ラギアクルスの骨格形態から推定する海竜の系統分類
モンスターハンターシリーズには、「海竜」と呼ばれる竜のグループが登場する。グループ名が示す通り、海竜グループには、海洋環境に進出・適応したラギアクルスやロアルドロスなどの種が含まれる。海竜グループの競争相手となりえる飛竜や獣竜、牙竜、鳥竜のグループは、今日まで海洋環境には進出していないことから、現在、海竜グループは、魚竜グループと並ぶ海洋生態系の実質的な頂点に君臨している。
この海竜グループの代表とも言えるモンスターが、モンスターハンタートライ(MH3)の表紙を飾り、モンハン20周年人気投票で第3位の座を獲得した「海竜ラギアクルス」である(図1)。
海竜グループの系統関係については、たびたび議論が巻き起こっており、これまでに、海竜亜目に近縁な可能性がある系統として、
・プレシオサウルスなどの首長竜の祖先系統
・モササウルスなどの海生トカゲ類
・ワニ類
の3つが候補に挙げられている(図2)。
参考までに、筆者も大ファンであるモンハン考察系Youtuber「ちょぼにーのロマン狩り」さんの動画では、海竜亜目は「首長竜の祖先系統」である可能性が指摘されている(【MH解説】海竜種はかつて現実世界にも実在した!?海竜達の進化系統を追ってみよう!【モンハン解説シリーズ】)。
動画内では、大変興味深い考察がたくさん展開されるため、ぜひご覧になっていただければと思う。
ちょぼにーさんは、生態や外部形態の特徴をもとに、海竜亜目の系統的位置を推定していた。一方、本稿では、形態・発生・進化を研究する筆者が、公式より公開されているラギアクルス骨格形態の情報をもとに、海竜亜目の系統的位置を推定する。現実世界でも、DNA情報が消失した絶滅種の系統分類は、骨格(化石)の形態を調べることで推定されている。
現在まで蓄積された系統分類学的知見を活用して系統調査を行った結果、海竜亜目は、首長竜や海生トカゲ類よりも、ワニ類に近縁である可能性が高いことが分かった。以下に、その根拠をまとめていこうと思う。
図3より、ラギアクルス骨格の形態的特徴として、
・下顎骨内に下顎窓と呼ばれる空間が認められる
・指数は、前指が5本、後趾が4本である
ことがあげられる。
これらの形態的特徴を踏まえ、現実世界に実在する(した)海生・水生爬虫類における下顎窓の有無と指数を調査する。
各種の頭蓋骨および四肢の形態を観察した結果、ラギアクルスにみられる形態的特徴(下顎窓、後趾)は、アリゲーターのものと同じである(図3, 4)ことが分かった。
一般的に、下顎窓は鳥類を除く主竜類の多くの系統に認められる特徴である。また、4本の後趾は、ワニ類やその近縁種に広く共通する特徴である。これより、ラギアクルスが属する海竜亜目は、ワニ類もしくはその祖先系統であるワニ形類に近縁である可能性が高いことがわかった(形態的には、タマミツネなどの海獣竜亜目もワニ形類に近縁な可能性がある)。
現生ワニ類は、すべて新鰐類(しんがくるい:Neosuchia)と呼ばれる系統内に含まれる。絶滅した新鰐類の中でも、海生への適応を果たした系統として、タラットスクス亜目に属するペラゴサウルスやダコサウルス、プレシオスクスなどが知られている。
以上より、ラギアクルスの頭蓋骨と四肢は、初期のタラットスクス亜目でたるペラゴサウルスと同じ形態(下顎窓が備わる、後趾が4本)であることがわかる。一方で、海竜亜目の種は、伸長した頸部(首)などの、他のワニ形類には認められない系統固有の形態を有している。加えて、海竜亜目とタラットスクス亜目は、いずれも海洋進出を果たしていることから、海竜亜目は、海洋進出を果たしたタラットスクスク亜目に近縁な、固有の系統である可能性が高いと思われる(図6)。
海洋進出を果たしたばかりの初期のタラットスクス亜目の種は、下顎窓をもつとともに、その四肢は鰭状に変化していない。モンハンにおける海竜亜目も、海洋環境への進出を果たしたばかりのグループなのかもしれない。今後、海竜亜目の進化が進めば、メトリオリンクス科の海生ワニ形類のように、下顎窓が閉鎖するとともに四肢が鰭状に変化した竜が出現する可能性もある。
本稿での調査により、海竜亜目は、首長竜や海生トカゲ類よりも、ワニ類に近縁であることが示唆された。しかしながら、海竜亜目と同じ海竜グループに属するとされる底足竜亜目(ハプルボッカ、チャナガブル)の形態は、海竜亜目、海獣竜亜目のものと著しく異なる。ちょぼにーさんも疑問を呈していたが、底足竜亜目は本当に海竜グループに属するのだろうか?
ラギアクルス骨格の形態的特徴を踏まえたうえで、底足竜亜目の種の形態を改めて観察することにより、底足竜亜目が本当に海竜グループかどうかをより詳細に評価できるかもしれない。