山田君 不動産で世を渡る(プロになる)※平成バブル 曙橋立退き・追出し交渉VOL2
会社の稟議が下りてプロジェクトの融資も付いた。偽りの計画書。土地転がしのスタートである。
確定測量には3カ月の時間を要する。売主のはからいもあり、契約手付金を支払い残金決済前であるが、立ち退き交渉を進めることとなった。
信濃町の社長の案で、追い出された入居者に代替え物件を順次用意してもらった。空室の1部屋に机と椅子を持ち込んだ。ほとんどが単身者で日中は仕事のため会うことができない。その部屋に夕方から待機して訪問するのだ。
立退き合意書を用意する。貸主・借主は合意により賃貸借契約を解除する。合意してから3カ月間の賃料は免除する。引越し費用として家賃の2か月分を支払う。と合意書には書き込んだ。ようは家賃の5か月分で出て行ってくれってことだ。
俺は立退き交渉は初めての経験である。不安がつきまとう。老朽化しているのは住人も承知しているが、いきなり来て出て行ってくれって、住人にとっては迷惑な話だし、俺にとってはとてもいやなミッションである。ただ7億近い金を払う約束だ。なんとしてもやらなければならない。
俺は知り合いの不動産会社の社長に相談した。立ち退き交渉の仲間に入れようと思った。この社長とはずいぶんと取引を行い信頼関係が出来上がっていた。社長との取り決めは成功報酬4カ月分。全世帯の立ち退き成功で100万円のお礼で引き受けてくれた。
そして俺たちは毎日空き部屋をアジトに、仕事が終わる夕方に集結した。暖房なしの薄暗い部屋は冷たい。なんでこんな仕事してるんだろう。入居者の部屋からのカレーの匂いは俺の心に針を刺す。