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現場の自衛官が見た不思議体験(その3 音の秘密)

 「ドカン、ガラガラ!」

 「うわッ!」

 突然の大きな音で、私は飛び起きた!

 電気をつけ、あたりを見回したが、何かが倒れた様すはない。

 何かスチール製のロッカーでも倒れたような音だった。

 「あッー!」その時、私の脳裏にある出来事が思い浮かび、戦慄が走った。

 今から13〜14年くらい前。

 当時私は、第102特殊武器防護隊の副隊長をしていた。

 その頃は、仕事も忙しく、家にはあまり帰らず、部隊で寝泊まりすることが多かった。

 簡易ベッドを使い、作戦室(普段は物置のように、ゴチャゴチャと物が置かれていた。)で一人で寝た。


 話はそこから更に20年ほどさかのぼる。

 私の居るこの隊舎は総合隊舎と呼ばれ。駐屯地に所在する6〜7個の部隊の営内者(駐屯地内で生活している隊員のこと)が居住する隊舎となっていた。

 この隊舎では、ある時期に自殺者が三年連続、3人続いたことがあった。

 自殺の動機は様々だが、さすがに続きすぎる。

 駐屯地としても、何かしらの手を打つこととなったのだが…。

 数日後、私が隊舎を見ると、神主がお祓いをしているのが見えた。非科学的だが、効果はあるのだろうか?

 話を元に戻そう。

 その3人の自殺者の中で、最初の1人がS君だった。

 彼は、私の1期後輩にあたる。

 うつ病を患っており、病院を出たり入ったりを繰り返す状態で日々過ごしていた。

 しかし彼は、私と話す時はとても明るく、冗談も口にするほど元気だった。

 そしてある日突然、総合隊舎の屋上から飛び降りてしまったのだ。

 けたたましいサイレンを鳴らし、アンビアンス(救急車)が走ってゆく。

 しかし、彼の命が助かることはなかった。


 数日後、当直幹部であった小隊長から、私は呼び出された。

 「宮澤、ちょっと手伝ってくれ」

 大きなロッカーを洗い場まで二人で運んだ。

 「ドカン、ガラガラ!」

私 「これを洗うんですか?」

小隊長「そうだ、Sのロッカーだ」「次使う奴が、あまり気持ちのいいもんじゃねえだろ」

私 「はい」

小隊長「さっ、洗うぞ」

 私は複雑な気持ちでS君のロッカーを洗った時の、当時の記憶がよみがえった。


 「ドカン、ガラガラ!」

 「こ、これは、あの時の音だ!」

 それにこの部屋は、今でこそ作戦室になっているが。当時は、S君が居た部屋だった。

 その数ヶ月後、あの東日本大震災が起こり。私は、原子力災害派遣へと出動することとなる。

 今思えば、あの時私に、何か伝えたいことがあったのではないか。
    
 何かを知らせたかったのではないか。

 今でも、そんな気がしてならないのだ。


著 者  宮澤重夫

 平成30年に陸上自衛隊化学学校
化学教導隊副隊長を最後に退官
 現役時代に体験した、地下鉄サリン事件や福島第1原発事故対処等の経験談を執筆中

主な資格等
防 災 士
第2種放射線取扱主任者
JKC愛犬検定最上級

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