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招かざる訪問者との物語12

【新入社員研修 若きMR 医薬情報担当者の叶えたい夢】
2週間前、A大学病院で、IPMN 膵管内乳頭粘液性腫瘍の確定診断が出た後、再び慌ただしい日常が戻ってきた。最悪の展開を覚悟していたので、ひとまず膵臓の病気が経過観察となったことに、自分でも驚くほど気持ちは、穏やかであった。逆に忙しさはかえって普段の時間を取り戻せたようで、あまり苦には感じない。

長女真千子の結婚の話や、人事部での様々な業務も、いつも通りに出来ることを感謝し、自然と身体の中からエネルギーが溢れてくるのだ。

真一は、丸の内の本社12階オフィスで、来週、実施する新入社員研修の準備に追われていた。
オフィスの窓からは、東京駅周辺の高層ビル群とその先、地平線の彼方まで連なる街並みを一望出来た。

いったいどれだけの人がこの東京で暮らしているのだろうと真一は思った。点にしか見えないそんな一人一人にも様々な人生があって、泣いたり笑ったり、喜んだり悲しんだり、ささやかな日常を紡いでいる。
彼は、これから先、あと何人の人と出会い関わりを持つのだろうと、ぼんやりと思った。

一友製薬に今年春入社したMR新入社員は、13名。男性6名、女性7名。その内、薬剤師資格取得者は5名である。
コロナ禍の厳しい就職戦線を乗り越えた若き期待の人材達だ。
彼らの成長を促し大切に育て上げ、医療に貢献出来る人材を育成することが人事部高山真一に課せられ使命である。

製薬業界でMRが最も多かった2013年迄は、各社、新薬投入に合わせてMRを増やし、業界全体で6万5千人を超え、活況を呈していた。
しかし、その後、生活習慣病などのGeneral領域の大型新薬の発売が減る中でMR数は徐々に減少している。MR数は、現在5万3千人程になり更に減少すると考える。既に最盛期から2割以上のMRが居なくなったのだ。

背景には、薬の開発における不確実性がある。
開発コスト増大に加え、社運をかけた期待の新薬も開発治験結果で、想定した有用性を証明出来ず、頓挫することも多いのだ。
より厳格により厳しく効果と安全性を探求し、既存品にはない有用性を証明して、はじめて承認を得る現在の審査体制は、過去の薬害などを深く反省し、国と製薬メーカーが誠実に改善に努めた仕組みと私は評価する。

一友製薬の企業理念は、
人々の健やかな人生のために、新たな価値を生み出し、医薬品を通じて社会に貢献する。

そんな志を、これからの我が社を担う、新入社員達に受け継いで欲しいと、真一は思う。

来週の新入社員研修の担当テーマは、コンプライアンス。しばらくパソコンの画面と向き合い、講義内容について、想い悩んだ。

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