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脱ぎたい日もある〜#毎週ショートショートnote〜

「ちょこニート あなたの肩書き脱がせます」

一つもわからない看板だが、逆に興味を惹かれた。
次の商談まで時間も空いている。
思い切って雑居ビルの2階を上り、扉を開けた。

「ようこそ、いらっしゃい。」
薄暗い店内。小柄で猫目の店主。
ショーケースの中には、一粒大のチョコレートが並んでいた。

「ここは…チョコレート屋さん…ですよね…」
「ただのチョコレートではありません。ちょこっとの時間、ニートになれます。」
「ニートって…あの…?」
「そう。あなたそのお姿から、お仕事中と見た。ご家庭でもなんらかの役割を担ってることでしょう。これを口にすると、肩書きを全て脱いだ、何者でもない、ニートのような気持ちになりますよ。よかったら、ご試食なさいますか?」
一瞬迷ったのを察したように、店主が重ねた。
「大丈夫、そんな長くは続きません。」

店主から渡されたチョコレートを口に入れた。
とろけるような甘さだ。舌で転がしながら、優しく噛みしめる。

ふんわりとした心持ちになった。
営業、マネージャー、PTAの役員、妻、母、嫁、娘…
一枚ずつ、花びらが落ちるように肩書きが脱がされていく。
体の奥がじんわりとほどけていき、思わず吐息がもれた。
肩書きを脱いでいって、最後に残るのは何だろう…



「…どうでした、ニートになれましたか?」
相変わらず猫目の店主が訊く。
「はい、まあ、ニートっていうより……あの、これ2つください。」

「お気に召してよかったです…ご自宅用ですか?」


「一つは…プレゼントに。」

(了)620文字


田原かに(たはらにか)さんの「 #毎週ショートショート 」に参加しています。今回の裏お題は「 #チョコニート 」(表お題: #書庫冷凍 )でした。

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