世界遺産サンティアゴ巡礼路854kmを歩く -最期の時への想い/30日目-
●これまでの道のり
1日目 初日31km / 2日目 猛烈な筋肉痛 / 3日目 大自然の中で一人大泣き / 4日目 足の痛みと色眼鏡の妄想 / 5日目 痛恨のエクストラステージ / 6日目 後半、雨の中での迷い / 7日目 旅仲間との出会い / 8日目 誰かの玉ねぎを使うこズルい自分 / 9日目 心身追い込まれる中での不思議な感覚 / 10日目 タフな作家さんと歩きッコ / 11日目 仲間とゆっくり歩く日 / 12日目 作家さんの○歳の誕生日 / 13日目 アクシデント!出発点に戻る! / 14日目 初めてのヒッチハイク / 15日目 作家さんと歩きくらべ / 16日目 毎日歩くという日常 / 17日目 作家さんのいない日 / 18日目 電池切れで体調崩す / 19日目 体調不良で歩く中での自問 / 20日目 身にしみる人の優しさ / 21日目 歩かずに体を休める / 22日目 再開、今の一歩その瞬間に感じるモノが全て / 23日目 甘え心と体調不良の中の最長距離 / 24日目 追い込まれた後半の大事な時間 / 25日目 山越え / 26日目 きっかけは空海のお遍路 / 27日目 妄想で重くなる体 / 28日目 嫌っていた父へ感謝の芽生え / 29日目 巡礼者と交錯する一日
2014/3/21 Portomarín 〜 サンティアゴまで残り 92.3km
朝起きて窓からまだ薄暗い外を見ると、地面が濡れていた。
今日は雨だ。
はじめの頃は天気が安定しなかったが、ここ二週間以上は雨も降らず、天気の良い日が続いていた。
久しぶりの雨だ。
歩き始めてしばらくは降ったり止んだりだったが、少しづつ降っている時間が長くなっていった。
三時間ほど歩いたところでようやく小さな村にカフェがあった。
カウンターに座り、コーヒーと朝食代わりのパンケーキを頼む。
女性の店員は奥から出てきた時からケータイで電話していた。
電話をしながらこちらの注文に対応する。
昨晩、夜中に目が覚めたので、ベッドの中で父親に送るメールを作っていた。
コーヒーを飲みながら、その作りかけのメールを書き直したり付け加えたりする。
父親に対する思いが込み上げてきてまた涙が滲んだ。
一段落させ、会計をして店を出る。
入った時はいなかったお客さんが、出るときは巡礼者でいっぱいになっていた。
雨は段々と強くなってきた。
歩きながら送るメールの内容を思い返す。
父親に自分の気持ちをどう伝えるかを考えていると自分の気持ちも整理される。
父親に後悔のないよう、今後の人生を過ごしてほしい。
夫婦間で問題がある。
子供の自分には解決できない二人の問題。
だけど最期の時に憎しみを抱えたまま終わってほしくない。
自分もそうだ。
誰かを憎んで後悔しながら終わりたくない。
感謝の気持ちを伝え切れずに終わりたくない。
生きている限り、いろんなことが起こる。
気持ちいい感情も不快な感情も沸き起こるだろう。
でも最期の時は心を静かに迎えられたらいい。
以前は人生にはいつか終わりが来るということは頭ではわかっても自分が死ぬなんて実感がなかったし、想像もできなかった。
平均寿命で考えがちだったが、最近はなぜか自分がいつ死ぬかなんてわからないとよく感じる。
極端な話50年後かもしれないし、明日かもしれない。
だから、日々心の整理をしておきたい。
できること、やりたいことはやっておきたいし、伝えられることは伝えておきたい。
そんなことを考えながらまた涙した。
雨で冷たい。
靴がやや重くなり、靴下に水が滲みて冷たさを感じる。
ジャケットが濡れ、中のフリースも濡れている。
体が発する熱と雨の冷たさがジャケットの中で混ぜ混ぜになる。
顔に雨があたり冷たい。
風邪引くかな、どこで休めるかな、静かに思いは浮かんでくるが心は落ち着いていた。
雨の景色を見守りながら静かに歩いた。
途中、数件カフェの看板はあったが開いてなかった。
先ほどのカフェを出てからまた三時間ほど歩き続けていたろうか。
ようやく休めるカフェがあった。
近づいていくと、軒先きの下で昨日会ったイタリア人がタバコを吸って休んでいた。
よく雨の中歩いてきたといった具合に手をたたいて迎えてくれた。
店に入り、中で休むが寒い。
雨で濡れたシャツを着替える。
パスタを注文して待つ間、父親へのメールを確認、少し付け加えたりして、やっとメールを送ることができた。
温かい紅茶を飲み、パスタを食べて体が多少温まった。
カフェを出た時にはほとんど雨はあがっていた。
父親にメールを送って気持ちもすっきりした。
歩いていたら雲の向こうにぼんやり光が見え始めた。
雨、上がったなぁ。
距離的にもう少しで街かなというところで、向かってくる牛の行列に道を阻まれる。
先導していたおばちゃんがそこで待っていてと合図してくる。
牛がカドを曲がって通り過ぎるのを体を休めながら待った。
牛の後方にはそれを見張る犬が二匹ついていた。
最後の牛が曲がり角を通り過ぎていく中、後方にいた犬の一匹がこちらに歩いてきて足に擦り寄ってくる。
待ってくれてありがとうとでも言ってるのかな。
頭をなでてあげてからまた歩き始めた。
今日はあともう少しだな。
今日歩いた距離 30.3km
今日までの合計距離 792.4km
サンティアゴまで残り 62km
経由街 Portomarín – Casanova