青天の霹靂53(16進法4)
「じゃあ、取りあえず、私が先生の家の斜め下の喫茶店に行くから」
それだけ言うと、廉夏は切る。
返事も聞かずに、それに、冬眞は笑う。
「廉夏さんらしい」
クスクス笑う冬眞に中川が、「如何した?」と、聞くと、笑いながら、冬眞は言う。
「いえね。京極さんらしいなと思って。今から、そこの喫茶店に来るらしいですよ」
「今からか? まだ、8時にもなってないぞ。早いだろう?」
「それが、京極さんでしょう?」
「そうだな。そうかもな」
中川も納得する。
そして、笑う。
「じゃあ、俺たちも先に行って朝食にするか?」
「ええ」
廉夏を待つ間、二人は朝食を取ることにした。
そうしたら、廉夏が来る。
手を上げて、楽しそうに今にもスキップしそうな体制で来る廉夏に冬眞も中川も笑った。
「何?」
「いいや」
「なんでもありません」
中川が言い、冬眞が言う。
「そう、じゃあ良いわ」
不満気に廉夏は言う。
「ところで、如何する? 彼は中川先生を狙ってくるわよ」
「そうだな? でも、あいつの想いも分かるからな」
「だから、彼の想いを遂げさせてあげようって」
廉夏はバカにしたように言う。
「そう言うわけじゃないが」
「知ってる? 孔子はこうも言ってるの? 『巧言令色(こうげんれいしょく)鮮(すくな)し仁(じん)』ってね」
「どう言う意味だ?」
「えっとね、冬眞お願い」
「はい、えっと『他人に気に入られようとして、媚びへつらう態度をとる者は、そこには誠意と言うものは一切ない』だったでしょうか?」
「そうよ、それ」
「どう言うことだ?」
「今回の犯人にあげる言葉ね。彼は先生に気に入られたかったから、媚びへつらったけど、そこには誠意と言うものは一切ないわ。ただ、先生に気に入られたいだけよ」
「やはり、お前は女だな」
「どう言うこと?」
「男女の恋愛に対する想いの差だな」
「それって、どう言うことよ?」
廉夏の問いに、冬眞は言う。
「どちらかと言うと、恋愛を男は引きずるのに対し、女は切って捨てるでしょう?」
「そんな事無いもん。女だってひきづる人はいるもん」
必死に言う。
「それって、男女差別よ」
廉夏は冬眞に食ってかかる。
「そうですか?」
「そうよ」
廉夏は胸を張って言う。
「それは、知りませんでした。申し訳有りません」
と、口先だけの冬眞は、謝罪をする。
「さて、如何しましょうか?」
「俺に任せてくれないか?」
「先生が狙われているのに、何を言ってるんですか?」
「そうだが、そうさせたのは俺だ。あいつを止められるのは、俺だけだろう?」
「でも?」
廉夏は中川を必死に止めようとするが、冬眞は納得する。
「そうですね」
「何言っているの、冬眞?」
「廉夏さん、これは中川先生がご自分で決着つけたい事なんです。それに他人で有る私達がどうこう言える物じゃありません」
「そうかもだけど」
「廉夏さん、お辛いでしょうが、今回は堪えて下さい」
「悪いな」
「でも、付いては行くよ」
「廉夏さん」
「良いよ。来るだけな。でも、これだけは覚えて置いてくれ。俺はもう誰も犠牲を出したくない。だから、お前達は出てくるな。神崎、京極をお前が守れ」
「はい」
それを聞き、廉夏は少し考える。
「じゃあ、私達は二人を見守ります」
「頼むわ」
「それより、どうするの?」
廉夏が聞くと、中川は「それは、大丈夫」とわけの分からない返事を返した。
「あいつのいるところは、多分分かってる」
「えっ、どこ?」
「校舎裏だ。学生の時いつもそこで泣いてた。京極はいつもウサギ小屋の前だったな」
「私のことはいいです」
顔を真っ赤にして、廉夏は怒る。
でも、その後、褒める。
「生徒のことをきちんと覚えてる先生なんて、そういません。その点で先生は他の先生より、生徒に近いですよ」
「多分、あいつはそこにいる。俺にいや、たぶん来て欲しいんだ」
