園長先生、カレが出ていったから、
「借り上げって、引っ越してもいいのですか? ちょっと、気分、変えたくて」
たまき先生が、園長先生に相談している。新卒でたけのこ保育園に就職して3年目。借り上げ制度を利用して、一人暮らしをしている。
私立の保育園に勤務する保育士には、一定の条件を満たせば、家賃を補助する制度が適用される。
自治体ごとに補助の金額は異なるが、一人暮らしの部屋の家賃全額は賄える。つまり、給与の他に一人暮らしの部屋を与えられているのとほぼ同じだ。
保育士不足の原因の一つが処遇の低さだということで、基本給を上げるための補助金もあるし、こうした現物給付的な補助もある。
新卒の保育士が実家を出て就職できる。勤務する保育園のそばに居住してくれると園も安心、本人も勤務がしやすい。安定して勤務を継続できる。というもっともなねらいがある。
一方で、使えるものは何でも使え、罰則はないし。
カレと、あるいはカノジョと同棲。お金がなくても、お金を貯めなくても、2人の同棲を可能にする。家賃はタダだから。
お金がないから狭くても、寒くても、肩を寄せ合って暮らす、一緒に暮らすためにお金を貯める、愛があればつらくない。ではなく、結構いい部屋で勘違いして暮らす。
「カレと別れたんです。カレが出て行った部屋にいたくないです。引っ越したいです」
園長先生は優しく、
「そう。別れたんだ。借り上げ制度を利用して同棲、ねー。決まりに反しているのは、知ってた?
引っ越しは認められません。部屋の名義は法人ですし」