出会いはひょんなところから

数年前に亡くなったニャンコは、臍の緒胎盤付きで落ちてた。以前飼っていたニャンコが亡くなって8ヶ月後の暑い夏。上の娘が1才と8ヶ月の時。慌てて連れ帰って臍の緒を切り、育てた。四年間糖尿病と闘い、二ヶ月間添い寝ののち私の腕の中で18歳で亡くなった。もう1匹のニャンコは上のニャンコが10歳の時に保健所送りになりそうだった子猫4匹のうち引き取り手が見つからなかった最後の1匹。そしてさらにこの、子ニャンコが10歳の時、暮れも迫った21日に、ある保護犬とお見合いをした。下の娘が起立性調節障害になり、身体の不調が続き眠り続ける毎日の中、わずかに起き上がれてテレビを見ていたら、ふと「保護犬飼いたい」と呟いた。娘達は小さい頃から「犬の散歩がしたい」と言っていた。私も犬は子供の頃から飼っていてほぼ途切れたことが無かった。娘が少しでも元気を取り戻すかもと淡い期待を抱いて、PCで調べた。譲渡会に行くにしても起き上がれない娘と出かけるのは難しく何より夫の説得も半分喧嘩腰で色々とあった。娘は写真で茉優という推定5歳の保護犬が気に入り、いよいよお見合いにまでこぎつけた。
そして預かり宅さんがわざわざ家まで連れてきてくれた。
茉優は人に怯え隠れよう隠れようとする。でも、吠えたり噛んだりしない。
もし、吠えたり噛んだり感情表現が出来たならもっと楽だろうにとこちらが思うほど怯えて、ただただヨダレを垂らしている。ヨダレが収まると娘の部屋の机の下に潜り込み出てこない。そこから無理やり出すのもかわいそうな気がして、
このまま引き取れないかと聞いたがダメなのだそうだ。
保護犬、保護猫はかなり条件や約束事が厳しく、預かり宅やセンターで面倒を見ている人たちが飼い主を吟味して引き渡す。
契約書も交わす。
飼うための条件、準備も引取るためのガイドに細々と書かれている。
もう一度センターや預かり宅に逆戻りすることになりかねないので当然だろうね。
もともと、ペットショップに懐疑的な私は、納得。
イギリスでは、ブリーダーから直接引き渡すのが当たり前のようだ。
飼う人間も飼われる方もよく吟味し、考えてから共に生活することを決めなければと思う。
という意味では、”お見合い”というのは妥当な表現なのだろうね。
一旦戻し、改めて日にちを決めた。
預かり宅さんは「本当にこの子でいいの?」と聞く。
娘は迷いなく「この子がいい」という。
私も娘の様子や茉優の様子、はたまた先住猫の様子を見てこの子なら”大丈夫”と感じて引き取りを申し出た。
もちろん、私も一目で茉優が好きになった。
夫は先住猫のことを心配して理由を聞いてきたけど、「私の感!」としか言いようがない。
きっと全てが上手く行くと私の感が告げている。
娘、茉優、カチャオ、そして自身の感を信じるしかないのである。

根拠はない。

引き取りを25日に決めた。
2/25朝10時 茉優到着。
机の下に一目散。潜り込んで出てこない。近付くと怯える。
水も餌も人の見ていないときに食べる。
娘には心を許しているようで、私や夫に対するのとは違う。
娘をまっすぐに見て茉優の表情は柔らかく穏やかだ。
水と餌は、茉優の近くに置く。
娘がベッドに促すとベッドに乗った。
それからベッドの上と机の下が茉優の居場所になった。
とはいえ、最初の数日間は、ベッドの上に乗ることが少なかった。
机の下は窓からの冷気がもろに来る。
机と窓の間をダンボールで塞ぎ、保温用のアルミシートを敷き、その上に玄関マットと毛布を敷いて寝床の出来上がり。
娘の部屋は、なぜか冬はシベリア、夏は熱帯。
おまけに冷房がないので冬はヒーターでなんとかなるとしても夏はたまらない。
それから三週間。
毎日朝夕に散歩。
よく歩いてくれるが、茉優は行き交う人に怯える。
人に沿って歩き、吠えもしなければ。噛みもしない。
ひたすら様々なものに怯えている。
散歩に行くときは、
まず部屋から玄関までは首輪にリードをつけて連れて来る。
玄関でハーネスをつけるのだがこれが一苦労。
ハーネスをつけるだけに10数分格闘しなければならない時もある。
それでも娘には、怯えながらも力を緩める。
それで、なんとか散歩に行く前にハーネスをつけることができた。
預かり宅では、触らせてくれないので首輪もハーネスも着けっ放しだったそうだ。
ハーネスは家の中では外しておくことに決めた。
年末にお風呂に入れた時に外して見たら、着けていたハーネスはドロドロに汚れていた。リードも首輪もハーネスも新しいものに変えた。
預かり宅さんも大変だったろう。
体を硬くして壁にへばりつき触らせてくれないのだから。

