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時論公論 出生率0.78 韓国の少子化対策はなぜ失敗したのか

はじめに

岸田政権は、少子化対策を強化するための具体策や財源の検討を進めています。その少子化が日本以上に進んでいるのが、お隣の国、韓国です。出生率は0.78。韓国政府は20年近く前から少子化対策に取り組み、莫大な予算を投じてきました。

韓国の現状

韓国の合計特殊出生率です。1970年には4を超えていましたが、年々少子化が進み、去年は0.78と7年連続で過去最低を更新しました。

OECD諸国の中で出生率が1を下回ってるのは韓国だけです。1980年には人口の3割以上を占めていましたが、14歳までの人口は年々減少し、2050年には1割を割り込むと推定されています。その一方で、1桁台だった65歳以上の高齢者は、2050年には4割近くを占めるとみられています。

結婚する人が減ってきたことが最大の要因と言われています。1980年には40万件以上あった婚姻件数は減少を続け、2021年には19万件余り半分以下にまで減っています。

背景には、結婚して子供をもうけ、育てることへの不安が大きいことが指摘されています。

不動産価格の高騰で、ソウルのマンションの平均価格は日本円で1億円を超えています。結婚して親元を離れ、新しい家庭を築こうにも、マイホームは容易に手に入るものではありません。

ソウルに住む結婚して5年以内の新婚家庭を対象にした調査では、住宅を保有しているのは4割弱。子供の数は平均で0.62人と全国平均を大きく下回っています。

歴代政権が行ってきた政策と規模

2005年には低出産高齢社会基本法を制定。歴代の政権が数々の対策を打ち出してきました。

朴槿恵政権は、0歳児から5歳児を対象にした無償保育の所得制限を撤廃。文在寅政権では、男性の育児参加の促進に力点が置かれました。

去年発足した尹錫悦政権も、低家賃の公営住宅の建設や移民の積極的受け入れを掲げています。2006年からこれまでに韓国政府が少子化対策に費やした予算は日本円にしておよそ28兆円以上 。それにもかかわらず、少子化は進む一方です。

生きづらさとその真実-五放世代

日本にも紹介されベストセラーになった小説『82年生まれ、キムジヨン』です。

主人公の女性は1982年生まれ。何度も壁に当たりながら大学を出て就職し、結婚して娘を出産します。

ここに描かれているのは、この世代の韓国女性の多くが経験する生きづらさです。ある調査では64%が結婚に負担を感じる。77.2%が子供がいると、就業やキャリアに制約を受けると答えています。

こうした生きづらさは女性に限ったことではありません。三放世代。これは、恋愛、結婚、出産の三つを放棄せざるを得ない若者を指す言葉です。これに就職とマイホームを加えた五放世代という言葉も登場しました。

個人の生活の質や家族生活の幸福度よりも経済的効率労働優先といった旧来の価値観が染み込んでいて、こうした旧来の価値観が変わらない限り、やはり自分たちの未来に不安を抱えざるを得ない。

こうした状況を変えていかなければ、安心して子供を産んで育てようという気持ちには到底ならないと思います。 産めよ増やせよといった掛け声では、若者の意識を変えることはできません。

まとめ

韓国の経験を他山の石として、日本政府には実効性のある少子化対策を打ち出してもらいたいと思います。


他山の石の意味 文化庁月報 平成23年10月号(No.517)



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