宇宙軍4(拷問)

それから、3日間主:小早川と輝は、姿を見せなかった。
冬真逹は、その間やきもきさせられた。
その頃、輝と小早川は地下室で男と向き合っていた。
向き合うと言っても、男はだいぶ痛めつけられ、天井から鎖で繋がれていた。
「ねぇ、君って誰の命でここに来たの? 言いなよ」
小早川は優しい顔をして聞く。
「どうして、君たちは奪うことしか考えないかな?」
「もう、時間がないんだ。我々には。餓死する者も出ている」
「だから、星を奪うって? なぜ人様のものを奪うことしか、君らは、考えないの? なぜ時間は掛かるが土地を太らせようとは思わないのかい?」
「どうやって?」
「家畜の糞や生ごみを混ぜ1年ぐらいほっとけば、使える土地になるだろう」
「我々には、そんな、時間はない。今、どうにかしないと」
「けど、星を探す時間はあるんだね。その時間に土地を太らせれば良いのに。なぜ、君たちは人から奪うことしか考えないかな?」
「目の前に土地があれば」
「うん、そこに誰も住んでいなければ、それも良いかも知れないね。でも、いつも奪っていたら、そのうち痩せ細った土地ばかりになるよ。なぜ、自分の土地を捨てられるか、私には分からないな」
本当に分からないらしく、小早川は男に聞いた。
「だから、お前らには、分からないんだ」
「そうだね。自分の星を捨てられるんだもんね。私には分からないかな? 輝分かる」
「俺は星を持ってないから、分からない」
「そうだよな。だから、星を変えたいって気持ちも分かるだろう?」
ペッと小早川に唾を吐き掛ける。
小早川は頬にかかったそれを左手で拭う。で、笑顔で輝は言う。
「あ~あ、怒らせちゃった。俺、知らねぇ」
輝はそっぽを向く。
「私もお返ししなきゃ悪いよね」
そう言って、右手に持っていた鞭を振り下ろす。
「ちょっと、待て」
小早川は綺麗な笑みでこう言った。
「もう遅いよ。残念でした」
鋭い音がし、男の肌が裂ける。
「うわぁ~」
傷みに悲鳴を上げる。
「ねぇ、君は誰に向かって、そんな態度取っているのかな? 分かって取らなきゃ」
薄い笑みを浮かべて、小早川が聞く。
「ただの小惑星が好きな変態さんだろ? どうせ」
輝が言うと、
「失敬な。私は侯爵家の次男坊小早川卓也だぞ。それを知っての狼藉か?」
「まぁ、知らないだろうけどな」
と、またまた笑いながら輝が言う。
「侯爵?」
言われた男は愕然(ガクゼン)とする。
「どうやらそこまでは掴んでなかったらしいな。じゃあ、何を掴みに来たんだろうね?」
「さぁな、私には分からん。そんなこと、どうでもいいよ」
小早川は面倒臭そうに言う。
「どうして、侯爵の人間がこんなとこにいるんだよ!」
「だから、俺が言ってるじゃん。ただの惑星好きの変態さんだって」
「ちょっと、輝黙ってて」
「何だよ。本当のことだろう? 犯人さん、正直に言った方が良い。こいつはいたぶるのが好きだから」
そう言っても、男は言葉を変えなかった。
「誰の命でもない」
「ふ~ん、まだ言うんだ」
小早川が鞭を振り上げ、また、甲高い音が辺りに響く。
それも、1回じゃない。
何度も。
男の肌から、血が吹き出す。口から滴るのを合図にするかのように、小早川は鞭を止めた。輝は笑顔で言う。
「これでわかったろう?」
小早川が再度聞く。
「誰の命?」
「誰の命でもねぇよ」
頑なに言わない。
「ふ~ん、じゃあもういいや。生きていられると、面倒だから、ここで死んで」
にっこり笑いいつの間にか持っていた剣で、小早川が男の腹を刺そうとしたとき、それを止める手があった。
それは、誰であろう輝だった。
「何だ?」
不機嫌そうに小早川は聞く。
「そう言うことは、私の役目だ。お前は見張り、俺が制裁を下す。領分を間違えるな。ここから先は俺の仕事だ。勝手に踏み込まないでもらおうか?」
そう言われ、小早川はハッとする。
「そうだったな。あとは任せた」
「了解した」
そう言って、腰のサーベルを輝は抜く。
男にはそのサーベルが綺麗に見えた。
そして、弧を描くようにサーベルが男を貫く。
たぶん、男は刺さったことにも気付かなかったんではないか?
