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青天の霹靂4(廉夏を庇う)

「襲われる覚悟も持ってなく、お嬢様の立場だけ享受しようなんて、片腹痛いわ。お嬢様でいる資格もないわね」
廉夏は技と彼女を焚きつける。なぜなら、怒りなら吐き出させた方が良いと知っているからだ。
すると、素早く警察から脱け出し、落ちたナイフを拾い、廉夏に今度こそ刃物を向ける。
刃物を向けられても廉夏は微動だにしない。
廉夏にとってそれは感受すべきものだからだ。
だから、廉夏は避けようともしない。
でも、その間に入った者がいた。
腕に突き立てられたナイフ。
それを見て、周りは悲鳴に、包まれた。
「冬眞」
廉夏は叫んだ。
「大丈夫ですよ」
冬眞はわざと彼女の前で、腕からナイフを引き抜く。
そのナイフを、わざと彼女の足下に捨てる。
罪の意識を感じさせるためだ。
引き抜いたことで、一気に血が流れる。
まるで、それが罰だと言うように。
罪の意識を感じさせるためだ。
じゃないと、彼女が更正出来ない。
そうすると、血が滴り落ちて、小さな溜め池ができる。
刺した女は恐怖で震える。
自分が犯してしまった罪を目の当たりにして、恐怖したのだろう。
「ごめんなさい」
それを聞いて、冬眞は彼女に廉夏との違いを話す。
「廉夏さんはあなたの殺意から逃げようとしませんでした。それがあなたとの差です。廉夏さんは向けられた殺意からは、けして逃げようとしません。それが、京極であることの廉夏さんの譲れぬ矜持(キョウジ)だからです」
ようやく、放心していた警官は、彼女を連行する。
連行される彼女に冬眞は、優しい声をかける。
「でも、間に合ってよかった。あなたは僕を刺しましたけど、誰も殺していないんですから」
そう言うと、彼女はハッとしたように、冬眞を見て、本格的に泣く。
「君の父親の会社を切ったのは、私だ」
サングラスを外して、冷たい瞳で廉がそう言う。
「次からは来るなら、私に直接来なさい。来れるならな。私はいつでも待ってるよ」
暗に来れないと言っている。
そして、連行されようとしたが、彼女は全身で拒んだ。
「あなたが、どうして?」
「彼は従業員のことを考えず、いかに自分が遊ぶかしか、考えていなかったからだ。私が切ったと言うより、遅かれ早かれみんな取り引きを止めただろうね。君はそんな父親を諭(サト)す立場にあった。それを君は怠(オコタ)った。君にもこうなった非は有るんじゃないのかい? それを廉夏に向けるなんて、なんて愚(オロ)かなんだ。確かには君が失った立場にいるが、その座にいるために、廉夏は日々、努力しているよ」
「そんなこと、私は知らない」
女が叫ぶと、廉はクスリと笑った。
「だろうね。そう、君は知らない。でも、本当は知らなきゃいけなかったんだ。それを他人に諭(サト)される前に。だって、これは凄く恥ずかしいことだよ。これから、君には考える時間はたっぷりある。ゆっくり答えを見付けなさい」
廉が優しくそう言うと、彼女は大人しく警察に連行されていった。
その間、廉夏はオドオドしていた。
「結婚式より、早く病院に・・・」
「イヤだ」
「冬眞兄ちゃん、何、駄々を捏(コ)ねてるのよ? 子供じゃないんだから」
「子供で結構です。それに、そんなに深い傷じゃあ、ありませんよ。たぶん、あの人も初めから、廉花を殺す気はなかったんだと思いますよ。殺す気なら、刃渡りがもう少しいりますからね。こんなの唾つけておけば治ります」
そう言われ、廉夏が冬眞の腕を掴むと、舌を出す。
そして、廉夏が嘗めると、冬眞は、それにちょっと声を出す。
「……っ」
冬眞の口から小さなうめき声が漏れると、
「ほら痛いんじゃない?」
そう言って、廉夏は笑う。
「廉夏ちゃんが突然触るからびっくりしただけです」
面喰らったように、冬眞が言う。
「やせ我慢しちゃって、やぁねぇ」
そして、廉夏は冬眞の袖を捲(メク)ると嘗める。
「止めて下さい。汚いです」
