太宰治「待つ」をオマージュしたかった
駅で歩いている人が私の方に向かってきました
私はICカードを手に歩いていましたが何かを探しながらこちらに向かってくる人を見て
なにか声をかけられるのかもしれない、何を聞かれるのだろう
この駅に行きたいのですがどちらの方面に乗ればよいですか?かしら
それとも出口のことかしら
どれも違う、ええと、ええと
「あなたを探していました。ああ、やっと会えました」
そうだ、そうだ
私がずっと探している靄がかって見えない何かを持っているのはこの人なのだ
お互い手形を持っているのに何と合わせてもピッタリはまらないで苦しかったのだ
同じ苦しい思いを経験しやっと鍵を持った人がお互いに現れたに違いない
お互いにホコリまみれの宝箱を開きましょう
ああ、これで長年の苦しみから開放される
安心したのもつかの間
その人は私に話しかけることなくホームに向かい離れていきました
あのひとではなかったみたい
そもそもどうして見ず知らずの人に話しかけられて「やっと会えました」と言われることを予想しているのだろう
私は一体誰を待っているのだろう
なんだか近いうちに片方の手形を持った人に会