最初のお風呂は娘と私で入れた。
怖がってはいるが、泡だててこすってやると気持ちよさそうでもある。
怯えと快さが交互にやって来る。さぞかし疲れるだろうな。

三週間後、娘はとうとう朝起き上がれなくなった。
まぁ、三週間よく頑張ったと思う。
ところが、朝代わりに私が連れて行こうとすると茉優はテコでも動かない。
中型犬ということだけど、いわゆる柴犬と比べると大きい。
中型犬と大型犬の間くらいの大きさで体重は17キロ超(多分)。
持ち上げたくても、強張って力任せに壁に体を押し付けていると、首輪につけたリードを引っ張ってもびくともしない。
あまりに引っ張り過ぎるのも苦しめるようで嫌だ。
仕方がないので、娘がふらつきながら玄関まで連れて来る。
それでやっと散歩に連れて行ける。
自分が行くフリして騙してるようで嫌だと娘はいうけど、まぁしょうがない。
夜はなんとか娘が連れて行く。しかし、夜も数回に一回はふらついて歩けないので様子を見て私が代わりに連れて行く。
ある朝のこと、散歩の途中で茉優がテコでも動かなくなったので、娘に電話をして声を聞かせることにした。
すると、目を周りに馳せて声の主を探す様子を見せた後、電話から聞こえる娘の声に気づいた。そうしたら、歩き出した。
まぁ、大したもんだね、これは相思相愛というしかない。
この頃、娘の体調も随分と良くなって、夜はよっぽどのことがない限り散歩に連れて行けるようになっていた。

娘にしても茉優にしても、状況は行ったり来たり、前進してみたり後退してみたり、それでも徐々に前へ進んでいる。
焦らず焦らず と私は自分に言い聞かせつつ、どうなって行くのか楽しみでもある。

1/25 一月経って、やっとトライアル期間が満了した。
晴れて正式にうちの子になったわけだ。
早速、保健所に届けを出した。
茉優の表情が少しづつ和らいできた。
相変わらず差し出した手に怯えるのは変わらない。容易に撫でられない。
吠えもせず、噛みもしない。ひたすら様々なものに人に、怯えている。
不憫で不憫で見ていると胸が締め付けられるように痛くなる。
和らいできた様子に、試しにいつも潜り込む机の下をダンボールで塞ぎ、入り込めないようにした。最初は戸惑い不安そうだった。
次の逃げ場所は、ベッドの上。
してやったり!
早速、ベッドに茉優用のタオルを敷き、ベッドに接するコンクリートの壁がもろに体に当たらないようクッションを立てかけた。
これで防寒は万全。
時々床に降りているので、床にアルミシートを敷き、その上に玄関マットと毛布を敷く。水も餌も移動し、部屋の入り口に持ってきた。
時々、机の下を覗き込んでいたけど。次第に慣れて行く。
よかった。
娘の意向で食事は散歩から帰ってからやることにしている。
散歩から戻ると部屋のドアは閉じてあるので、キッチンのレンジと冷蔵庫の間に入り込む。しばらくは、そこに毛布を敷いて、その前に餌をおくことにした。
餌は、匂いが立つようにウェットフードをドライフードに混ぜた。匂いで食欲をそそり、我慢できなくさせる作戦!鰻屋の前を通る人間と同じ。

食事の時間が人間とぶつかることもある。極力人間は、茉優を見ないフリ。
ガリガリと音がしたら、茉優を見ずに
「うん、食べてる食べてる」と家族の顔が緩む。
今から考えると、全員が緊張してたかも。
徐々に、人がいても人が見ても餌を食べるようになっていった。
おやつも気が向けば手から取ってくれるようになってきた。
今日は気を許したと思ったら、次にはまた怯える。気持ちが行ったり来たりしているようだ。
娘に対しては、大きなフレも無く徐々に心が緩んできているようだ。
うん、通じ合ってる。
ニャンコの方はというと、大好きだったお兄ちゃん猫が亡くなってから、自分の体を舐め続け、お尻のあたりがエジプシャンのようにハゲハゲの猫になって、どんなに私たちが撫でても抱きしめても舐めるのをやめられなかった。
人間ではダメなんだろうと思っていたところ、茉優の登場。
最初は恐る恐るだったけれど、茉優の匂いを嗅ぎ、舐め、茉優に近寄っては、茉優に構いたがる。
少しづつ、以前のように執拗に自分の体を舐め続けることは無くなっていった。
おやつも一緒に食べる。時々、一緒に寝ている。
茉優のご飯を一緒に食べようとする。
茉優は、預かり宅でも犬や猫と共にいたせいか、猫も平気だ。
人間以外なら怯えない。(あ、仔犬はダメなようです)
この2匹相性抜群かどうかはわからないが、まぁ、似た者同士なのかもしれない。

