所金融商品市場又は外国金融商品市場(法第2条第8項第3号ロに規定する外国金融商品市場をいう。以下同じ。)における有価証券の売買の取次ぎを行うことに伴う有価証券の売買」がある(同法施行令第1条の7の3第11号)。
また、仮に「売出し」に該当するとしても、金融商品取引業者等が行う外国で既に発行された有価証券等の売出しのうち、国内における当該有価証券等に係る売買価格に関する情報を容易に取得することができることなどの所定の要件を満たすもの(「外国証券売出し」)は、法定開示義務が免除され(金商法第4条第1項第4号、同法施行令第2条の12の3)、その代わりに、原則として、簡易な情報提供としての「外国証券情報」の提供又は公表を行う必要がある(同法第27条の32の2第1項、証券情報等の提供又は公表に関する内閣府令第12条)。
(2) 投信法上の規制
投信法上、「外国投資信託」について定義が置かれており、そこでは「外国において外国の法令に基づいて設定された信託で、投資信託に類するものをいう」とされている(同法第2条第24項)。
外国投資信託に係る受益証券(受益権)の募集の取扱等を国内で行う場合、すなわち国内で販売しようとする場合、当該外国投資信託等の受益証券の発行者は、原則として、当該外国投資信託に係る所定の事項を金融庁又は財務局に届け出る必要がある(投信法第58条第1項)。
ただし、「その内容等を勘案し、投資者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして政令で定める」次の3つのいずれかに該当する場合は、当該届出は不要となる。
金融商品取引所に上場されている外国投資信託の受益証券(金融商品取引所が売買のため上場することを承認したものを含む。)の募集の取扱い等(法第26条第1項に規定する募集の取扱い等をいう。中略)
第一種金融商品取引業者が行う外国投資信託の受益証券(投信法施行令第12条第2号に類するものに限る〔同法施行規則第94条〕)に係る外国金融商品市場(金融商品取引法第2条第8項第3号ロに規定する外国金融商品市場等における売買の媒介、取次ぎ又は代理等
その他プロ向けの売買の媒介、取次ぎ又は代理等(同法施行規則第94条の2)
ここでも、海外の取引所で上場している投信法施行令第12条第2号類似のETFであれば、投信法上の届出義務を免れることができる。
(3) 日証協等自主規制機関の規制
ここまで見てきたとおり、金商法・投信法、いずれにおいても開示や届出の義務が課される可能性があるとしても(海外ETFが投信法施行令第12条第2号類似ではない場合)、当該開示や届出にかかるコストを度外視すれば、それらを履践することにより、我が国で海外ETFを販売することは可能である。
なお、監督指針上、暗号資産のような非特定資産を投資対象とする商品の販売が事実上禁止されている点は上記のとおりである(第一種金融商品取引業者については、金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針Ⅳ-3-1-2(9))。
加えて、多くの第一種金融商品取引業者(証券会社)が加入している「認可金融商品取引業協会」(金商法第67条)である日本証券業協会(日証協)による自主規制について検討する必要がある。
日証協は「外国証券の取引に関する規則」(外国証券取引規則)という自主規制を定めている。
そこでは、協会員(日証協に加入する証券会社)は、既に発行された「外国株券等」については所定のものに限り顧客に対し「外国取引」や「国内店頭取引」の勧誘を行うことができるとされている(外国証券取引規則第7条第1項)。
ここで「外国株券等」には外国ETFやクローズドエンド型の外国投資信託受益証券が含まれているものの、外国ETFは投信法施行規則第94条に規定するもの、すなわち同法施行令第12条第2号に類する外国投資信託の受益証券を指す。
また、クローズドエンド型とは「運用期間中、払い戻しに応じない」(一般社団法人投資信託協会ウェブサイト)タイプを指す。
あるいは、「外国投資信託証券」(外国証券取引規則第2条第17号)として販売することになるが、外国証券売出しに該当する場合を除き、当該外国投資信託証券が所定の要件をすべて満たし「投資者保護上問題がないことを当該協会員が確認したものでなければならない」とされている(同第15条第1項)。
この外国証券取引規則第15条第1項の建付けがよく理解できないものの、「売出し」に該当するものの「外国証券売出し」に該当する場合は同条項の適用はなく、「売出し」に該当し「外国証券売出し」に該当しない場合には同第16条の選別基準に適合する外国投資信託証券でなければならないと読むのが正解だろうか。
上記のとおり、「金融商品取引業者等が顧客のために取引所金融商品市場又は外国金融商品市場(法第2条第8項第3号ロに規定する外国金融商品市場をいう。以下同じ。)における有価証券の売買の取次ぎを行うことに伴う有価証券の売買」は有価証券の「売出し」から除外されており(金商法第2条第4項柱書括弧書き、同法施行令第1条の7の3第11号)、NYSE・Nasdaq・Cboeの市場に上場しているETFの売買の取次ぎを行うことに伴う当該ETFの売買はそもそも「売出し」ではなく外国証券取引規則第15条第1項の適用はない。
また、仮に「売出し」に該当するとしても、投信法施行令第12条第2号の投資信託の受益証券に類する「海外発行受益証券」(金商法施行令第2条の13の3第8号)に該当すれば、「外国証券売出し」(同法第27条の32の2第1項)であり、同じく外国証券取引規則第15条第1項の適用はない。
「売出し」に該当し、かつ、「外国証券売出し」に該当しない場合、外国証券取引規則第16条第の選別基準を満たす必要があるが、例えば、国内の代理人を設置すること(同条第1項第3号)や裁判管轄権が我が国に属することが明らかであること(同項第4号)など、基準を満たすことが困難と思われる。
(4) 小括
以上のとおり、解明すべきポイントは、海外発行ETFが投信法施行令第12条第2号に類するものかどうかである。
この類型は、上記で説明したとおり、現物拠出・現物交換型のETFである。
しかるに、例えば、Nasdaq上場のBlackRockの"iShares Bitcoin Trust"は、次のとおり、金銭信託・金銭償還型である。
また、Cboe上場のInvescoの"Invesco Galaxy Bitcoin ETF"も、次のとおり、金銭信託・金銭償還型である。
あまりはっきりしないが、NYSE Arca上場のBitwiseの"Bitwise Bitcoin ETF"も同様に、金銭信託・金銭償還型であると思われる。
ほかのビットコイン現物投資型ETFすべて確認したわけではないが、概ね、同様に金銭信託・金銭償還型だと思われる。
そうすると、これらは投信法施行令第12条第2号に類するとはいえず、「外国証券売出し」に該当せず法定開示義務が課され、投信法上の届出が必要となり、仮にそれら開示・届出を満たせるとしても、日証協の外国証券取引規則第16条の選別基準を満たす必要があるが、おそらく満たさないと思われるため、これらビットコイン現物投資型ETFを我が国で販売することはできない。
以上