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ウクライナ軍の"Oxford"

10月19日 ウクライナ・プラウダ:(4,904 文字)

英国がウクライナ軍を訓練する方法

ポーランド南東部の軍用飛行場の滑走路
10月の静かなある日
英国空軍の重厚なグレーのエアバス330が機首を建物に向け、小さなターミナルを威嚇するように迫ってくる
半ば闇に包まれた滑走路の静寂とは対照的な力強い声が突然響く
「4列縦隊になれ!」
男性約200人、女性6人の大所帯が、ターミナルから飛行機に向かって押し寄せてくる
英国で訓練を受ける機会を得た、各地のウクライナ人軍人たちだ

組織された軍隊らしくない、シェイクした炭酸水の水しぶきのように、人の流れが建物の外にはじき出される
指揮官がいくら声を張り上げても、綺麗な列にならない
高価なタクティカルスーツと家庭的なセーターが入り混じる雑多な群衆の中では、新兵を見分けるのは容易であった
ランウェイを歩く人のほとんどは、これまで軍に所属したことがない人たちなのだ
例外は、ウクライナ軍の制服を着た少数の兵士たちだ
感情が読み取れないところ以外、他の新兵たちと外見上ほとんど共通点がない
彼らを際立たせているのは、服装や行進のうまさではない
視線に迷いが無く、逆に、その視線に捕まった者を逃がさない
ようやく全員が席に着き、滑走路に散らばっていた飛行機が地上から飛び立つと、機内のほぼ半数が喜びを抑えきれず歓喜の拍手をし始める
飛行機に乗ったことも、海外に行ったこともないという人も多い

「列の後ろに並べ!線から出るな!」
出発の数時間前、ポーランドの都市で、ウクライナ軍のメンバーが声の限りに叫んでいた
大きな格納庫、ホールの一角に引かれた白い線に合わせて、人々が徐々に集まっていく

「よく聞け!今、携帯電話からSIMカードを抜き、ジオロケーションをオフにする
写真は禁止、どこにも送信するな!」
続けてチェックインと荷物の取り扱いの手順を説明する
前列にいる新入りたちは熱心に耳を傾け、入ってきたばかりのギャラリーたちはぼんやりと周囲を見回しながら、何が起こっているのか理解しようとしている
「英語を話せる人、受付を手伝ってくれる人はいませんか」
英国兵の一人が大声で英語で尋ねると、大勢の中から一人しか出てこなかったので、本当に驚いた

その多言語話者のボランティアは指導を受け、すぐに仕事にとりかかった
パスポートをリストと照合し、大きなスーツケースや手荷物は格納庫の端にあるカゴに入れ、小さなものは持ったままでいい、と同僚たちに説明している

しかし、突如、思わぬ問題が発生する…ブーツはどうするべきか?

英国人教官は、この新しい靴の美しさと重要性を理解せず、靴を大きな一つの袋に入れ、あとで個々の番号で持ち主に返すように指示した
ほとんどの新兵は、黙ってその指示に従った

しかし、頑固者もいた
「飛行機を知り尽くしている」人は、むしろブーツを自分のバックパックに括りつけた
手放すよりもいい
当然といえば当然だった

スーツケースではなく、バックパックに思い思いの方法で結ばれていることから、多くの未来の戦士たちにとって、この新しいタクティカルブーツが特別な誇りであることがうかがえた
これらの道具は、個性と創造性を示している

今のところ、この新兵集団のほとんどは孤独で、バスの中で一人か二人の隣人と知り合いになった程度である
昨日まで、それぞれの個性が全ての、別々の人生を歩んでいた
今日、飛行機に乗るところから、軍隊としての生活を始めなければならない

「今回が第一陣ではありません
訓練が大幅に延長されて、ラッキーですね
第一陣と比べると、20日間多く勉強することになります
この間、お互いを知り、飽きる暇もないでしょう」
と、同行するチェルニヒウ訓練センターの教官の一人が冗談めかして言う
軍と契約した後、訓練センターが誰を海外留学させ、誰をウクライナの部隊で「テスト」するかを決定する