「汚いものなんてあるか。ここにあるのはご馳走よ」
「廉夏ちゃん」
冬眞は、放心したように言う。
怪我を癒すように廉夏は丁寧に丁寧に嘗めた。
「ごめんなさい」
廉夏は涙を溢す。
それに、冬眞は驚く。
そして、冬眞は自分の思いを伝える。
「あなたが復讐されることを良しとするなら、僕はあなたを守る壁になります」
「まるで、ベルリンの壁みたいだね」
「ベルリンの壁は崩壊しましたが、僕は崩れませんよ」
「う~わ、強固な壁だね。でも、壁なんていらない。私は護られるだけなんて、良しとしないから。一緒に戦おう」
「はい」
集まっていた人達に向き直ると、はっきりした声で冬眞は言った。
「まだ、廉夏さんに危害を加えたいと思う人は、廉夏さんはこう言っていますが、僕が相手になります。廉夏さんに僕が危害を加えさせません。それでよければどうぞ。僕は廉夏さんを守ります」
冬眞がそう言った時、回りから拍手が起こった。
それに、面食らう冬眞だった。
「そろそろ、控え室に行きましょうか?」
少し恥ずかしそうに冬眞は、廉夏に言う。
廉夏もそれに頷く。
廉夏たちは、何事もなかったように、控え室へと行く。
遅れた原因がまさか、命を狙われたから、とは言えず気分がないと言い訳した。
それを聞いた、職員は慌てる。
「あら、大変。アレルギーとかってありますか?」
式場の人は焦ったように、廉夏に聞いた。
「いいえ、ありません」
「じゃあ、これどうぞ」
そう言って、 救急箱から薬を差し出す。
「ありがとうございます」
ニッコリ笑っては言って、飲むがそのあとが早かった。
廉夏は飲んだ薬を吐き出した。
そして、吐き出した薬をティッシュに包み、冬眞に渡す。
冬眞は、驚いていたが、素知らぬ顔で受け取るとタキシードのズボンのポケットに入れた。
「これを廉兄に渡して、すぐ分析を頼むように言ってくれる」
廉夏が小声で言うと、冬眞は小さく頷く。
廉夏は式場の人に言う。
「あっ、この薬良く効くみたい、ちょっと見せてもらえますか? 私、薬が効きにくい体質らしくて。でも、これ良く効くわ。これ買ってきてもらおう、と。身内に同じ薬買ってきてもらうので、買って来るまで借りてて良いですか?」
「どうぞ」
「有り難うございます。じゃあ、冬眞兄ちゃんこれお願いね」
ビンを冬眞に渡す。
冬眞はそれに首を一瞬傾げるが、廉夏のやろうとしていることに気付く。
廉夏は薬を買ってきてもらって毒が入ってたのと入れ換えようと思ったのだ。
何せ毒の入っているやつに何粒入っているか分からないのだから。
危険を取り除くには、ビンごと入れ換えるしかない。
「分かりました。ここらで一番近い薬局ってどこですか?」
「えっと、その薬なら、このホテルの売店に売っていると思います」
「本当ですか? 有り難うございます」
にっこり笑って冬眞に言う。
廉夏が凄い笑みを向けると、冬眞は苦笑いしながら、頷く。
「分かりました」
冬眞が出ていくと、式場の人は慌てながら、廉夏に着付けをする。
そして、慣れたもので、ドレスを着付けると、上から下まで舐めるようにして見る。
「オーケー」
そう言って、指をたてたとき、ノックされた。
職員が空けると、その対応で、誰だか分かる。
何故なら、従業員が甘い声なのだ。
「薬、有り難うございました」
そう、言って、冬眞は瓶を返す。
「いいえ。良いんですよ」
語尾にハートマークが見えたのは気のせいではないだろう。
「申し訳ありませんが、妻と少し話をさせてもらえませんか?」
「ええ、どうぞ。でも、奥さんを、あまり感動させないで下さい。もうメイクやり直す時間はありませんから」
「分かってます」
皆に目配せをして、従業員達は出て行く。それを見送った後、冬眞はドアを閉める。 ちょっと、廉夏は膨れる。
「お嬢様、失礼します」
そう言って、冬眞は膝まづいて頭を下げた。

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