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フランスの建築家資格

 前回はフランスの建築家の資格を取得した後に、日本で一級建築士の資格を取る方法をお話ししましたが、今回はその前段階のフランスの建築家の資格取得についてのお話をしようと思います。

 フランスの建築学校の教育プログラムは2000年代に大きな改革があり、それまでの第1課程2年間、第2課程2年間、第3課程2年間という計6年制から国際的な基準に合わせた、学士3年、修士2年という計5年制のプログラムに変わりました。それに合わせて、建築家の資格の名称も変わり、それまではArchitecte DPLG (Architecte Diplômé Par Le Gouvernement)と呼ばれていたものが、建築学校を卒業した時点でArchitecte Diplômé d'Etat (ADE)、もしくはDiplôme d'Etat d'Architecte (DEA)という名称に変わりました。設計事務所で所員として仕事をするには、この資格だけで差し支えありません。しかし、自分で事務所を立ち上げる、または個人で仕事を受けて建築家として働く場合には、さらにL'Habilitation à exercer la Maîtrise d’Oeuvre en son Nom Propre (HMONP)という資格が必要になります。2段階制ということですね。まあ、学校で学ぶことと実務で必要になる知識は違うので当然とも言えます。

 ちなみにフランスで建築家になろうと思うとフランス全国に20校ほどしかない国立の建築学校を卒業する必要があります。私立でも数校、同じ資格を得られる学校がありますが、たいていの建築家は国立の学校を出ています。建築学校はどの学校も1学年につき100人程度の学生しかいないので、年間でフランス全国でも2000人ほどしか卒業生がいないことになります。また機会があれば比較してみたいですが、日本とフランスで建築家の絶対数はかなり違いそうです。

 HMONPを取得するには、6ヶ月間の実務経験と建築学校で行われる講義に定期的に出席し、最後に筆記試験を受けます。この講義で学ぶのは法規や設計者の立場、契約の種類など実務的な内容です。学外から実際にその分野の専門家が来て講義をしてくれたので、割と面白かった記憶があります。
 それと並行して実務経験で学ぶべきことリスト、みたいなものを渡されて、6ヶ月間に学んだことにチェックをつける、ということになっていましたが、リストをみた事務所のボスは「これ全部学ぼうと思ったら10年かかるわよ」って言ってました。まあ、知識的に触れておけって感じなんでしょう。

 筆記試験とは別に最後に面接があります。実務経験を通して学んだ知識を織り交ぜつつ、システムの問題点を指摘する、つまり体制に対する自分の意見を述べるというようなことが必要で、前もってレポートを提出し、そのレポートをもとに試験官の質疑応答に答えるのですが、要領がわからず結構苦労しました。でも、私を含め私の周りにも日本人でこの資格を取っている人もいますし、外国人留学生に絶対取れないというわけではありません。

 このHMONPの資格を取って、それぞれの地方ごとにあるL'Ordre des Architectes (建築家協会)というところに登録をして、独立した建築家として仕事をすることができます。日本でいうところの建築士の資格がないと事務所登録ができないようなものだと思っています。

 これからフランスに建築留学をしたいという方、海外の建築家の資格について知りたいという方の参考になれば幸いです。

※ この記事は以前「フランス語建築用語集」というブログに記載していたものに加筆、修正を加えたものです。筆者は同一人物です。


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