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こうじろうくんの朝ごはん

 みなみまち保育園には、朝ごはんを食べずに登園する子どもが100名中2名いる。食べたり食べなかったりの子どもは他に10名ほど。
 
 2名の子どものうち1名は、こうじろうくん、3歳児クラス。偏食が強く、給食では白いご飯しか食べない。お魚もお肉もお野菜も、苦手。塩せんべいは食べる。
 おうちでも同様と母親からは聞いている。しかし、朝は忙しくて母親はパンを出す。結果的に何も食べずに登園する。
 
 「ラップにご飯をのせてクルっとしたものなら、食器も洗わなくていいし、手も汚れないし、いかがですか?」

 「夜のうちにラップに包んでおいて、朝、チンしても」

 「ラップでおにぎり、保育園でも私たちがこうじろうくんの目の前でしています。よく食べていますよ」

 こうじろうくんが朝食を食べずに登園するのは家庭だけで解決することではないと、担任のみき先生が気付いたのは5月初旬。こうじろうくんの個性や、母親の負担感を感じ取り、すぐにできそうなことをさりげなく話してきた。変わらないまま、1月になった。
 
 「食べてくれなくても、でもパンは用意してるんです。どうせ食べないから何も用意しない、じゃ、ないんです、お母さんは」
 みき先生は他の職員に弁解するように、そして、こうじろうくんが隣で聞いているかのように母親をかばう。
 自分も内省する。 
 「お母さんと信頼関係が作れていないからだと思います。お母さんは私に言われるのが嫌なのかも知れないし、私に話してくれていないこともたくさんあるのだと思います」
 そして、
 「今は毎日こうして園で食べればいいです。でも小学校に行ったとき、自分で何か食べられるようになった方がいいと思います。ご飯の炊き方が分かればできるかな」

 ラップおにぎりを事務室で園長先生と食べて、麦茶を飲んで、こうじろうくんは表情がやわらかくなり、クラスに戻っていく。体温も上がり遊べるようになった。足の指のしもやけもすっかり治った。

 

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