広報紙をリニューアルするなら

紙媒体の広報紙は必要か

日本最大の政策コンテストとして知られる「マニフェスト大賞」。
応募総数3,012件のなかから今年のグランプリを受賞した団体は、7月の東京都知事選で立候補したAIエンジニア、安野貴博さんとスタッフによる「チーム安野」の皆さんが選ばれました。SNSやAIを活用し、選挙期間中にも有権者の声を反映して公約を更新し続けたことが主に評価されたものです。

今年のあらゆる選挙戦でのデジタル戦略からみても、時代の大きな変化を感じますね。
私自身もマンガは電子書籍に完全移行しましたし、紙媒体を購入・購読する人は減り続ける一方です。
私が今最も推すマンガは「ふつうの軽音部/ジャンププラスで配信中」です。

さまざまなモノ・コトがデジタル主流になる現代。ですが、自治体が発行する紙媒体の広報紙がなくなることは、当分ないでしょう。
「広報紙も電子書籍でよくない?」と聞こえてきそうですが、デジタルである以上、ターゲットの目に触れさせ、読ませるためにはいくつものハードルがあります。

行政に興味がない人が、わざわざスマホに広報紙アプリをインストールするでしょうか。わざわざ自治体サイトにアクセスしてPDFファイルを開くでしょうか。これらの行動をする人は、すでに広報紙を読んでくれています。

さて、対する紙媒体の自治体広報紙は、基本的にはこのご時世に問答無用でポストに届けられます。
この超強力プッシュができる媒体を、「余計な税金かけやがって」と言われないよう、読んでもらうようにするため、リニューアルを企画する広報担当者に向けて書き記しました。長くなりましたが本編をどうぞ。


リニューアルに必要な要素は3つ

  • 担当者自身の熱量

  • 住民さんの声

  • 庁舎内の合意形成

まず「担当者自身の熱量」

業者委託をするにしても、全部おまかせ!では、昔ながらのノスタルジーたっぷりな文字ぎっしり広報紙から脱却するのは困難でしょう。
まちの広報紙の方向性やかじ取りを行うのはあなたです。
ユニバーサルデザインの知識等、読みやすいレイアウトになっているか判断するため基本的な学びは必須です。

さらに内製化で自らレイアウト・編集を手掛けるのであれば、編集ソフトの技術習得は必須です。

毎月更新されつづける先進自治体の広報紙は生きた教科書。熱量を維持するためにも広報担当者はつながりあってほしいですね。ファンになった自治体広報紙があるのなら、担当者に電話しちゃえばいいです。


次に「住民さんの声」

行政・議会は誰のために存在しているのか、そりゃ住民さんですよね。
ならば、どんな広報紙であれば読みたいのか、声を集める必要があります。
 
そもそも読まれる広報紙であれば、アンケートを紙面に設置することで不特定多数の意見が集まりますが、読まれないのであれば・・・
オススメするのは、広報モニターです。
1年といったある程度長い期間で、モニターを公募します。
顔を合わせるのは2,3回程度でよいかと。
 
初回は、あなたが読みやすいと感じる他自治体の広報紙をいくつか用意し、座談会形式でどんなレイアウトやコンテンツがよいのか話し合います。
モニター期間中は毎号の感想をメールで送ってもらい、反映できるものは紙面へ落とし込んでいきます。

※あくまで意見や感想は参考です。実際にリニューアルを行うのはあなたなので、すべての意見を聴くのではなく、行政広報のプロとしてあなたが考える広報紙を手掛けてください。

期間終盤にもう一度集まってもらい、最後の意見集約です。この声が予算要求に臨む際の大きな武器となります。 


続いて「庁舎内の合意形成」

はいでた。リニューアルに際して一番の難関はここです。
上司、財政、首長にリニューアルの必要性、メリットを理解してもらいます。
 
印刷・デザイン会社がリニューアルを行うのであれば、相応の予算が必要になりますし、DTPで自分たちがやるからむしろ予算削減するんですよ!と息巻いても、結局作成する職員の人件費や後々の負担が大幅に増えるのであれば、財政からは難色を示されるでしょう。

まずもって、やるかやらないかどっちなんだい問題の基準として、首長にレクを申し込みます。広報担当が単に「やりたい!」のではなく「住民さんがリニューアルを望んでいる」ことを説明します。

首長が、やーるーーーー!ってなっても、いざ予算ヒアリングの際に「首長がいいって言ったから予算つけて」はご法度です。

財政は何も絶対削ってやるスタンスではなく、まち全体のことを考えてヒアリングに臨んでいます。ちゃんと、住民さんの声を聴いてリニューアルを託されたあなたが説明し、財政担当に納得してもらいましょう。