「じゃあ、早速行きましょう」
早速、向かった校舎裏には、先生の予想通り鮎川がいた。
中川は、何でもない事のように話し出した。
「久しぶりだな? 元気にしてたか拓也?」
「まだその名で呼んでくれるんですね」
そう言って泣き出す。
「当たり前だ。卒業しても、俺の生徒には変わらない」
「僕は卒業した時点で、もう生徒じゃないと思っていました」
「そんなバカな事あるか? でも、お前は償わなきゃいけない。その道はすごく険しいだろう。でも、お前ならそれを乗り越え、必ず、大輪の花を咲かせてくれると信じてる。知っているか孔子はこうも言っている。『鍛えて得た能力は、生まれ持った能力よりも優れている。組織に貢献してくれるのは「優秀な者」よりも「能力は並の上だが、忠実な者」の方だ』ってね」 それを聞き、拓也は、泣き出す。
「ごめんなさい。こんな事する気はなかったんです。でも、彼女に殺すよう頼まれて。何が何だか分からなくなっちゃって」
「精神鑑定を要請しましょう」と、冬眞は言った。
「精神鑑定? 彼がおかしいって事?」
「おかしいと言う訳じゃなく。たぶん、鑑定結果彼は、罪には問われないでしょうね。精神薄弱と認定されるはずです」
「精神薄弱?」
「ええ、彼を見ていると、精神薄弱となるはずです」
「精神薄弱か?」
「その判定に不満ですか?」
冬眞は聞き、廉夏は不満そうに言う。
「ええ、だって、優香のことを考えると、それだけで、終わっちゃうなんて」
「終わりませんよ。これから彼は自分の犯した過ちを知ることになるでしょう? 罪に罰を与えられないことに苦悩するでしょう? それで良いのではないですか? それに、彼は殺してくれるよう頼まれた見たいですし」
冬眞は言う。
冬眞は日向に携帯で、電話する。
犯人が自首したい旨を伝える。
「事件性にもうなってるから、自首しても、もう出頭扱いで、刑は軽くはならんぞ」
「それで、良いの。本人が償いたいと言ってるから」
それに、日向は驚いていたが分かったと来る。が、自家用車だった。
それに廉夏は文句を言う。
「何でパトカーじゃあないの」
それに、廉夏は呆れる。
「それは、学校側に悪いからな。それに、自首を彼は望んでるんだろう」
「そうかもしれないけど、彼には自分の犯した罪を教えるためにも警察車両の方が良かったのに」
「そうかもだが、彼が自首するってことは己れの罪を理解しているってことだろう。もう、知らしめる必要はないんじゃないか? それに、自首を臨むなら、自家用車の方が警察への説明が楽だ。警察車両だと、自首だと説明しずらい」
「そうかぁ」
廉夏も納得する。
「で、すいません。日向さん、彼に精神鑑定を」
冬眞が要請する。
「ああ、精神薄弱な」
日向は見ただけで、直感する。
だから、日向には理由が分からなかった。
「でも、なぜ?」
「彼女が死にたいと言ったからだそうです」
冬眞が言う。
「つまり、願いを叶えたわけだ」
「そう言うことになりますね」
「そうなると、完璧な被害者とは言えないな」
「ええ。そうなります。けど、もう亡くなっていますから、その証明が出来ません」
「なんか、そう考えると、彼が一番の被害者かもな?」
「そうなりますけど、なぜ彼女がそんな死にたがったのか、僕には理由が分かりません」
「俺も分からん。彼女が遺書とか残してくれてれば、分かるんだけどな」
「遺書か?」
廉夏が何かに思い当たる。
「もしかして?」
「どうした? 嬢ちゃん」
「16進法よ」
「何だ、それは?」
「南の残した4dfよ」
「ああ、あれか?」
「4dfを数字に直すと、1247になるわ。スマホのロックキーじゃないかしら?」
「直ぐ調べてもらおう」
そう言って、日向はスマホで、電話する。
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