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小説 #09 アルジズと「プラムとイノシシ」の記憶

わたしは文芸エージェントをしていて、作家フェイ・フュー(FH)を長く担当している。FHは極めて謎多き作家で、その秘めやかにして豊かな地層からゆっくり滲み出してくる小説は、読む者をたちまち別の場所へ運んでしまう。

そのFHが書けなくなってしまった。ライターズ・ブロックは、この業界にあまねく蔓延した病である。誰でもかかってしまう。それでも、どの作家も、いつかは何とか治っていく。ところが、FHはとても怯えている。何かがおかしい、と。その上、ゴーストライターのソルを指名して、彼に助けてもらいたいと言う。

わたしの勘では、FHは何か大きな秘密を抱えていると思う。もちろん、それはわたしには明かされていない。ソルはそれを知ることになるかもしれない。

そんなことをあれやこれや思い巡らせていると、どこかから、誰の何時いつのともしれない記憶?それともただのイメージ?・・・そういうものがわたしをじわりと覆い始めた。文字通り、完膚なきまでわたしはそのイメージに被覆ひふくされてしまった。


昼間、プラムをいだ。立派な大きな木だ。
まずは、手を伸ばして届く範囲のプラム。
つぎに高いところの枝を引っ張り、少しでも手が届けばそれも捥いだ。

香りがいい。甘い香り。色も美しい、文字通りのプラム色。

熟れたやつは捥ぎやすい。すぐに取れる。
まだ完熟でないやつは、もう少し枝にくっついていたいのだろう、捥ぐ時にちょっと抵抗がある。

スーパーの袋に一杯くらいになった。まだ枝にたくさん残っているけど、手が届かない。
自然に落ちたやつが足元にたくさん散らばっている。踏んでしまいさえした。もったいないけど、しょうがない。

台所で一つずつ洗って、水気を拭いて、ポリ袋へ入れて冷蔵庫にしまった。
あと何日かはだいじょうぶだ。
お友達へあげよう。

そういえば、プラムの木の根元にイノシシが埋まっているんだった。
イノシシはもうとっくに土に還っている。チッソだかリンになって、プラムの栄養になっているはずだけど、そんなことを今日は思いもしなかった。

足元に落ちていたたくさんのプラムも6月の日差しですぐにでも土に還ってしまうだろう。そんなこんなで、なにもかもがすぐに姿を変えてしまうのだ。

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