スキポール空港ー行動経済学ナッジ理論検証の地
2024年9月22日 朝7時12分 スキポール空港にて、フライトの時間を待っている。
ふと、スキポール空港は、食品安全文化醸成のための手法として取り上げられることが多いナッジ理論が検証された場所だったことを思い出した。
ナッジ理論とは、2002年にノーベル経済学賞を取った行動経済学者Richard Thaler教授の提唱する理論で、「如何に小さな刺激が我々の行動を変容させるか」を説いたものである。
ナッジ理論の検証例の中で、最もよく知られている例が、1999年アムステルダムのスキポール空港で行われた男子トイレでの実験である。公共トイレの汚れ対策というのは、昔からの課題であるが、それを独創的な簡単な「介入」によって 80% の清掃費の削減が実現した。
スキポール空港で初めて導入されたこのアイデアは単純だった。小便器にハエの絵を刻み込むと、男性は狙いを定めずにはいられなくなり、清掃コストが節約され、不快感も軽減されるというものだった。
絵付けされた磁器は、環境を微調整することによって私たちの行動を変える方法として、セイラー教授の初期のお気に入りの例の 1 つだったという。
四半世紀たった2024年現在も、スキポール空港でこの方法がとられているかどうかは、女性である私には確認できなかった(笑)。
ところで、話は変わるが、ヨーロッパに来て認識したのだが、Booking.Comとか、航空会社との予約変更等のやりとりは、ほぼ全てネット上のチャットで行い、チャットで完結する仕組みが定着しているようだ。
日本も、一部、問い合わせに対して、AIによる自動回答とかを採用している企業もあるかと思うが、AIではなく、生身の人間とのやりとりをチャットでするという形かと思う。(日本でも、私の知らないうちに普及している??)
先日、チャットでフライトの予約変更依頼をしていて、オペレーター(「エージェント」という言い方をしていたが)が予約変更をしてくれているのを待っている間に、会社の人と話をしていたら、間違ってネットワークから外れてしまったようだった。オペレーターは、一定時間、こちらからの返事がないと、チャットを切るようで、戻ってみたら、会話を強制終了させられていた。
それまでの会話は、最後の変更確認のみというところまで進んでいたので「ショック!」と思いながら、新しく、変更依頼のチャットを始めたところ、前のチャットの中では無料で変更可能だったのが、「一旦確保していた席は売り切れた」ということで、「追加料金がいる」とのことだった。チャットを甘くみていけない(笑)と反省した。
昨日も、本日のフライトのチェックインをオンラインでしようとしたところ、Errorが出たため、また、Air Franceにチャットでの問い合わせを始めた。
結果、Air France便は、30時間前までしかオンライン・チェックインができないとのこと。「Booking.Comから、24時間前に、オンライン・チェックインを促すメールが来ましたけど・・・??」と思ったが、まぁ、しょうがない。次回の教訓としよう。
オンラインでのチャットは、ほぼ必ず、その後、サービスの質のアンケートがあるので、「他に何か御用はありますか?」といった質問が最後にくる。
「明日、何時に空港に行こうかなぁ〜?」と迷っていたため、聞いてみたら、「国際線なので、3時間前に」って、一昔前の答えが返ってきた。イミグレもないのに、3時間はいらないでしょ?って思ったが、早く目が覚めたし、その言葉につられて、3時間前に到着した。
今回は、滞在しているホテルから、バスを乗り継いで空港に向かった。やはり近いので早く着いたが、バスに乗っている時間より、バス停まで歩いていく時間の方が長かった。
・・・ということで、説明が長くなったが、「なぜスキポール空港で長時間過ごしているか」の背景の説明であった。(必要なかった? まぁ、現地生活ネタでの“ブレイク“ということで。)
早々にチェックインを済ませ、例によって朝食を食べながら、このNoteを書いていた。その時、LinkedInの通知があったので少し見ていたら、Frank Yiannasが、Quality Assurance & Food Safetyの自身のインタビュー記事をShareし、コメントしているものがポストされていた。
そのなかで、とても興味深いインタビュー記事があった。
<インタビュー記事>ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
QA: When was sort of the “aha” moment for you on food safety culture?
FY: My “aha” moment came to me many years ago when I was asked to lead, in addition to food safety, occupational safety and health at the Walt Disney Co.
As I learned more about the occupational safety and health profession, it became clear to me that as a profession, they were already considering the role of organizational culture and human behavior in workplace-related injuries. In other words, one could design safe workplaces, provide employees with the right personal protective equipment and appropriate training and develop standard operating procedures, but occupational injuries could still occur. Why? Because the attitudes, beliefs and social norms related to safety in an organization of any size often influence the behaviors of others.