「こんなものか?」
サーベルに付いた血を払うように振ると、鞘に戻す。
「やはり、欲しいな。輝」
「それは、止めてくれ」
輝の苦り切った顔を見て、小早川は笑う。
そして、仲間の元へと戻る。
「艦長」
泣きそうな面で冬眞は掛け寄って来る。
「なんだ泣くのか?」
「泣きませんよ。ちょっと、顔を洗って来ます」
そう言って、照れたように冬眞が部屋から出て行くと、碇副艦長が言う。
「殺りましたね」
「冬眞君がいなくなった時に聞いてくれて助かった。碇、どうしてわかった?」
輝が聞くと、碇はハンカチをだし輝の首の横を拭く。
そして、それを輝に見せる。
そこには、返り血が付いていた。
それに、輝は苦い顔をする。
「不味ったなぁ」
「今度から、隠したいなら、まず鏡を見てから顔を出して下さい。じゃなきゃ、冬眞君が心配します」
「そう言うと、まるで、お前は心配してないみたいだな?」
「そう聞こえましたか?」
どうやら、碇は怒っているらしい。
「そう聞こえたなら、そうなんでしょうね。理由は艦長なら分かるんじゃありませんか?」
綺麗な笑みで碇は言う。
「ああ」
碇の怒りの原因が分かっている輝は謝る。
「悪かったよ」
碇を入れずに決着を付けたことを怒ってるのだ。
碇の肩に輝は頭を乗っけると、ため息をつく。
「ちょっと、疲れたよ」
「お疲れ様です、輝」
まるで、保護者のように碇が言う。
そう輝にとっては、碇は兄のような存在だ。
「ずっと、お前は影ながら俺を見守ってくれるよな」
「私で宜しければ、ずっと何時何時(イツイツ)までも見守りましょう」
「宜しく頼むわ。俺もだいぶヤキが回ってきたな。たかが、一人殺るのにこんなに疲れるなんて」
「あなたは優しすぎる」
「優しすぎるか? そうかね」
その時、小早川が言う。
「二人で世界を作らないでもらおうか? 少し邪魔するよ」
「小早川さん、妬いてますか?」
碇は苦笑いで、どうぞと言う。
「ちょっとね。狡いな。碇君は。僕も輝にそこまで頼られたいな。なんか、秘策あるのか?」
「残念ながら、何もありませんよ。それより、何か聞けましたか?」
「ああ、なかなか、吐かず、手こずらされたけどね。何も聞き出せなきゃ、今こうしていないさ。お前の主もな」
ニヤリと小早川は笑って輝を見る。
「なぁ?」
「ああ、そこは、相手を褒めてあげたいね。彼は最後の最後まで言わなかったよ。死ぬまでね。それを持って行ったよ」
「凄いですね。主に忠誠を誓ってた訳だ。そう言う者に私もなりたいな」
「お前は輝に忠誠を違っているだろう?」
「そんなに、深い忠誠を誓う者がいるなんて、敵ながら天晴れですね」
碇が心酔しきったように言う。
「だから、お前にもいるだろう? って」
それにNoと言ったのは、意外にも輝だった。
「碇の場合、少し違うと思うぞ」
「どう?」
「内緒だ」
そう言って。唇の前でシーっとポーズする。
「面倒臭い奴ら」
「そうでもないぞ。なぁ?」
輝は笑いながら碇に聞く。
「そうですね。忠誠を捧げているわけではないけど、私は輝の保護者ですから、輝を傷付ける者は例え、小早川さんと言えど、許しませんから、お覚悟を」
ニンマリ笑う碇。それを見て輝はげんなりする。
「やっぱり忠誠を誓っていると言う方がかっこいいな。それに、それだと俺は護られているだけの情けない奴じゃないか?」
「そうですか? で、結局、お二人は何も聞けなかった訳ですよね? それで、お二人は何が分かったんです?」
「何も言わなかったことが答えだよな、小早川」
輝はニッコリ笑う。
「ああ、雄弁に語ってるな」
「つまり、どういうことですか?」
「言わないことが言ってるんだ」
「何を?」
「誰かが我らの星を狙っているってことだよ」
「でもその黒幕は、分からないままですよね。何か他に情報は無いんですか?」
「無いな」
そこに冬眞が戻って来る。
「おう、冬眞君。もう、大丈夫かい?」
笑って輝が聞くと赤くなりながら、
「もう平気です。すみませんでした。で、あの人は?」
「もう解放したよ。もうこの星に近付かないよう、約束させてね」
小早川が間髪入れずに言う。けして、殺したとは言わない。
それで冬眞も納得する。小早川は輝のために、本当のことは言わなかった。
「そうですか? 良かったかな」
「ふふふ。相変わらず冬眞は優しいね」
「別に優しい訳じゃありません。ただ、疑わしきは罰せよと言って、罰してたら殺し合いは終わりません」
「確かにな」
それは綺麗事だと、輝は言いたかった。
「それより、いい加減俺の前ではそんな方苦しくするなよ」
そういって、主が輝の帽子を取り、サングラスを取り、前髪を崩す。
「何をする?」
前髪を崩された輝は帽子を取り返すと、慌てて被る。
「俺の前ではガチガチにすんなよ。いつも、言っているだろう? 俺はお前に惚れているんだ」
その言葉に冬眞は驚く。
「それ辞めろ。冬眞君がひいているじゃないか?」
「えっ、ホモ」
「君、死にたいらしいね」
にっこり笑い、引きつり気味に小早川は言う。
「私のどこがホモだ」
そして、何の自慢にもならないのに、自慢げに言う。
「私は女が好きだ」
「艦長って、男性ですよね?」
その問いに、輝が怒る。
「俺のどこが女だ。お前には、俺が女に見えるのか?」
それに、冬眞が小さくなる。
「すいません。艦長は男の中の男です」
「そこまで言うと、逆に嘘臭いな」
二人のやり取りに、小早川は笑う。
「君は見たことあるか? こいつの正装した姿は惚れること間違いないよ」
「それ辞めれ、そう思うのは、お前だけだ」
「冬眞君、君の艦長はかっこ良くないかい?」
「ええ」
「だろう? 男でも女であっても、モテるはずだ。君の艦長は顔が良い。なのに、何故か君の艦長は正装をするとき、まるで回りを威嚇するかのようにガチガチにする」
冬眞もずっと、不思議に思っていたことを言ってくれる。
「何でだろうね?」
「別に良いだろう?」
別段、顔の造形が悪いわけでもない、いやどちらかと言えば良すぎるぐらいだ。だから、なぜ隊長が正装を嫌がるのか。分からなかった。冬眞からすれば、何てもったいないだった。
「お前は、何で正装を嫌がる?」
「動きにくく、咄嗟の時に対応出来なければ、自分がいる意味ないし」
帽子を外し、髪を掻き上げる。
「いる意味って、どういうことだ?」
「さぁな」
そう言って輝はニッコリ笑う。
それの真の意味が分かったのは、もう少し先のこと。

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