ワイルド・グレイ1/8

あらすじ(含ネタバレ)

オスカー・ワイルド唯一の長編小説であり、ヘンリー卿が「君は美しい」というそのただ一言で貴族の青年ドリアン・グレイを堕落させ、死に追いやった模様を描いた『ドリアン・グレイの肖像』。そのドリアンに自分を重ね、オスカー・ワイルドですらも彼を本当に理解していないと言う貴族の青年が現れる。彼は作者であるワイルドが「堕落したがっていたドリアンがヘンリー卿の一言に甘えた」という説明に、「堕落したことがないあなたにドリアンの気持ちは分からない」と言い返す。ワイルドは芸術への造詣が深く繊細で我儘なその青年、アルフレッド・ダグラスに夢中になり、「人生は芸術を模倣するのだ」と彼とのロマンスに酔いしれる。元恋人であり今は友人としてワイルドのそばにいるロジャーは面白くない。
たちまち2人の関係は霧深いロンドン中の噂になり、暴力で家族を支配するダグラスの父は「ワイルドを切らなければ援助を打ち切る」と彼に告げ、ワイルドの舞台の初日には劇場に乗り込んでワイルドを罵った。ワイルドはダグラスの願いを聞き入れ、負け戦と分かりながらもダグラスの父親を訴え、男色罪で2年の刑に処される。ロジャーは面会に通うが、ダグラスは一度も訪れなかった。
出所したワイルドは、2年間書き続けたダグラスへの手紙をロジャーに託す。裁判で全てを失ったこと、母親の死に目にも会えなかったこと、子どもたちも白い目で見られていること、一言も手紙をよこさず外国で暮らすダグラスの薄情さへの悲しみが綴られていた。その手紙を読んでなお、ダグラスはワイルドとの醜聞を書き立てた雑誌を訴え、ワイルドとの関係を否定し、彼を悪魔だったと証言した。

感想

「美しさは自由」と歌っていたワイルドがダグラスの美しさに囚われ、「人生は芸術を模倣する」という小説の一文を本物にするためかのように堕落していく。ダグラスが破滅に導いていると分かりながらも、「僕を俳優でいさせてくれた観客」と彼を呼び、悲劇を演じ切って罪を背負う。もはや自分を見捨てたダグラスに毎日手紙を書いて会いにきてほしいと届かない訴えを綴り続ける。小説と現実が混じり合い、「言葉によってしか芸術は立ち上がらない」と語るワイルド自身が発した言葉たちが呪いのようにワイルドを縛っていく。その緊張感が本当にすごかった。
ダグラスは我儘で自分勝手で弱くて美しくて愛おしくて、それがそのまま表れたかのような歌声で、破滅に向かうと分かっていても彼を見捨てることができないワイルドの気持ちが分かるような存在だった。

頻繁にセットを登場人物が動かす演出は、最近流行りのセットを登場人物が動かすやつね〜というくらいで効果を発揮していたかと言われるとそうでもないかもしれない。ワイルド役の人が大事めな台詞を2回噛んでてちょっと残念だった。歌も翻訳ミュージカルですねという感じの歌詞でした。
とにかく脚本が凄い。というよりはもはやオスカー・ワイルドの人生が凄すぎるのかもしれない。でもその脚本のワイルドが破滅へ向かっていくさまが音楽と歌声で緊張感を持って伝わってきて、ミュージカル作品でしかできない体験だったと思う。

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