若さという産油国を手放す。
若さは、産油国だ。
石油が出る国は豊かになり、他国から羨ましがられる。
でも、それは同時に争いの種になる。
同じように、若さは豊かで価値があるものだが、その分多くを奪われた。
産油国ってこんな気持ちなんだろうな、って思った。
でも、若さを持っているときは、とても楽しかった。
飾った分だけ、それに応えてくれる。
どんどん、言葉も見た目も飾りたくなる。
30代になり、出産を経て、見た目が思い通りにいかなくなった。
若さのある人が、眩しく見える。
大変恥ずかしいことだが、私は「かわいい」と言われたい。
子どもが生まれて、かわいいと言われるのは子どもばかり。私にかわいいと言ってくれる人はほとんどいない。
若さと同時に、かわいさも私の手を離れつつあるんだ、と感じる。
正直に告白すると、若い頃もそんなにかわいくなかった。
それが分かっているのにも関わらず、「私から『かわいい』を取ってしまったら何も残らないのではないか」と危惧している。
10代〜20代前半の頃は常に「コンテスト」に出ているような状態だった。
男の子たちはこっそり「クラスで誰が一番かわいいかランキング」をつけていた。そのランキング、中学生、高校生、大学生の時にあったし、新卒の頃に入った会社にもあったのも知っている。
それが、なんだかしんどい。それでも、やっぱり多くの男の子たちに好かれたら嬉しいな、っていう気持ちが混ざり合った。
今時々参加しているnoteのコンテストと気持ちは似てる。しんどいけど、上位だったら嬉しい。でも、noteのコンテストは出ない権利もある。それに対し、男の子たちがつけるランキングは強制的に参加させられる。出ないこともできるけど、とんでもなく問題外ってことだ。
そういうことやってる男の子たち、「バカだな」って思うこともできる。ただ、私が憧れていた理知的な男の子も、やっぱりそのランキングの審査員だった。私が好きな男の子も、やっぱりかわいい子が好きなのだ。あの時は本当に、がっかりしたよ。
メイクや服装が自由にできるようになった大学生の頃、色々試した。不器用だったのであんまり綺麗にはならなかったけど、普通の大学生にはなれたようだ。校則が厳しかった私立の反動で、メイド服やフリルの付いた服を着てみたこともある。それなりに女の子らしくはなったけど、やっぱり生まれ持ったものをどうこうすることはできなかった。
頑張って勉強して入った大学だけど、男の子の会話はやっぱり「誰がかわいいか」っていう話ばっかりだった。高校卒業までほとんど男の子と話さなかった私が、男女分け隔てなく「友達」として好きな本の話や映画の話もできるようになったのは大きな成長だった。でも、やっぱり彼らには、「見た目がいい方がいい」っていう気持ちが端々に見えた。
「美人な子と話すと緊張するけど、あなたとは話しやすい」
そんな風に言われて、ムッとしたこともある。
また、うちの大学はミスコンが盛んで、グランプリの人はアナウンサーとかになれる。そのミスコンのキャッチコピーが「1年で一番輝いた女性を決める」というものだった。「輝いた」っていうのが、引っかかる。輝いた、だけなら見た目で選ばなくても良くない?素直に、「見た目が美しい女性」って言えばいいのにね。内面の輝きは、私の取り分だ。
一方、若いだけで奪われるものもあった。
ある日終電近くまでサークルの飲み会があった。千葉の最寄駅行きの電車で帰っていると、乗り継ぎの時に知らない男の人に話しかけられた。
「飲み過ぎたの?顔が赤いよ。かわいいね。」
突然のことで戸惑っていると、その人は顔を傾けてきて唇で唇を塞いだ。剃ってないヒゲが痛くて、煙草の匂いにむせそうだった。キスという言葉では表したくない。背中に手を回され、一緒に家まで来ないか、と迫ってくる。
精一杯の力でその手を振り解き、逃げて別の電車を探した。やっと電車に乗れた時、心臓の鼓動が一気に落ち着いて逆に立ちくらみがした。
こういうのは好きな人とじゃないとしたくない。好きな人からなら全然強引でもいいのに。初対面の人、親しくない人ばかり、そのような感じだった。
若さには、産油国のように、価値があるのだ。
価値があるから、品評され続け、奪われる。
若さを手放すっていうのは、そういう価値から、解放されるってこと。
好きなことや好きな人に集中できるってこと。
でも…若さを手放しても、かわいさは手放したくない。そんなの持ってなかったかもしれないのに、そう思う。
そういえば私は「ヘビ年」で、来年は年女だ。30代後半が始まる。若さも、可愛さも、手放したくない、そんなこと言ってられないけど、手放した途端、どこかに迷ってしまいそうになる。
そんな時、文章だけが頼りだ。多くの人は、私の姿を知らずに交流してくれている。(ちなみに、コメント欄にスキしてくれたら、6分の1の確率で私が出てくる)オフ会も今度あるみたいだけど、きっとかわいくなくても許してくれそうな暖かさがある。それでも、精一杯の努力はするつもりだけど。姿を見せなくても文章を磨き続けよう。文章は、頑張れば積み上げられて、積み上げればそれだけ魅力的になる。
産油国みたいに魅力が湧き出る生き方をしよう。
深夜に、そんな決意をした。
お肌に悪いから、早く寝ないとね。