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【僕は勇者の殺し方を知っている。#2】 勇者

僕はあの後、帰路につき、熟睡した後に10時ぐらいに起きた。


窓際で軽く日光を浴びながら、朝ご飯を食べた。


すると、なんか朝ご飯がいつもより豪華な気がしてきた。


まあ、それも当然か。


今日は昼から冬祭りあるもんな。


こうしたくなるのも仕方ない。


(…………)


僕が軽く歯磨きをしていると、屋台の準備を完全に終えたお父さんがやって来た。


『エミール。昨日は本当に災難だったな』


僕は頷いた。


『ともあれ、エミールが五体満足で帰って家に来てくれて本当に嬉しいよ』


僕は歯磨きを終わらせて、返した。


『ありがとう、お父さん』


『なあ、エミール』


『どうした?父さん』


『昨日、魔王に会ったってのは本当か?』


『ああ。そうだな』


『俺はてっきり上級魔族辺りに苦戦したのかと思ったんだけど、まさかその上級魔族の中でも魔王だったとは…勇者様がいてよかったな』


『うん。でも…なんでわかったんだ?父さん』


『勇者様が教えてくれたんだ』


『なるほど』


『なあ、エミール』


『今度はどうした?父さん。そんな怖い顔して』


『もし…もしだが勇者様が死んだらどうなるんだ…?だって、家に伝わる伝承によると、魔王を殺すためには勇者様が自らの命を犠牲にしないといけないという……』


『あの伝承か。…にしても、とんでもない偶然だな。俺達の家が今の勇者様の生まれた家の分家だったなんて』


『まあ、あまり自慢するのは良くないが、多分それのおかげで勇者様はここに来られたんだろうな』


『…う〜ん』


すると、お母さんがドタバタと走ってくる音がした。


『エミール!!エミール!!!あんた!!マーシャちゃんが!!家の前にいるよ!!!!』



『…今行く』


(………………)

『エミール!!!エミールゥ!!!愛してる!!!だから!!死んでなくて良かったよおお!!!!』


今、マーシャは僕の胸でとても激しく泣いている。


涙が滝のように出て、締め付ける力もだんだん強くなっている。


マーシャ…僕も君のことを愛してるからな。


だから…これからはずっと一緒だ。



『僕も君を愛してるよ。マーシャ。これからも一緒にいような?』


『ゔん!!!ゔん!!!』



(………………)


それから、昼になり、祭りが始まった。


僕は屋台でポテトフライを売る準備をしていた。


そんな時、お父さんとお母さんが僕の背中を押してくれた。


マーシャのところに行ってやれ、と。


僕はお父さんやお母さんに申し訳なく思いつつも、降りしきる雪の中でマーシャと屋台を見て回った。


まず、射的をした。


この文化は遠い極東の国から伝えられた異国の文化だそうだ。


そして、僕らは3つほど景品を当てた。


マーシャはとても嬉しそうだった。


そんなマーシャが僕は愛おしかった。


それから、僕らはチーズのかかったフランクフルトやジェラートを食べた。


どっちも年に1回しか食べられないだけあって、とても美味しかった。


マーシャもとても満足そうな顔をしていて、こっちまで笑顔になれた。


そして、僕らはそれからくじを引いたり、チーズタルトを食べたり、魔法選手権に出たり、とにかく色んな楽しいことをした。


楽しくて、楽しくて、しょうがなかった。


あまりにも、楽しくて…昨日、何故魔王が僕の村の周りにいたのか考えるのを忘れてしまうほどに。


そして、気づけば、あたりは暗くなっていた。


(……………)


『じゃあね。エミール。また明日!』


『うん。マーシャ。バイバイ!またね』


祭りが終わった後、僕らは自分の家に帰り、部屋の魔法ランプの明かりを消し、眠りについた。


(…………………)


『いつまで眠っている?起きろ。村が襲撃されているぞ』


(…………………)

僕はベッドから飛び起きた。


なんだ…?


今の夢は……


『キャアアア!!!!殺さないでぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙!!!!!!勇者様ァァァァ!!!!』


なんだ、今の声は……


それに…


"勇者様"…?


僕は急いで下に降りた。


(……………………)

一階に降りた。


そこに転がっていたのは…



『やあ、一日ぶりだね。魔王の時の少年』


お父さんとお母さんのし…




死体…???


ありえない。


ありえないけど…僕の目の前には勇者がいた。



『確か、君はエミールと言うそうじゃないか。どうか、恨むならマーシャという少女を恨んでくれ』


『は??』


『さあ、マーシャが何処にいるのか教えてもらおうか』


『なんで…殺し』


『なんで今殺したのかって?昨日村に入った時点で殺せば良かったって…?それはねえ。それじゃ楽しくないじゃないか』


『違…違う…俺が聞きたいのは…』


『お父さんとお母さんは……お前が殺したのか…??』


『ああ。僕以外にいるのかい?』


『この…!!』


『ひと…ごろし…ごの……!!!』


『人殺しがぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!!!!!』


この時の僕はわけもわからず、この殺人鬼に突っ込んだ。


そして、死ぬはずだった。


しかし、この時に僕と殺人鬼の間に入ってきて僕の命を救ってくれた人がいた。


その人は殺人鬼の攻撃を防いで、奴を睨んだ。


そして、その人は僕にもわかるぐらいとてつもないオーラを放つおじいさんだった。


殺人鬼は鬼のような形相でそのおじいさんを睨む。


『貴方は…!!師匠!!邪魔しに来たのか!!!?』


『この出来損ないの弟子が…!!!師匠である私が貴様に引導を渡してくれる!!!』


『引導…!!くくっ!!僕は無敵だ!!やれるものならやってみろよ!!!!!』


しかし、その次の瞬間…


僕はそのおじいさんに、わけもわからないまま、首を手刀でトンとされ、気絶させられた。


そして…


『生き急ぐなよ。少年。…まだ君は死ぬべきではない』


そう言って、そのおじいさんは気を失った僕を担いでその場を猛スピードで去った。

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