私がリニューアルを行った際の動きを時系列で紹介します。


王寺町のリニューアル変遷

【2016年度の状況】

・村田、広報担当になる。奈良県内や近畿の広報担当とつながる。
・広報紙が2冊に分かれて発行されていた。

〈1冊目〉広報「王伸」
→第1週金曜発行/イベントレポート等、事後報告中心
→各課の原稿をワードで大まかに配置し、業者が2色刷りで仕上げたもの
 
〈2冊目〉かわら版おうじ
→第1・3週金曜発行/お知らせ情報
→各課の原稿をワードの5段組みで流し込み、シルバー人材さんが輪転機で印刷

案の定、広報「王伸」はほとんど読まれておらず、「かわら版おうじ」はお知らせが掲載されているので読まれてはいるものの、輪転機の印刷なので手にとるとインクで手が汚れてしまいます。
 
上司と話し合ったゴールは、DTP(内製)による予算削減&フルカラー化と、ふたつの紙媒体の統合でした。

【2016年度にやったこと】
・Adobe IllustratorやPowerPointで自ら作成できるページを増やしていった。
・広報モニター制度で住民さんの声を集めた。
・予算ヒアリングで説明し、〈1冊目〉広報「王伸」をDTPでフルカラー発行することに。

(要求時のやり取り)
「DTP(内製)による内部のメリットは」
・業者委託では緊急の記事差し替え等に対応できない。DTPなら即修正かつ校了にも余裕が生まれる。進行管理が内部だけで済むので、余裕をもったスケジュールで各課と校正のやり取りができる。
・広報紙だけでなく、軽微なチラシ・ポスターも自前で作成・修正できる。

「職員の負担は」
・むしろ業者とのやり取りに多くの時間が割かれている。業者委託をしている今年度で、レイアウト・編集を学びながら内製できるページを増やしていく。

「そのスキルを習得した職員が異動すればどうなるのか」
・編集ソフトの操作はofficeソフトを習得するようなもので特別なことではない。リニューアル初年度で作成したテンプレートを用いることで、特集以外は作成できる。


【2017年度の状況】

・2年目。市町村アカデミーで全国の広報担当とつながる。
・自治体広報LABの前進である「広報愛の100本ノック」に参加し、LABの兵頭ボスらとつながる。
・まだ広報紙は2冊体制のまま。

【2017年度にやったこと】
・フルカラーの利点を生かし、特集や組み写真を多く作成した。
・DTPの恩恵でポスターやチラシ、SNS発信に使うビジュアルなども作成。各課からの修正もその場で即対応し、DTPってめっちゃ便利だよね!な空気感を庁舎内全体に浸透させた。
・広報アンケートや住民さんからのおホメの言葉を、財政担当や記事を書いた各担当にわかちあった。
・予算ヒアリングで説明し、〈1冊目〉広報「王伸」と〈2冊目〉かわら版おうじを統合することに。

(要求時のやり取り)
統合を要求した際は、財政からの厳しい指摘はありませんでした。
DTP移行後、読んでもらえる広報紙の大切さ、メリットを職員で共有できたからでしょう。
熱量には熱量で返してくれる、いい職場です。


【2018年度の状況】

・3年目。ついに2冊の紙媒体を1冊に統合。

1週目号 広報おうじ「王伸」…特集からお知らせまで
3週目号 広報おうじ「王伸」お知らせ号…お知らせ中心

ようやく、他自治体と同じ様式になりました。月コンクールに出すも毎回なんでわざわざ分けて発行してんの?といった審査員の講評からもおさらばです。月2回発行は変わらずです。

これで

  1. 手に取ってもらう表紙

  2. 近所のあの人が載っているかもしれない親近感ある特集

  3. 整理整頓された読みやすいわかりやすいお知らせ情報

 の導線ができあがりました。住民さん、職員、首長みんなのおかげでスタートラインに立つことができたのです。

紙媒体の広報紙は必要だ

ポストに問答無用で届けられる紙媒体ですが、そもそも雑誌が愛される利点とは、読み手が知ろうとしていなかった思いもよらない情報に触れることができること。デジタルとは大きく違います。

デジタル全盛期ではあるものの、
「エコーチェンバー」
(自分と似たような価値観や考え方のユーザーをフォローすることで、同じようなニュースや情報ばかりが流通する閉じた情報環境)や、

「フィルターバブル」
(ユーザーの好みを学習したアルゴリズムによって、そのユーザーが好む情報ばかりがやってくるような環境)

といった弊害の認識も広がっています。

伝えたい、伝えなければならないまちのヒト・モノ・コトをターゲットに知ってもらうために、我々行政職員は紙媒体とデジタルをうまく活用していかなければなりません。

リニューアルを検討している方、がんばってくださいー!

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