It was that experience that caused me to start drawing from some of those same organizational culture and behavioral science principles and incorporating them into how I approached food safety. And it worked. Suddenly, by striving to build a food safety culture — not just a food safety program — I started to achieve better results.
And it was that experience that motivated me to write the first book on the topic in our field, “Food Safety Culture: Creating a Behavior-Based Food Safety Management System.”
<上記・インタビュー記事の翻訳>
QA: 食品安全文化に関してあなたにとって「なるほど」と思ったのはいつですか?
FY: 私が「なるほど」と思ったのは何年も前、ウォルト・ディズニー・カンパニーで食品安全に加えて、労働安全衛生をリードするよう頼まれたときでした。
労働安全衛生の専門家についてさらに学ぶにつれて、彼らは専門職として、労働災害における組織文化と人間の行動の役割をすでに考慮していることが明らかになりました。言い換えれば、安全な職場を設計し、従業員に適切なPPE(個人用保護具)と適切なトレーニングを提供し、標準的な作業手順を開発することはできても、依然として労働災害が発生する可能性があります。なぜなら、組織の規模を問わず、安全に関する態度、信念、社会的規範が他の人の行動に影響を与えることが多いからです。
その経験が、私が同じ組織文化と行動科学の原則の一部を参考にして、食品安全への取り組み方にそれらを組み込むきっかけとなったのです。そしてそれはうまくいきました。突然、単なる食品安全プログラムではなく、食品安全文化の構築に努めることで、より良い結果を達成できるようになりました。
そしてその経験が、私がこの分野のテーマに関する最初の本『食品安全文化: 行動に基づいた食品安全マネジメントシステムの構築』を執筆する動機となったのです。
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このFrankのコメントは、私にとっても、“aha” moment(=なるほど!)の機会であり、また、とてもタイムリーな話題でもあった。
私もFrankと同じように労働安全衛生のリードを任されて、その分野での安全文化理論が先行しており、それを食品安全文化醸成の参考にすべきと考えているからだ。
Frankが著書のなかで、1986年に発生したスペースシャトル・チャレンジャーの事故のことを引用していたのは知っていたが、ディズニーでのこのような業務経験があったことは知らなかった。
“aha”!!
また、その情報はタイムリーでもあった。先日9月11日、GFSIジャパンのナレッジ・シェアリング・イベントがオンラインで行われ、キリンビール株式会社北海道千歳工場の食品安全文化醸成の取り組みが発表され、私もイベントにオンラインで参加し拝聴した。
キリンビールさんのご発表のなかで、私自身も昨年のGFSIフード・セーフティ・デーで紹介した、労働安全衛生分野のブラッドリー・カーブを利用した取り組み、それも、組織の実情に即した、とても具体的な取り組みに落とし込まれていることが報告された。
私自身、前職でこれらの概念をもとにトップダウンの動きはとっていたが、ボトムアップの取り組みに持って行くことが任期中に叶わなかったため、たとえば、トップダウンで、“セーフティ・ウォーク“といったマネジャーによる“ウォークアラウンド“とか、「一般的に良い」と言われている手法を取り入れることはできたが、組織にあった対応策というのは見出せないでいた。
キリンビール千歳工場さんは、それを形にされていて、「素晴らしい!」と、とても感動した。
“aha”!!
そして、今日、この記事を読んで、「Frankも同じように悩み、考え、そこに行き着いたんだ。」と知り、皆、現場で食品安全マネジメントシステム導入し、食品事故を起こさない組織にしようと悩み、考えている人々は、同じように考えるんだなぁ〜と感慨深かった。
Frankは、GFSIの承認プログラムによるサプライヤー管理や、食品安全文化を提唱・推進したことが評価され、FDA副長官になったわけで、現場を良く知り、現場の「人」を動かすことの重要性は、行政でも、認識されており、食品安全マネジメントシステム、そして、食品安全文化がない限り、食品安全は達成できないということが認知されているということの表れなのだろう。
また、このインタビュー記事の中では、Frankの「食品安全文化論は、微生物学といった自然科学とはアプローチが異なるため誤解を受けやすいが、食品安全実現のために必要な科学である」といった立場からのコメントもあり、興味深い。
また、記事のなかで、インタビューアーは、EU規則に食品安全文化が入ったことも話題にしていたこともあり、2021年に発行された同マガジンの記事(「なぜEUは食品安全文化を法制化したのか」)も参照されている。
そのなかでは、法制化に関する関係者のコメントが記載されており、どのような考えのもと法制化されたのが簡潔にわかる。
来月、イギリスに出張予定があり、ある意味「食品安全文化」の本場の一つであるイギリスにて、これらの情報収集できることも楽しみに思っている。