心はいつも音楽と共に
「そういえば母は舟木一夫が好きだった」
という事をふと思い出し、ストリーミング再生で「舟木一夫プレミアムベスト2014」というアルバムを見つけ、スタートボタンをポチッとし
母の顔のすぐ横に置いた。
すると、音にハッと気付いた母は、まだ自分の力で動かせる黒目をスマホのある方に移動し、
そして次に私達の顔を見てゆっくり微笑んだ。
正確には「口角が微妙に上がった」だけなのだけれど、最近は顔の筋肉を動かすことすら難しくなっていた上に、コロナでなかなか思う様に面会出来なくなってからすっかり拗ねてしまっていたので、一年ぶりの笑顔だったし、
施設を退所して9日目にして、ようやく母としっかり目が合った瞬間でもあった。
一曲目は「高校三年生」。
顎が微かに震えているので、歌っているのだろう。
母の目に、みるみる光が宿っていくのが分かる。
二曲目からは我々三姉妹は全然知らない曲ばかりなのだが、母は間違いなく知っている様子で、新しい曲が始まる度に目を見開いて視線をスマホに向け
「ああ、次はこの曲なのね!」という表情をしている。
すごく楽しそうだし、こんな穏やかな表情の母を再び見る事が出来て、こっちも本当に嬉しい。
「いやぁ、高校三年生と銭形平次以外全然知らないや😅」
「え、でもお母さんは全部知ってるっぽいよ!多分お母さんは舟木一夫のドーナツ盤コンプリートしてるもん(笑)」
「そっかぁ、でも私はこの手の音楽の良さがまだ分かんないんだよなあ」
「でも口ずさみやすいのは間違いないよね!」
etc...ベッドの周りで娘たち(といってもいいオバサン笑)がわちゃわちゃ話しているのも、母は嬉しい様だ。
そして小一時間が過ぎ、アルバムの最後の曲が終わる頃になると、母の目がとろ〜んとしてきた。
「あらお母さん眠くなっちゃったみたいだね!笑って疲れちゃったかな?」
と話した数分後、母はす〜っと眠るように、そして驚く程穏やかに、旅立っていった。
ちゃっかりアルバム一枚ちょうど聴き終えて…ね(笑)
我々も昔聴いていた曲を聴くと、音と共に青春の頃の記憶がワーッと甦るのと同じように、
あの時母は大好きな音楽を聞きながら、その体中を、楽しくそして賑やかだった想い出が駆け巡っていたのだと思う。
その後母は口を開いたままだったので、閉じてあげようと
丸めたタオルを顎に挟んでみたり、枕をうんと高くしてみたりetc...家族も駆けつけた看護師さんも、色々手かえ品かえ努力してみたのだけれど、母は頑として口を閉じなかった。
多分ね、まだ歌いたいんだよ(笑)
なので、そのままでいいよねってなった。
頑固な母らしくて、それはそれでいいのかもしれない。
色々苦労の多い人生だったけど、音楽のおかげで最期笑顔で締めくくれて良かった。
音の持つ秘めたる力、なのかもしれない。
*
自分なら最期に何を聴きたいだろうなぁ…と思いながら帰路に着いた。
とりあえず家族には、
私は「In My Life」が好き
という事だけ、そのうち伝えておこっかなー…と思った。
***
あれから3年、ちょっと心境に変化。
「In My Life」も良いけれど、ジョージのシングルで一番大好きな「Love Comes To Everyone」もいいかなと。
晴れやかな気持ちで旅立てそうな気がして✨
どっちか迷うので、
迷った時は両方!多分どっちもになると思います(笑)
おしまい。