「英国では、初心者のためのプログラムが用意されています
良いものですが、戦争中なので少し変えてもらうこともあります
今は即戦力となるスキルが必要です」
と教官は説明する
後ろでは、最後の新兵がスナック・パック、紙コップに入ったカルボナーラペースト、インスタントコーヒーを受け取っていた
ビザも、パスポートもない人たちは英国入国許可証も受け取っていた

野外軍事大学

訓練地まで、南イングランドの小さな町を次々と通過していく
左側通行の細い道の両側には、ツタが繁茂した伝統的なイギリスの石壁がある
一般的に、最新の大ニュースはチャーチルの時代のものになると思われるような、英国奥地の田舎である
あたり一面の風景は、どこかウクライナのドンバス、セヴェルスキー・ドネツのほとりの斜面を彷彿とさせるものがある
時々、訓練場からは銃声が聞こえ、道路には「戦車注意」の看板が立っている
しかし、そんなウクライナのような風景の中で、牛や英国羊の群れが臆することなく草を食んでいる

「ここでなら、後難を恐れず訓練できます
だから、訓練の集中力とモチベーションが保てます」
と、コールサインの「パンダ」を持つウクライナの兵士が説明する

彼は、兵役前はエンジニアだったが、この本格的な侵攻を機に軍隊に入ることを決意したという
彼と同様、IT技術者、教師、ジャーナリスト、通常の職業の人々だった人たちがたくさんいる

キウイ(肩のシェブロンに注目)

最初に向かったのは、小銃の射撃場だった
ここではニュージーランドの教官チームがウクライナ軍と協力して仕事をしている
黒いシェブロンが伝統的な鳥、キウイのあしらいなので一目でわかる
英国人とニュージーランド人のもう一つの違いは、非常に強い独特のアクセントだ
英国人の同僚たちでさえ、彼が何を求めているのか理解できないことがある
(動画は参考です)

言葉は学習にとって非常にやっかいな障壁となり得る
しかし、この問題は、英国各地から集まった大勢のウクライナ人通訳者の協力で解決された
私たちが訪問した時の射撃場には女性の通訳達がいた
通訳チームのリーダー、イリーナによると、このような状況での翻訳は簡単ではないという

「命令する人を完全に反映させなければならないのです
彼が叫べば私たちも叫び、彼が悪態をつけば私たちも悪態をつく
兵士は私たちを見て、秩序を感じ取ります
だから、教官が『うるさい!』と怒鳴っているときに『すみません、もっと静かにしてください』とは言えないのです」
とイリーナは説明する

そのため、射撃場のあちこちから、立ったり寝転んだり、単独で、あるいは交代で、止まった標的や動く標的を撃つためにしっかりと指導する女性たちの大きな声が聞こえてくる
もちろん、誰も歯向かうことなど考えもしない

ちなみに、ウクライナ兵はAK-74で撃っている
しかし、英国軍にはそのような兵器がないため、ウクライナ人のニーズに応じて別途購入することになった

「ロシアからは買えないから、欧州、旧ユーゴスラビア、ブルガリアなどで買ったんだよ」
と、練習場で働くウクライナ人教官の一人が言う

彼の背後で、命令する声が聞こえる
「発射終了 武器を点検せよ!」
これは、あるグループの射撃が終了し、別のグループが射撃することを意味する
しかし、終了したグループも休む暇はない
地雷除去訓練が待ち構えていた

地雷除去訓練場は、うっそうとした茂みの中にある小高い丘の後ろにあった
ニュージーランド人教官とウクライナ人通訳のユーリイが、地雷敷設地域がどのように見えるか、そこにはどんな種類のトリップワイヤーがあるか、そして、自分と仲間を守るためにどのように印をつけるかを説明する

冬の終わりから黒海沿岸からポリーシャの森に向かうウクライナ人にとって当たり前になった、「Міни(Mines)」と書かれた段ボールが茂みの脇に置かれている

10月14日の「ウクライナ防衛の日」にちなみ、英国当局は多くの部隊が一度に参加する大規模なデモンストレーション演習を行うことを決定した
このイベントへの関心は非常に高かった
中国からメキシコまで、海外のメディアクルーだけでも20人以上が集まっていた

