山田君 不動産で世を渡る(プロになる)
山田君は1部上場の総合不動産会社に転職を果たした。
山田君の戦略 1、宅建資格を取得する。2、配属先を売買仲介にして不動産のノウハウを覚える。3、決裁権者の意思を実行する。4、自分に対して目標をかかげる。(最低月に1契約)
山田君の配属先は埼玉営業所で、希望通り売買仲介である。おもな業務は会社の分譲する新築戸建の買い換えのお客様の査定、仲介、買取。また買い換えでないお客様の売却依頼である。
入社して研修を受ける。いよいよ配属。場所は川越市であった。同僚は店長と営業が2名。それと事務員1名の合計4名。山田君を加えて5名体制である。
ひととおり業務の流れをレクチャーされ、いよいよ営業マンとしての旅立ちであった。
ネットが普及していない時代である。かろうじて店舗に1台コンピューターがあり、不動産協会の指定するレインズがインストールされている。
当時はコンプライアンスなんてあまり重要視されていない時代。ただ上場会社なので媒介契約(専任媒介契約)を受託した場合はレインズ登録が義務づけされていた。
実務的解説
※現在不動産の売却を不動産会社に依頼する場合は(2023年)
1、一般媒介契約 2、専任媒介契約 3、専属専任媒介契約の3種類がある。
1、一般媒介契約
依頼主のメリット 複数の不動産会社に依頼可能
デメリット 仲介会社が優先的に広告を行わない。
不動産仲介は成果報酬のため、専任媒介に広告費を優先させる。
2,3専任媒介等の契約
売主に対して報告義務があり、レインズなどの流通機構に登録義務もあ
る。(売り情報を公開)売却依頼期間はMAX3カ月である。
専属専任媒介契約の場合は、自己発見取引(知り合いが買いたいなど)
も依頼した不動産会社を通さなければならない。
その他売却の場合は代理契約や買取条件付きなどもある。
※買いの場合も媒介契約があるが、実務上は売買契約締結時に一般媒介契
約を締結している。
用語解説(実務的)
物元 媒介契約を売主から委任されている業者。
客付け 買主の委任を受けた業者。
仲介手数料 売主買主双方から3%+6万円を上限に受領できる。
宅建業法で手数料表の掲示を義務付けされている。
別れ(片手)物元業者が売主から3%+6万円、客付け業者が買主から3%
+6万円の手数料を受領する。
※仲介会社は売主から販売を受託でき、自分で客付けができない場合は他社に客付けを依頼する。(レインズで公開すると業者から問い合わせがきて成約するケースが多い)
※物件の受託ができれば物元になれ、少なくとも片手の3%+6万円の手数料を受領できる。よって物元になるよう業者は活動する。
川越の営業所に配属された山田君。事務員と留守番を言い渡される。午後になりボケっとしていたら、中年男性がはふらっと入ってきた。いらっしゃいませ。どうぞどうぞ。
いきなり接客とは。山田君のハートはどきどき。老紳士はカウンターに腰かけた。事務員がお茶を出す。
山田君が用件を聞く。老紳士は「最近親が亡くなったため空き家になり、親の家を売却しようと思っている。ついては価格相場を知りたい」との依頼。
備え付けのアンケート用紙に氏名住所、物件所在地、連絡先など を記入してもらう。山田君は教えてもらった通りに物件の内見の日時を約束して接客を完了した。
相場感が全くない山田君は店長に報告するため、アンケート用紙に記入してもらった内容を報告書に書き写した。えーと、川越市霞が関北 60坪の古家あり。職業は新聞記者。
山田君は住宅地図をコピーして登記所に行った。公図と謄本をとるため。
用語解説(実務的)
※謄本(登記簿謄本)法務局に備えられていて、印紙にて手数料を支払えばだれでも調べられる。
謄本は3部構成
①表題部 ②甲区欄 ③乙区欄 により構成されていて、要約すると、
①表題部 土地の所在と地番 地目(宅地や雑種地や農地)地積(面積)が記載されている。
②甲区欄 この土地の所有者の住所、氏名が記載され、登記原因といってどのような経緯でいつ名義が変わったかわかる。
前所有者の住所氏名もわかり、売買や相続や競売、贈与など所有者がいつ何の目的で移転したのかがわかる。
税金滞納などを行うと差押えなどの登記が嘱託でなされ、記載される。
③乙区欄 一般的にこの土地を担保に入れた場合の抵当権や根抵当権が記載されている。
※共同担保目録 謄本を法務局に申請する場合は共同担保目録も一緒に依頼する。1つの債権(借入)がその物件の土地や建物など複数にまたがっていることが多い。住宅ローンを借りて一戸建を購入した場合は土地と建物の双方に抵当権が設定される。
重要 民法177条で不動産の売買などを行ったら登記法に基づき登記をしないと第3者に対抗できない。とうたっていて、売買の残金を支払うときは司法書士の立ち会いにより、登記完了書類が完備されてから代金を支払う。
※公図(地図)法務局に備えられている謄本と合致している地形図。隣接地の地形もわかるが、精度区分によりいい加減な寸法の場合が多い。
※地積測量図 法務局にはその土地の地積測量図が登記されている場合がある。その土地の面積の根拠となった廻り間(まわりけん)がわかる。
まわりけんとはその土地辺のすべての寸法のこと。
※住宅地図 ゼンリン社製のものでブルーマップがよい。住所の他地番や都市計画に基づく用途地域などがわかる。
地番と住所が同一でない場合が少なくない。役所の管轄の問題で、地番は法務省で、住所は自治省の縦割り行政の弊害です。
住所から地番を調べる方法は管轄する法務局に電話すると教えてくれる。
※建物謄本 土地と同様と考えていい。中古の場合建築年月日が記載されている。また建物の新築時の甲区欄は所有権保存となる。
建物の登記は義務であるが、昔の建物や物置などは未登記のものも多い。建物が役目を終え解体されると抹消登記がなされる。この抹消登記がされずに更地で土地を買って建物を建てようとすると、建築確認が下りないことがある。厄介であるが、売主から委任状をもらって抹消登記を行う。相続により複数の売主がいる場合はそのうちの1名の委任により抹消することが可能である。(土地家屋調査士に確認してみてください)
山田君は法務局で住宅地図の地番をもとに、謄本と公図を受領した。謄本で売主の住所氏名を確認すると、すでに相続登記が完了していて来店してくれた売主の名前になっていた。
次に公図をみた。ほぼ住宅地図の地形と等しい。住宅団地内なので東側と西側、北側の地番を確認、法務局に閲覧の申請を行うことにした。
メモ用紙に隣接地すべての登記情報を書き写す。最後に土地の地積測量図と建物図面を申請。大手不動産会社の分譲地のためこれらの図面も入手し、法務局を後にした。
※山田君が入手した書類。①土地登記簿謄本 ②建物登記簿謄本 ③公図
④地積測量図 ⑤建物図面