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ミュージカル CROSS ROAD 感想

4月22日よりシアタークリエで公演中の「ミュージカル CROSS ROAD ~奇跡のヴァイオリニスト パガニーニ~」を観劇しました。以下はその感想です。

私は中川晃教さんのファンなので、あっきーにまつわることだけで文字数を占めそうなので今回は敢えて物語全体の感想に努め、あっきーの凄さはまた別の回でまとめようかと思います。

(はじまり)
2022年の初演の際も、反響が大きく感想や考察を挙げられている方の文章に目を通すのが楽しくて仕方ありませんでした。今回の再演でも熱の込もったレポやつぶやきがたくさん有り、あらすじもわかりやすくまとめている方の記事やブログが複数上がっています。よって、まとめが苦手な私はそのあたりは割愛で…。これから観られる方にはネタバレがありますのでご注意下さい。

初演は、開演前から森の奥の十字路にいるように舞台からスモークはたかれ、音楽が流れていたような…。6月の外気の湿度と暗闇感がマッチして、雨上がりの夜道の十字路に入り込み、まるで異次元に迷い込んだ感じの演出がとても好きでした。

そのため今回の物語の始まりの演出は、劇場内が暗くなり、稲妻の光と周囲を轟かす雷鳴で一気に観客を引き込むものだったので油断して派手にビクッとしてしまいました。あー恥ずかし。

(考察)
で、いきなり結論ですが、この物語の主題について超個人的解釈で次のように受け取りました。

①人の心の光と闇について

②人が時々で対峙する様々な愛の形

③上記2点を表現するためのハイレベルな表現力(宗教的モチーフを取り入れたシナリオと演出。パガニーニや登場人物たちの造形。歌と踊り、舞台や照明における中世の世界観を彷彿とさせる細部にまで美しき表現の数々)

3つ、思い付いたワードを挙げてみましたが、残念ながら、それぞれを詳細に分析、考察できる能力が私には無い。何たることか、国語力の無さを痛感。それでも、私なりに①〜③をもう少し具体的に書いてみようと思います。

①人の光と闇について
誰もが有する心の隙間に悪魔はそっと入り込み、心の闇を拡げてゆく。登場する人物それぞれに心に隙間をさす瞬間がある。そのとき、隙間に潜む悪魔とどのように対峙するか人は真価を問われる。助けや支えとなる人間や価値の有無により十字路で止まるか駆け抜けるかの違いが生まれる。

パガニーニは、命と引き換えに天才を手に入れた。天才を求めて止まない欲望の影には、息子の才能をひたすらに信じる母が常にいた。

母、テレーザは全身全霊、息子に捧げる疑いようの無い愛情で溢れているが、その愛の深さ故、パガニーニを過剰に悩ますことになったのではないかと思った。「パガニーニは大丈夫、私の息子だから。」私も心当たりのある母親のスーパーパワーワードである。そりゃあ、アムデュスキアスでも太刀打ちできないだろう。母親は子供を同一視するもので、何故ならお腹の中では一体であり、自分がお腹を痛めて生んだ子はまさに自分そのもの分身だ。それ故、ギャンブルと酒に溺れる夫の代わりに懸命に家庭を支えるテレーザにとり、パガニーニは希望そのものだった。母の光が強いほどその影は濃く、子供を呑み込みかねない。美しいけど怖い。春野寿美礼さんの子を想う母の歌心があまりに美しすぎて…。こんなふうに感じるのは私だけだろうか。

このように人は光と闇と表裏一体の存在であり、僅かな出入力差(物事の解釈や出来事の巡り合せ)でいかようにも変化しかねない脆い存在である。また、悪魔アムデュスキアスも然りであり、天使から悪魔に堕ちたことを示す歌が途中に入ることで、アムデュスキアスが過去纏っていたはずの光を見せ、現在の孤独の闇を芸術音楽だけが癒やしてくれることを伺わしている。

②人が時々で対峙する様々な愛の形
この物語は、人と人には様々な心のつながりや愛の形があることを教えてくれている。テレーザの母の愛、執事アルマンドの父性的な愛。

アルマンド演ずる畠中洋さんは、執事としてただそこにいる、という愛の形をよく表現されていたと思う。「ただそこに在る」という、キリスト教的な神性を感じる。そう思うのは、多分、昨年7月、私が韓国発のミュージカル「DEVIL漬け」だったせいに違いない。同じくキリスト教のモチーフを扱った作品なのでつい置き換えて見てしまう。そういえば、悪魔、BLACKはどちらもむやみやたらにちょこまか動いてた。そしてWHITEは動かない、ただそこにいるのみ。神と悪魔の造形に共通するものを感じる。

また、サカケンさん演じるベルリオーネという人物が初演以上に強く印象に残った。サカケンさんの抑制的な演技から、ベルリオーネの誠実さや人を思いやる気持ちが伝わってきた。そして、最後にその心に応答するパガニーニ。私はここにグッと来てしまった。コスタ先生と一人二役にしているのは、「俗と聖」という相反する概念を一人の役者が示すことにあるのかなと思った。

その他、血の契約後のパガニーニとアムデュスキアスとの酒場での「悪い仲間感」も見ていて楽しかった。だからこそパガニーニの最期、労をねぎらうように、語りかけるように歌うアムデュスキアスを切なく感じた。初演には確か無かったシーンなので大変、印象に残った。このような歪過ぎる愛の形というのは到底受け入れ難いものであるが、この世には確かに存在するのかもしれない。

③これらの主題を効果的に、余すことなく観客へ伝えるための高い技術や芸術性と仕掛け

そして当然にキャストの皆さんの卓越した歌唱力、演技力が前提に無ければ、これらが観客に伝わり切ることが無いのは言うまでもない。そして、劇中にたくさんに散りばめられた暗喩が観客それぞれの感性に刺さるような仕掛けになっている。それが作品の奥深さに繋がるのだと思った。

物語の終わりに、パガニーニを支えて来た人たちが歌い上げる「アンコーラ」は、アンサンブルの方たちも加わり、パガニーニ個人と、彼が生み出した悪魔的技巧の名曲の数々を讃える荘厳な曲となり、初演よりも更にパワーアップしている。よりミュージカルとしての演目、作品性を獲得したように思う。そしてまた、この歌は舞台の主題、テーマを集約した「人間讃歌」のようでもあった。

【まとめ】
CROSS ROADは、元々、朗読劇からスタートした作品であり、藤沢文翁氏が公演の度に育ててきた作品である。

私はミュージカルとしての2年前の初演作品しか観ていないが、このようにキャストや演出、音楽の制作陣が代がわりしながら、作品をより高みへ押し上げてゆくことは、物凄くエネルギーを要すことだろう。それには、この原作の素晴らしさがあって、作り手を大きく魅了する普遍的メッセージがあるからに違いない。この作品が今後も再演を重ね、見る人の心にも育ち続けるであろうことを確信している。

観劇して強く印象に残った点をランダムに抜き出しました。読みづらい形となりましたが、これからも再演を繰り返す毎に進化し続ける作品であることは間違い無く、その過程を共に味わえる喜びに満ちた素晴らしいオリジナル作品です。

あと3回観にゆく予定なのでこの作品をまだまだ存分に味わいたいと思います。

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