射撃場から数キロ離れた斜面には、野外軍事大学が設営されていた

そのテントの中で、イギリス軍の重機関銃の機能や構成を見せてもらうことができた

別の「教室」では、ロシアの重装備について、その特徴や弱点を理論的に解説するセミナーが開催されていた

もう少し坂を下ったところではJavelinとNLAWを使った実践的なレッスンが行われていた
対戦車ミサイルの構造、発射準備、構え方、標的の決定方法など、インストラクターが詳しく説明してくれた
しかし、生徒たちがジャベリンを持つことは、まだ許されなかった
「分かってる、もう、すでに『ちゃんと分かってるよ』と言うマッチョな男がいるものです」
そして、教官は「生徒」の誰かがデモ用の機械を壊してしまうかもしれない、と冗談めかして言った

それぞれのグループの活動は異なるが、目の輝きと、演習前にこの辺りで草を食べた牛たちが残した「地雷」によって誰もが一致団結している
「またやっちまった!」
そう言って、牛の地雷除去テストに、またもや不合格となった英国兵が怒っていた

大規模戦術演習

「講義室」から100メートルほど離れた場所で、突然、いくつもの大きな爆発音が立て続けに鳴り響き、「オープンキャンパス」の牧歌的な風景が壊された
ウクライナ人ジャーナリストは反射的に身をかがめ、外国人ジャーナリストたちは不思議そうに爆発に目を向けている

結論から言うと、大規模な戦術演習だった
戦場では、ウクライナ軍は斜面に陣を構え、敵の攻撃に撃ち返さなければならない
それで、わざと近くで爆発を起こしたのだ
背後にある塔から機銃掃射を行い、大口径の機銃を搭載した装甲兵員輸送車が走ってくる
同時に爆発させ、銃撃し、車両を走らせることで、新兵を実戦に近い状況で行動することに慣らし、爆発や銃撃音に圧倒されないようにするのだという

本物の最前線に近づいたことのない人にとっては、その光景は非常に魅力的に見えるだろう
しかし、実際に経験した人にとっては、おそらくこれはあまり楽しいフラッシュバックではない
ひとしきり銃撃戦が続いた後「退却!」の号令が鳴り響く

兵士たちが体制を立て直し、円陣を組んで守りを固めていると、突然、近くの雑木林から助けを求める声が聞こえてきた
戦術射撃小隊はすぐに「戦術医学」部隊に早変わりする
英国のインストラクターによれば、実際に手足を失った人がそのような演習に雇い、血を塗ってケガを偽装することもあるという

生徒たちはそのようなことは知らされていない
このようにして、戦場で起こりうる想定外に対する兵士たちの道徳的準備レベルがチェックされるのだ
戦闘員たちはすぐに役割を分担し、負傷者を検査して運び、間違いを正すために走る

戦術医療のエリアを離れると、また後方から爆発音が聞こえてきた…そして、新たな部隊が陣地を守りに来た
戦争というベルトコンベアーは止まることを知らない

グリニッジ標準時午前5時
英国南部の軍用飛行場待合室

窓の外には、見慣れたグレーA330のシルエットが見える
ウクライナ人を乗せるために再びやってきたが、今回は新兵ではなく、訓練を終えてウクライナに戻る軍人を乗せる
まるで、全く別人たちのように見える
全員同じような格好で、同じように疲れている
誰もが冷静で、整然とカゴに荷物を放り込んでいく
バラバラにではなく、皆が一斉に指揮官に注目する

許された個性の名残は、モスグリーンの帽子をかぶる動作だけに現れている
兵士たちが機内で着席すると、後ろの座席からの眺めは、緑の帽子の列になった
滑走路で加速し、地上から離陸する
何も起こらない、機内は静まり返り、拍手一つない
A330は急速に高度を上げ、見通しの悪い不穏な厚い雲の中へと入り、200人の勇敢な緑の帽子の持ち主たちを未来へと運んでいく
一人はみんなのために

(終わり)

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