アートの拠点をロンドンに!ワークショップを獲得するまでの道のり
私たちは現在、アーティストVISAを利用してイギリスに滞在しています。このビザの正式名称はGlobal Talent visaで、科学、アート、デジタル技術などの分野でリーダー的存在またはその可能性がある人を対象としています。
このビザは、仕事のオファーやスポンサーを必要とせず、最大5年間有効で、延長や永住申請も可能です。
ただし、申請する年度によってVISAの内容や条件が変わるため注意が必要です。私たちが申請した際には、分野に応じたイギリスの専門機関(例: Tech Nation for Digital Technology、Arts Council England for Arts and Culture)からの推薦状、履歴書、それに加え国際的に認められた10個の『成果を示す証拠』(論文や受賞歴など)が求められました。
これらの書類をすべて準備し、書類審査を通過するとVISAが発行されるという流れでした。
ここで重要なのが『成果を示す証拠』です。
アートの場合、国際コンペでの入賞やイギリスのメディアに自分の作品が取り上げられた事例(イギリス発行の雑誌に作品が掲載されるなど)、国際的な展示会への参加等が求められます。日本にいながらイギリスの媒体に取り上げられることはなかなか難しいため、私たちはワーキングホリデーVISAの2年間と学生VISAの2年間、合計4年間でアーティストVISA用に『成果を示す証拠』をいくつか作り上げることを目標にしました。
要するに、イギリスで作品を制作し、メディアに取り上げてもらうことが目標ですが、そのためにはまず制作場所を確保する必要があります。
今回はロンドンでどのようにワークショップを確保したかについてお伝えします。
ワークショップ探しの厳しい現実
ロンドンには100以上のアーティスト向けワークショップ(工房)やスタジオが存在します。アーティスト向けスタジオの一般的なサイズは約300平方フィート(約27.9平方メートル)から400平方フィート(約37.2平方メートル)で、日本の畳に換算すると約6畳から8畳程度になります。
アーティスト向けスタジオの月額料金は地域や施設によって異なりますが、一般的には£300以上。
具体的には、例えば:
小規模なスタジオ(6畳程度)で約£250〜£400。
大規模なスタジオ(8畳以上)で約£450〜£600。
この出費はかなり馬鹿になりませんよね。
自宅の家賃に加え、ワークショップの家賃も払わなければならないのです。ロンドンはワークショップ数は多いですが、安くて良い物件を見つけるための争奪戦は非常に激しいです。イギリス人でさえもワークショップ探しが難しいとよく聞きますので、外国人が見つけるのはさらに困難です。
ここでもう一つ問題になるのは、私の夫の専門分野が鍛金であるということです。
鍛金とは、銅や銀などの金属をハンマーで叩いて作品を作り上げる伝統工芸の一つで、イギリスではSilversmith(銀器作家)と呼ばれています。(イギリスには他にもBlacksmith(鉄を扱う鍛冶職人)やGoldsmith(ジュエリー作家)などもあり、とても興味深い!)
鍛金はハンマーで金属を叩く作業が続くため、音が非常にうるさいです。安いワークショップでは他のアーティストとシェアすることが多いのですが、騒音が嫌われることがあり、借りるのがもっと難しくなります。
それに加え、現地で制作に必要な道具も揃えなければならず、やることが山積みです(涙)。立地が良く、安価で鍛金作業が可能な場所を見つけるとなると、条件はかなり厳しく、無理ゲーすぎる。
ファッションブランドが支えるアーティストの拠点
では、私たちがどうやってワークショップをゲットしたかというと、現地の友人に紹介してもらったことと、運が非常に良かったということです。
渡英する前から知り合っていたイギリス人の友人がロンドンでワークショップを借りていたため、その場所を渡英してしばらくはシェアさせてくれました。
彼はイギリスで彫金(Engraver)を専門とするジュエラーだったので、同じ金属を扱うアーティストとしてのよしみで場所をシェアしてくれたのです。
そのワークショップは、イギリスの有名ファッションブランド「Alexander McQueen」が運営するSarabande Foundationが管理しています。この財団はファッション系の、特にCentral Saint Martins(ロンドン芸術大学(University of the Arts London, UAL)の一部)と深く交流があり、学生にはかなり有名です。
友人はジュエラーということもあり、ファッション系のワークショップを借りることができたんですね。
そこで3か月ほど友人のワークショップで制作活動している中で、財団の管理運営をしているディレクターに出会い、作品に興味を持ってもらうことができました。そして、自分のワークショップを貸してもらえるように、とんとん拍子で話が進んでいったのです。
人脈を広げることで得られる可能性
Sarabandeが運営しているため、彼らが保有しているワークショップは立地も良く、料金もロンドンではかなりの破格です。(負担としては光熱費のみ!)
また、大きな財団なのでお仕事の紹介(コミッション)も時々あります。滞在できるのは基本的に1年間だけなど条件はあるものの、所属すればSarabande所属アーティストとしての肩書きがつくため、出会いの場も増え、イギリスでの活動がよりしやすくなります。
こんな好条件の物件に鍛金作家が場所を借りられたのはかなりラッキーでした。(制作中の騒音に関しては対策すればOKということになりました。)
しかし、このラッキー具合といいますか、コネクションの力はとっても重要。
知人の紹介でワークショップやスタジオを借りるという話は他のアーティスト仲間でもよく聞くものです。貸主は、ある程度実力や人柄を担保してくれる人に場所を貸したいと考えるため、イギリスのアート業界ではコネクションの重要性を非常に強く感じます。(日本より紹介の力がかなり強くて大きい)
もしこちらで制作拠点を探している方がいるなら、渡英する前に多くの知り合いを作っておくことをおすすめします。現在ならインスタグラムでのやり取りが非常に簡単ですし、色々調べてDMやコメントなどでアーティストとコミュニケーションを取ってみると良いと思います。
ちなみにほかのチョイスとして、2,3年前にイギリスの有名ファッションブランド「Paul Smith」が若手アーティストの支援の為に、Paul Smith Foundationを設立したそうなので、興味があればこちらに応募してみるのも良いかもしれません。