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フレンチトースト・コネクション
一度気に入ると飽きるまで、毎日でも同じものを食べる傾向がある。
しばらくそういう対象に巡り会わなかったが、5月のゴールデンウイークに息子の住まいに泊めてもらい、朝食に出されたフレンチトーストを食してからは、ほぼ毎日そればかり食べている。
1か月半経つ現在まですでに40食以上、朝食はフレンチトーストばかりになっている。不思議と、今のところ飽きない。
これまでの経験からしてある日を境に、急に食べたくなくなるはずだが。
いろいろ工夫して、現在の作り方に落ち着いた。
まず、食パン(6枚切り)二枚をそれぞれ4分の1にカットする。そのままだと皿からはみ出すのであらかじめ細分化して、ふやかしてから並べるとき、互いをギューッと圧縮しやすくするのだ。
フラットで少し深めの皿に、卵2個・牛乳適量・砂糖大さじ3杯・バニラエッセンスを10振りほどよく混ぜて、パンをその中に敷き詰める。
パンはぱさぱさの、一番安価なタイプがいい。
下手に柔らかいのや薫りがついているお高めのパンだと、それ自体が味や食感を主張して馴染まず、仕上がりが美味くならない。
表を1分、ひっくり返して1分、500wのレンジにかける。この下処理をすることで、時間を置くことなく全体に味が染みる。
フライパンにバターを敷き、チンしたパンを均等に敷く。蓋をして焦げ具合を調整しながら、表裏5分ずつ加熱する。
最後に皿に盛り、メープルシロップをかけて出来上がり。
自家焙煎のコーヒーとサラダを添え、割と手間ひまかけた朝食、というよりブランチを摂っている。
逆にそれ以外だと、食べたいものが思いつかず献立に困る。
それなら食わなきゃよかろうに、時間になるときっちり腹がグ~ッと鳴るもんだから、始末に負えない。
体重も落とした方がいいし、この際食わずに頑張ってみようか思ったりしても、そのうち目まいなどして慌ててありあわせを口に入れたりする。
毎日何かしらの用で車を運転するので、事故でも起こしちゃまずいのだ。
もしも事故って理由を問われ、「腹が減って目まいがしました」なんて答弁じゃ、さすがにみっともなかろうし。
思うに最初に物欲が落ちていき、加齢と共に性欲、食欲と失せていくのは、限りある生の”終わり”に向かっていくということなのか。
物事への執着が薄れているのは、如実に感じる。
いまのプロジェクトで事務局長という立場にあり、目的実現のため日々活動している。それなりに毎日が充実していて楽しいし、自分の思い付き(妄想?)が意外と現実になっていく部分もあって、やりがいを感じる。
実現すれば地域に貢献ができるし、何よりまだ年金に頼らず、自分を食わせるネタになる。
それが今のところ生きがいになっているのは間違いないが、なにがなんでもモノにしようという、熱い思いや執着までは実感出来なくなっている。
これは明確に、「老い」の顕れだろう。
20代ならあった制御不能なほどの内なる欲求やこだわりはほぼ霧消し、ダメでもともとという淡々とした気分になっている。
まだそれは、達観と言えるほどの澄んだ境地まで至ってはいないが、”終わり”に向かうほどその地平に近づけるなら、ありがたい事と思っている。
体力気力の衰えと共に、余分な荷物も降ろしていくのが進むにもラクだ。
フレンチトーストに飽きた時、次に巡り会うものはなんだろう。
その機会は二度と訪れないかもしれないし、かつて愛したものがリバイバルのごとく嗜好品として戻ってくるかもしれない。予測不能なささやかな未来を、楽しみにしている。
最後にぜんぜん関係ない話だけど、『フレンチ・コネクション』の音楽担当ってドン・エリスなのか。大好きな映画で何度も観てるのに、音楽まで全然気が回らずにいた。
このサントラ、めちゃカッコいいぞ。映画音楽というより、単独で聴いて極めてレベルの高い、ちょっと前衛的がかったオーケストラ作品だ。たしか録画したブルーレイがあったっけ。あとで観ようっと。
こういう楽しみがあるうちはまだ、生きてる甲斐もあるってもんだ。
イラスト hanami🛸|ω・)و