二月の終わり頃から、茉優は散歩を嫌がるようになり、途中で止まって、テコでも動かない。娘でも手こずるので私ではとても無理だ。
遊歩道を歩くのが嫌なようだ。人と行き違うからだろうか?
保育園もあり、子供の声が聞こえると怯える。
子供の姿が遠くから見えるだけで固まってしまう。

2/15日 
朝、試しにキッチンから「茉優、ごはん」と呼んでみた。
一旦、出て来ようとして引っ込む。
そこで、部屋に入り「ごはんだよ」と言うと…キッチンに出てきた。
最初はあまりの怯えように、今まで何があったのかと泣けてきたが、最近の茉優は、子犬のような表情を見せるようになってきた。
16日 朝
今朝も「ごはん」の呼びかけで、茉優はキッチンに出て来るといつもの冷蔵庫とガスレンジの間に入り込み、座ってご飯を待つ。
「散歩」とハーネスの金具を鳴らすとリビングのソファーから出てきて玄関へ行く。
すごい!!進歩!
さらに一月経って3/17日 朝
餌を用意している音が聞こえたらしく、部屋から出てきた!
3/19日 朝
餌をソファの近くに移動して、茉優から見えないところで様子を見る。
食べた!
この頃になると、人前で餌を食べるのも少しづつ慣れてきたよう。
でも散歩は嫌らしい。
娘でも愚図って言うことを聞かないので、娘は少々困っているようだ。
なら当然私の言うことを聞くはずもなく、はなから諦めてるので私は気楽なもんだ。
3/23日
朝、ご飯には出てきたけれど中々食べない。
ふと見ると床に置いた餌のケースの蓋が開いている。
?ニャンコか?…茉優?
時々、どうやら夜中に徘徊しているらしい。
夫が夜中起きた時に部屋に入る茉優を見たと言う。
茉優か?
でもさほど餌は減っていない。
お腹は空いているようで茉優はペロペロしている。
食べないので、軽く散歩に出る。
帰ってきても中々食べずにうろうろ。
やっと餌を食べたと思ったら、また、うろうろ。
部屋にいるお姉ちゃん(娘)が気になる様子。
クゥーン と 鳴いた!
今までは二度、かすかに鼻を鳴らして、鳴いたような鳴いてないような声は聞いたことがあったけれど、今回は、確かに クゥーン!
今までで一番声が大きい。少しづつ、意思表示ができるようになってきた。
茉優の声が聞きたい。
3/27日
娘が散歩に連れ出そうとキッチンで呼ぶと、鳴いた。
返事したのか?吠え声では無いけれど。
それから少しづつ、クゥーンという声をよく聞くようになる。
時々、ワフッ と ほっぺたが少し膨らんで息を吐く。
こちらの顔を見ているので、吠えてるつもり?
それにしては、奥ゆかしい。
日々、表情が豊かになっていく。
娘もわがままの出てきた茉優に手こずりながらも一つ一つの変化が嬉しいようだ。
今までは、ただ怖い怖いで心がいっぱいになって、人の顔も言葉も何も感じられなかったのかもしれない。
もう少しで4ヶ月が経つ。
ごはんの時間もわかるようになってきた。夫の挨拶にも身を引かなくなってきた。
4/17日
数日前娘がソファに座っている茉優の横でゲームをしてから、茉優はソファでも少しリラックス出来るようになった。
昨日の夜は、散歩の後、おやつを目の前に差し出しても顔を背け、部屋に入りたいアピール。私がキッチンのシンクの前に立つと、回り込んできて顔を見上げてくる。
…勝てない…
娘と相談して、今度は、いつでも部屋に出たり入ったり出来るように部屋のドアは開けっ放しにすることにした。
部屋が好きで、散歩から帰ってきてご飯食べたら、すぐに部屋に戻る。
でもまぁ、ご飯だよというとこっちの部屋に出てきてくれるし、おやつも出てきて食べてくれるようになった。おやつは手から食べるだけでなく、つかんだおやつを噛んで引っ張りながら食べるようになった。
犬の毛が夏毛に変わるのか、ふわふわと部屋に漂うので、ブラッシングを毎日するようになった。
緊張して固まった様子でブラッシングされていたのが、今は気持ち良さそうにする。
一つ一つ、一歩一歩、少しづつ、
人を信頼してもいいかもしれないと思い始めてくれているようだ。
ごはん欲しくてクンクン鳴いて見たり、クゥーンという声もよく聞くようになった。
ところがここにきて、
朝、ごはんの音を聞いて頭だけ部屋から覗かせたと思ったら、餌を定位置に置いてもソファの上に乗って食べようとしない。
仕方がないので、手に乗せてあげてみたら手からは食べる。
一食分丸々手から食べて、部屋に戻った。
ん?甘えてる?
それから数回、朝だったり、夜だったり気が向くと娘か私の手から餌を食べたがる。
赤ちゃん返り?まぁいいかぁ。
娘は、手からしか食べない犬もいるらしいと心配顔だけど、今までは、自分で食べていたのだからと茉優を信じて、今は欲しいだけ手で食べさせて、思いっきり甘えさせてやることにした。
娘も手から餌を食べる茉優が愛おしそうだ。
お互いの心が少しづつ近寄っていっているのかな。
私たちも茉優に対して、リラックスしてきたように思う。

先日、「花子と先生の18年〜人生を変えた犬〜」というドキュメンタリーを観た。
その冒頭で先生が「犬は愛情を食って生きている」と言った。
パッとモヤモヤ感が消えて頭の中が青空になった。
そうだよね。
今まで飼った犬も猫も愛情を食って生きていたなぁと改めて感じた。
飼い猫、飼い犬はやはり家族の愛がなければ、自分の生きている感じがしないだろうね。
野生の動物とは違う。
そして、やはり人間もそうだろう。
私自身も愛情を注ぐ対象があることに救われたし、逆に存分に愛情をもらった。

カサカサ音がした。
茉優か?ニャンコか?
おやつの袋をおやつカゴから引っ張り出し、咥えて逃げるニャンコの後ろ姿。
お前か! こら!と言いながら、
頭の中は、サザエさんの♪🎶お魚くわえた野良猫〜🎶が流てる。
顔がニンマリ。
どこに何があるのかわかっていて、自分が何が欲しいのかわかってる。
と 感心してしまう。

ある日、茉優は、まだ物足りないらしく、カチャオの皿に残っていた餌を食べていた。カチャオは、茉優の横から割り込んで茉優の餌を食べる。
両方とも相手が自分の餌を食べても文句ひとつ言わない。
水は、大きなお皿の茉優の水をカチャオが飲み、小さなお皿のカチャオの水を茉優が飲んだりもする。
おぉ〜、餌も水もシェアするのかぁ、偉いなぁ…とは、ならない。
犬と猫では必要な栄養分が違う。
まずい!
毎朝カチャオは、うるさく餌を催促する。
一昨日は餌の用意をしていると、茉優が部屋とキッチンの間に顔を出してこっちをみていた。昨日はもう少しキッチンの方に身を乗り出して、今日は体がほぼキッチンに出ていた。
今回はタイミングがバッチリ。
カチャオと茉優に同時に餌を出してカチャオが茉優の餌を狙う頃には空っぽになってる。
茉優は、餌をゆっくり食べ、人を顔色を伺わず、ゆっくりと部屋に戻って行く。おやつだよというと部屋から出てくる。

来た当初は硬いものを見つけ、ガリガリ噛んでいたけど、今はしない。
時々、夢を見てうなされていたけど、近頃の夢は穏やかな夢のようだ。
茉優が来てからカチャオのハゲも治ってきたし、落ち着いている。
茉優が心を開いてくれることを信じること。
カチャオの心の広さを信じること。
茉優を選んだ自分たちを信じること。

それに尽きるんだなぁ…と つくづく思う。

引き取ってからもうすぐ三年になる。最近の茉優はずいぶん図々しくなった。
リビングのソファでくつろぎ、台所で人間のご飯の支度をしていると
「ね!私の特別ご飯くれるんでしょう?ね?ね?」と言いたげにまとわりついて離れない。
それに勝てない私はついつい、特別にチキンや豚肉を素焼きしてあげてしまう。
そして私は娘に「特別が多すぎる」と怒られる。

#うちの保護いぬ保護ねこ

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